フルート記事
kokoro-Neがお届けする〜フルートで彩る フィギュアスケートの世界〜

第22回|「Yesterday」

こんにちは! 2本のフルートとピアノのトリオ、kokoro-Neです。
世界選手権も熱戦でしたね。りくりゅうペア、宇野昌磨選手、坂本花織選手の優勝、素晴らしかったですね。個人的には、アイスダンスの上位10組+かなだいと、ジェイソン・ブラウンの隙のないプログラムに心から満たされました。

この記事が公開される頃には国別対抗戦とともにシーズンが終わる頃ですね。今シーズンもvol.22で一旦お休みに入りますが、5年目となる来シーズンの10月号以降も、フィギュアスケート音楽の魅力をお伝えしていきたいと思います。ご愛読の感謝を込めて、今シーズン大活躍の山本草太選手の「Yesterday」をご紹介します。

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マイケル・ボルトンの「Yesterday」

“「Yesterday」だけど、どう聴いてもビートルズじゃない・・・誰?” と、ググった人もいるかもしれません。

グラミー賞を受賞した「How Am I Supposed to Live Without You(通称:ウイズアウト・ユー)」や、ディズニー映画『ヘラクレス』の主題歌「Go the Distance」(※1)がよく知られて……

と言うと、あのハスキー&パワフルボイスと、草ちゃんバージョンの「Yesterday」が一気に繋がるかと思います。

アレンジはジョニー・マンデル。原曲からガラリと雰囲気を変えたカバーです。ピアノのイントロはkokoro-Neでも「Without You(※2) / Harry Nisonに似てない?」なんて話も出たくらい意外性があって、そこにハスキーボイスで「♪Yesterday♪」て入ってこられると「そー来るかぁぁぁー!!!!(^^)(←私の大好物)」となります。

原曲から離れ過ぎない範囲でコードがオシャレに色付けされていて、サウンド全体も緩急、楽器使いがかなりしっかり作られています。原曲へのリスペクトが溢れんばかりの力強く優しいヴォーカルもしっかり受け止められる強度があって、さらに引き立て、盛り上げ、包み込むようなサウンド。フェイク具合やフレーズ終わりの歌い方もマイケル・ボルトン節が炸裂していて、聴いていてニヤニヤしてしまいます。数えきれないほどある「Yesterday」のカバー(※3)の中でも印象に残る高い作品ではないかと・・・。

(※1)日本語吹き替え版では藤井フミヤさんが歌ってます。「日本人で初めてディズニー映画の主題歌を歌った!」と話題になりました。
(※2)マライア・キャリーのカバーも有名です。どちらもサビをオクターブ違いで歌う離業を披露するお見事なヴォーカルによる名曲です。ご興味あれば聴いてみてください。
(※3)事項でお話します!

「Yesterday」とビートルズ、ポール・マッカートニー

名盤中の名盤『Help』収録、「世界で一番カバーされた曲」でギネス入りも果たした無敵の名曲。
様々なジャンルのミュージシャンから愛され、数多くのカバーがあります。

名義はジョン・レノンとポール・マッカートニーの共作ですが、ほぼほぼポールが作ったと言われています。「彼女が去っていった」という歌詞の内容から、失恋ソングと思われがちですが、ポールが14歳の時に乳がんで亡くなったお母さん(※4)を偲んで書いたそうです。

この曲も「夢に出てきたフレーズから自然にできた」なんて天才的なエピソードがありますが(うらやま(*゚∀゚))、ビートルズはどの曲もキャラがクッキリしていて、よくもこれだけタイプの違う曲を作れるなぁ。と感心してしまいます。

幼少期の我が家は、父親がマッシュルームカットを真似するような典型的なビートルズ世代だったせいで、“生湯がビートルズ”のような環境でした。その中で無意識に気に入って歌っていた曲が
「Pany Lane」「Lady Madonna」「Hello, Goodbye」「Here, There and Everywhere」など……。
後にこれらがポールの作品だという事を知って、幼児まで撃ち抜くポールのソングライティング力の素晴らしさに気付くに至りました(ジョン、ジョージ、リンゴの曲も好きです)。

また、ポールはビートルズではヴォーカルの他にベースも担当しています。いわゆる「超絶」みたいなわかりやすい「上手い!」や、派手な「すごい」、グッとくるフレーズでグイグイ攻める自己主張ヌカりない系でもなく、バンドに溶け込んで楽曲を成立させる事に徹している「それ、ベストアンサー!」なタイプのベーシストなのかな。と感じます。平たく言うと、すごく聴音しやすいんです。ベースを演奏する人にはコピーしやすそうな。でもそれって、決して簡単ではなくて、バンドにおけるベースの教科書のような存在なんじゃないか。と、大人になって聴くようになりました。

ギター、ドラム、ピアノ、とバンドの楽器も一通り演奏するし、高さを感じさせずシレっと歌ってしまう高音ボーカルといい、多才で偉大なミュージシャンです。

(※4)ジョンも母親を早くに亡くしており、意気投合する一因になった、という話もあります。

山本草太選手 2021-23 SP

ジュニア時代からトップ選手として活躍していた矢先に、何度も大きな怪我に見舞われ、乗り越えて来た山本草太選手。その姿と「Yseterday」を重ねて樋口美穂子コーチが振付したプログラム。是非、歌詞を聴きながらご覧いただきたいです!

定評のある滑らかなスケーティングでぐんぐん加速して、Aメロ♪far away♪(フレーズの終わりの音が上がった所)で4T-3T。次の4S(※5)までに美しいイーグルや、♪Yesterday♪(←昨日までのような穏やかな日を信じてる、みたいな歌詞)で手を頭に置く振り付けで、もう泣きそうになってしまいます。

2本目のジャンプ4Sも1本目と同じメロディの位置。休む間もなくバタフライ(飛び上がって空中で水平姿勢になる)からフライングキャメルスピン。ポジションが変化して足を下ろすまでの演技が♪yesterday came suddenly.♪(突然の悲しみを振り返る感じ)歌詞とも合って見えます。

曲がサビに入ると、「♪Why she had to go?♪(なぜ彼女はいなくなったの?)」のフレーズをマイケル・ボルトンがこれまた魂の叫びのような歌い方をします。情感たっぷりな中、加速してサビの2回し目で3A→足替えシットスピン。ただでさえ、スピードの落ちないシットスピンに萌えてしまうのですが、歌詞とメロに寄り添うようなポジション変化がたまりません!

(※5)今シーズンは、昨シーズンより難易度の高いジャンプを組み込んだプログラムになっています。

 

ここまででスタオベしてしまいそうですが、さらに続きます。

2番のAメロはEs-Durに転調して、あざとく泣かせるギターソロ。ここから持ち前のスケーティング技術を活かしたステップが始まります。1フットでいくつも図形を描きながら、それでもスピードを落とさずぐんぐん進みます。随所に草ちゃんらしいポーズもあって、見惚れてしまいます。

再びGes-Durのヴォーカルに戻ったサビの振り付けが、切なく情熱的で、ミュージカルを観ているかのようです。

サビの2回し目で更にサウンドのボルテージが上がって、振り付け最後のスピンで曲が落ち着いて終わります(※6)。これからも怪我なく、元気に、素敵な演技を観られるのを楽しみにしています。

(※6)競技音源は編集されていますが、この後にもう1コーラスあって曲が終わります。

「Yesterday(マイケル・ボルトン)」のプログラム

パトリック・チャン 2009-10EX
地元であるバンクーバー五輪の1度だけしか披露されていない激レアだそうです!
ひたすら美しい!

アンダーヒル&マルティーニ(ペア)
1984年に世界選手権優勝など活躍したペア。世界プロフィギュア選手権が行われていた頃のプログラムのようです。マイケル・ボルトンの「Yesterday」のリリースが1992年なので、いち早くフィギュアに取り入れたプログラムかもしれません。

演奏動画

kokoro-Ne YouTubeチャンネル
 
 

今回は楽譜のご紹介はありません。

アレンジの話

2月に開催したフィギュアコンサートで演奏するために、楽譜を書きました。いつになく困ったのが「カバーのコピー」をしなくちゃいけない。ということです。通常のコンサートなら、ご本家・ビートルズの「Yesterday」をアレンジすればよいのですが、今回は草ちゃんプログラムのマイケル・ボルトン・バージョンの再現が必要でした。

ピアノのパートは聴音の延長でサクっと書けたものの、ネックはフルート2本の扱いです。
まず、歌詞に頼れない事がいつも以上に悩まされました。アレンジが全然違っても「♪Yesterday〜」歌詞で言ってしまえば、知らない人でも「おお、そうか!」となりますが、フルートはそれができません。

2つ目は、マイケル・ボルトン独特の歌い回しが非常にキャラが濃いこと。インストで完コピしてしまう聴く人によっては「おいおい、なに勝手なことしてるんだよ(#・∀・)」となりかねないですし、下手にハモりを付けて2人がかりで演奏してもマヌケになってしまいます。どちらか1人が無職になったりせず、この編成で演奏する意味を持たせることに非常に悩みました。

3つ目は、ビートルズや「Yesterday」を好きな方が多いこと。どう書いて、どう演奏すれば、原曲をこよなく愛する方にもご理解をいただけるか……などと下心まで湧き出してしまって、メンバーに「ほんとごめんm(_ _)m」と言いながら、本番前のリハーサルまで修正を重ねる状態でした。結果的に助けられたのはご本家の「Yesterday」です。初心に戻ってビートルズの音源を聴き直して、ヒントをもらいました。

コンサートでは、スケヲタの方には「草ちゃんバージョン!」と気付いていただけましたが、こういう場合の攻略方法を知りたいものです(笑)。

お知らせ

オリジナル曲やkokoro-Neカラーの強いアレンジものを中心にお届けする恒例の周年コンサート。
今回は、吉祥寺のStringsさんでの開催です。酒井麻生代さんのJAZZ店探訪記コーナーの第11回で特集されています。

kokoro-Ne 16th Anniversary Live @Strinsg(吉祥寺)
2023年7月9日(日)
Open 12:00〜 1st 13:00 / 2nd 14:15
(入れ替えなし、全曲異なるプログラムです)
MC ¥3,000(税込) + オーダー

 
 
 
 
 
 
 
 

kokoro-Ne(ココロネ)プロフィール

kokoro-Ne (ココロネ)
門井のぞみ・大和田真由・田仲なつきによる、2本のフルートとピアノのトリオ。
クラシックで培った確かな技術と表現力を基に、色彩豊かなアレンジやハイレベルな演奏で好評を博している。
2007年結成当初より、ジャンルを超えたレパートリーに挑みながらも、リズムセクションや打ち込みなどを敢えて加えず室内楽トリオの可能性を追求し続けている。
TPOに合わせた演奏を得意とする一方、CD・楽譜・オリジナル作品の発表にも力を入れており、オーディエンスはもとより多くのプレイヤーからも支持を得ている。
主な作品
・2009年 1st Album 「 kokoroーNe/ココロネ 」
・2013年 「 コンサートで使えるフルートデュエット曲集kokoro-Ne編 」(ドレミ楽譜出版社)初版以降も増刷を重ね、ロングセラーとなる
・2016年 2nd Album 「 Microcosmos 」
同収録のオリジナル曲「 ミクロコスモス 」楽譜出版
・2017年 楽譜出版「 kokoro-Ne Library 」を立ち上げ、これまでに30タイトルを超える楽譜を発表。続々と新作発表を控えている。

kokoro-Ne公式HP https://www.kokoro-ne.net/
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フルート奏者カバーストーリー


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