サックス記事 表現者 武田真治がサックスに託すのは “ただ一音” で与える衝撃度
THE SAX vol.42 Cover Story

表現者 武田真治がサックスに託すのは “ただ一音” で与える衝撃度

ミュージシャンとして、俳優・タレントとして、日本におけるサックスという楽器の知名度を一気に高めてくれているのが、今回本誌初登場となる武田真治氏だろう。スターの登竜門、今や全国から15,000通以上もの応募が集まるジュノン・スーパーボーイ・コンテストの第2回グランプリを受賞してデビュー後、数々の映画、テレビドラマなどに出演、その演技力は高く評価されている。一方でタレントとしてバラエティ番組にも出演するなどの幅広い活躍ぶりは、すっかり国民的な立ち位置と言えるだろう。もちろん、氏がテレビでサックスを吹いている姿もすでにお馴染みだ。
8月に開催される舞台「ロックンロール」への出演を控えている武田氏だが、この6月には、宝塚の元スター 安蘭けい氏のコンセプトライブ「箱舟 2010」において演技、歌、サックス演奏を披露。身体全体を使った音楽表現を繰り広げた直後、本誌のインタビューに答えてくれた。

Profile
武田真治(SHINJI TAKEDA)

公式サイト
http://www.horipro.co.jp/talent/PM008/

人物・楽器写真 : 土居政則


シーンによって使用楽器を変える

今日のコンサートでは、演技を交えてのサックス演奏、歌、ダンスと、かなりハードなパフォーマンスを繰り広げられましたね。
武田
でしょう? よかったぁ、大変さをわかってくれる人がいて(笑)。歌って踊ってすぐサックス吹くなんて観たことないからやってみてって演出家が求めるから。でもやってみたら楽しくて。お客さんも楽しんでくれるからやりがいがありますよ。
ステージではセルマー マークⅥを吹いていましたね。なぜその楽器を?
武田
マークⅥ を吹いたきっかけは、名器と言われているものに触れてみたかったというのがあるんです。使ってみたらこれが良かった、という後付け的なものですね。使ってみて、これはいいと思う部分は、キィが近いこと。それにマークⅥは管体そのものが軽いですから、温まりやすいと思うんです。今日もそうでしたが、舞台ではサックスを吹きっぱなしではないので、吹いてすぐに温まるということが必須条件。その点でもマークⅥが選ばれるのかなと思います。あと僕が使っている楽器でヤナギサワの A-9937 (以下 : シルバーソニック) がありますが、これは楽器そのものが重いのでなかなか温まらないんです。だけど、温まってからは F1カーみたいに威力を発揮するんですよね。僕が出演させてもらってる「新堂本兄弟」という番組では、ブラスセクションをサックス1本でやるときがあるんですが、そのときは割と音量やハードな音質のほうが合うだろうと思って、トーク・コーナーの間にシルバーソニックを温めておいてから使います。
シルバーソニックを手にしたきっかけは?
武田
以前、顎関節症をわずらってサックスが吹けない期間があったんです。その後もう一度始めたくなったときに、次の楽器は一生ものだなと思って。当時の僕にとってシルバーソニックは高い買い物だったけれど、自分にとって徹底的に後戻りできない状況というか、自分にいいものを与えておきたいと思ったんです。その前は主にテナーを吹いていたんですが、ステージングを要求される舞台でテナーを吹くには、僕の体は細すぎた。テナーでステップを踏むのは180cmくらいの身長がないと無理だなと、勝手に思っています。今は間違いなくアルトが僕に合っていて、ヴォーカルで言うとエアロスミスのスティーブン・タイラーのように、男性としてはキーが高い、そういう部分に憧れもあるのでね。それから、エレキギターとやりあう現場も多くあって、それもアルトがいい気がしますね。
マウスピースについてはいかがでしょうか。
武田
そうですね……、今日は “THE SAX” のインタビューということで、何か読者のためになることが伝えられたらと思って来たんですが、“サックスの達人からのアドバイス” ではなく、“こんな失敗はしなくていい!” という方向で、僕の遠回り談を話してみましょうか(笑)。
僕は “THE SAX” のような専門誌で情報収集をすることが下手で、今になってみれば顎関節症にならないようにする吹き方も、初心者用のハウツー本で研究すれば良かったのに、と思ってるんです。メタルのマウスピースを使おうにも、開きやオープニング、いろいろ種類があると知らず、「メタルだから何でも同じでしょ」と思って使っていました。メタルと言えば「デュコフ」を買えばいいんだと。そしたらまんまと自分に合わないものを買ってしまったみたいで、それをやみくもに吹いていたことは、後の顎関節症の原因のひとつでしょうね。使い始めたのが中学3年くらいでしたから、あごもできあがっていなかったんだろうし。でも、あのとがった音が出したかった。ハードラバーでは、クラウドレイキーが案外太くていい音が出て、ハリソンのリガチャーを合わせたら良くて、しばらくその組み合わせを使っていました。
今はヤナギサワのマウスピースを使っていますね。
武田
ヤナギサワのマウスピースは今3本持っているんですが、どれも形が違っていて、楽器それぞれに使い分けてます。また、あごの治療と共に筋トレを勧められて、体力が変わってくるとマウスピースも変えないとダメみたい。年を重ねるとまた違ってくると思いますけれどね。

衝撃的な出会いで新しい自分への扉が開く

 
武田
ヤナギサワのマウスピースを使い始めたきっかけは、シルバーソニックを作ってもらったとき。マウスピース職人の島田行男さんに「どういう音が出したいんだ?」と聞かれたんです。僕はテレビでサックスを吹いて目立ってしまっているけれど、サックス奏者というジャンルに属さずにきたから、先輩も後輩もいなくて本当に何もわかってなかったんですね。そのくせ、何でも知ってるつもりでいた。特にそのころは、体調を崩した後だったこともあり、「力入れて試奏しちゃってるけど、こういう音が出したいんじゃないの?」って言われて、渡されたマウスピースを吹いてみたら「そうそう、これこれ!」って。でも、少し疲れると話したら、「じゃあこれでどう?」なんて次々に渡されて、相談に乗ってくれたんです。すごい!と思いました。また、楽器のメンテナンスをしてくれる鈴木武雄さんも最初はとても怖かったけど、この人たちは無駄に鼻っ柱が強かった僕にいろんなことを教えてくれました。なんていうか……、そう、「スターウォーズ」で、ルーク・スカイウォーカーがヨーダに出会ったときみたいに! 「僕、何もわかってなかったんだ……」と。サックスにこんなにまっすぐに向き合っている人たちがいるのに、僕はいいとこ取りしようと思っていたんだなと思いましたね。そんなこともあって、ヤナギサワさんには絶対の信頼をおいています。僕も何かを返さなくちゃと思うんだけれど、彼らは何か欲しいわけじゃないんですよね。僕らが活躍した現場にヤナギサワがあれば、それで喜んでくれる。サックスをやり続けたいモチベーションがひとつ増えました。
ところで、あごを壊されたというのはいつごろですか?
武田
20代の後半だから、10年くらい前かな。実際に音を出していなかったのは2年くらいですが、自分にとってはものすごく長く感じました。じゃあ俳優業をがんばろうと思っても、不思議とそっちもダメになっちゃうんです。何もできないというか、性格も卑屈になってしまって、同世代がすごい勢いで仕事してるのに何で僕だけショーレースから振り落とされなくちゃいけないのかと、本当に神様を呪いましたね。そう思っているうちは身体の調子もまったく良くならなくて。
何がきっかけで、再開されたのでしょうか。
武田
あごを壊して1年くらい経ったころかな。俳優の竹中直人さんがお酒を飲もうと誘ってくれた時、「忌野清志郎さんに会ったことある?」と聞かれたんです。ないなら会わせてやると、そのまま清志郎さんのスタジオに連れていってくれました。清志郎さんは僕を見て、「君、サックス吹ける子だよね? 俺も吹くんだよ」とサックスを持ってこられた。「すぐにリードを噛み切っちゃうから、プラスチックのリードを勧められたんだよ」なんて言いながら吹いてくれたんだけど、清志郎さん、犬が硬いガムを噛む時みたいにギュ〜っと、ほぼ奥歯でマウスピースを噛んで吹いてるんですよ!…… 反面教師という天使が現われたんですね、きっと僕もこうだって思いました(笑)。でもこれはまずいと思って、清志郎さんに「その吹き方だとあご壊しますよ」と話したら、「でも名手はこうやって吹いてたよ」と言うので、おそらくデヴィッド・サンボーンのことだと思うんですが、それにしても噛みすぎですよと(笑)。そしたら、吹いてみろと楽器を渡されて、清志郎さんはエレキギターを出してきた。ギターを刻んでくれたところになんとかサックスを乗せて吹くことができたんです。それが清志郎さんも嬉しかったみたいで、その後1ヶ月くらいして清志郎さんから電話がかかってきて「バンドに入らないか」と。それが、“ラフィータフィー” というバンドで、『夏の十字架』という作品から参加し始めました。あの瞬間、ロッカーとしての面接に受かったような気がしてます。
清志郎さんが48歳で、ベースとドラムも同年代の方で、「おっさんのバンドに若者が一人いる感じは、僕らにとっても君にとっても悪くないだろうから、一緒に全国ツアーをまわってみないか」と。僕はイントロや間奏も演奏するソロイストとして誘われたんですが、まだあごが完治してないから全然吹けなくて。僕が休む曲も用意してくれたぐらいなので、これは役に立てなくちゃ男じゃないなと思いました。「短い時間でインパクトのある演奏を!」ってね。
清志郎さんとご一緒させていただいて、人には音楽でしか開放できない部分があるってことを知って、難しいことなんてくそくらえと思いました。もちろん、自宅ではいろいろやっているんだけど、それは下ごしらえの部分にしか過ぎなくて、人前に立つならその部分をいつでもかなぐり捨てるハートを持って、一歩前に出なくちゃいけないんだと。
それはこの上ないきっかけというか、すごいエピソードですね。

 


次ページにインタビュー続く
・衝撃的な出会いで新しい自分への扉が開く
・少年の心を虜にしたテレビの中の出来事
・武田真治氏の所持楽器
・表現者として、今、思うこと

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