サックス記事

vol.11「指揮が僕の音楽人生に与えてくれたもの」

THE SAX vol.33(2009年1月25日発刊)

最近のスガワ

THE SAX 読者の皆さん、こんにちは。読者の皆さん、こんにちは。
新しい年を迎えましたが、一年の計は立てましたか? 
僕は今年も、たくさんのステージのひとつひとつを精一杯務めて、素晴らしい音楽を奏でていきたいと思っています。
早速ですが3月14日(土)に、僕も大好きなトッパンホールで久しぶりのリサイタルを行ないます。トッパンホールが主催する人気リサイタルシリーズで、その名も<大人の直球勝負>! いいタイトルでしょう? ピアニスト 宮谷理香さんとの共演で、皆さんがよくご存じのガーシュウィンやピアソラ、ドビュッシーなどの名曲を演奏します。ぜひ聴きにいらしてください!
お互い、今年も充実したサックスライフを送れるよう元気に過ごしましょうね。

 

 

指揮が僕の音楽人生に与えてくれたもの

さて、前号に引き続き、“指揮”の話をしましょう。
ヤマハ吹奏楽団クリスマスコンサートを終え、翌年の4月頃までは演奏活動に没頭、いよいよ5月後半から「ヤマハ吹奏楽団カナダツアー」という一大イベントの練習が始まりました。

その直前に僕は、豪華客船「飛鳥II」での演奏で乗船していて、演奏時間以外は後に控える本番のための練習をしたり、自分の部屋にあった大きな鏡を見ながら指揮の練習がいっぱいできました。何より、気持ちに余裕があったのが幸いしたのかもしれません。ヤマハ吹奏楽団の練習が始まると、指揮者という感覚ではなく、「自分はみんなと一緒の立場で音楽を作っていくんだ、みんなの良い音をいっぱい引き出していこう」という気持ちになっていたんです。練習は良い調子で進み、スタッフの方にも「指揮が生き生きしているし、音も変わった!」と言っていただけました。それはとても嬉しい言葉で、練習にも熱が入り、そのままの勢いでいよいよカナダツアーが始まりました。

ツアーはとてもキツいスケジュールでした。というのも、ヤマハ吹奏楽団のメンバーは普段楽器を作っている人がメインですから、長く留守にされると楽器製造ラインが止まってしまう。これは大変なことですよね。猶予は一週間、その中で3回の本番はかなりハードでしたが、2,000人ものお客さんの大歓声を受けて、僕にとっても彼らにとっても大きな飛躍となりました。
その期間中はずっとテレビの取材が同行していたんですが、僕へのインタビューで「須川さんは何かを打ち破ったでしょう? それは何ですか?」と聞かれたんです。それで僕ははっとしました。
「指揮している時、僕はサックス吹きであるということを忘れて、音楽に没頭していた」。

それ以前は、「僕はサックス吹きだけど指揮もしている」という気持ちがどこかにあって、それが音楽に出てしまっていたと思います。サックスだったらもっと伝えられるのに、指揮では難しいと思ってしまっていることが、団員のみんなにも伝わっていた。でも、カナダツアーの練習や本番の時には、指揮法がどうこうよりも「一緒に音楽を作っていくんだ」という気持ちが前面に出ていたんでしょう。確かに、指揮をしている時に、自分はサックス吹きだということを忘れていたんです。

思い返してみたら、以前は音楽を伝えるために敢えて一切サックスを使わないようにしていました。僕はサックス吹きだから使ったほうが伝えるのに楽だけど、団員にとっては僕は指揮者なんだからと……。でも今は、そんなこだわりを超えたところで音楽を作っていけるようになりました。僕が本当に伝えたいことを解ってもらえるように、時には指揮棒で、時にはサックスを吹いて伝えています。

そして奏者として、例えば佼成のレコーディングで、録音したものをチェックするために聴く時には「あ、今はコンサートマスターとしての耳を使ってオケを聴いている。指揮の時とは違う」と感じる。 “音楽を感じるアンテナ”が多方向に広がりました。
指揮者の役割を語れるほど、決して一人前ではありません。でも、指揮者がひとりの音楽家としてみんなと一緒にひとつの音楽を作っていくというのは、ソリストとしてコンチェルトを吹くのに似ていると思います。コンチェルトの時は、オケに「こういうふうにやりたいんです」とサックスで伝える。指揮者として前に立つときは、その手段を指揮棒に変えて伝えていく。

指揮の活動は、僕をサックス奏者としてだけでなく、ひとりの音楽家として成長させてくれています。僕は今までにサックス奏者として、自分なりに大きな目標・区切りを作って活動してきました。例えばここ数年で言うと、活動20周年のときには佼成との共演で吹きまくりましたし、2年前には東フィルとの共演で僕が委嘱してきたコンチェルトを集めたリサイタルを、昨年は東響との共演でオペラアリアを集めたアルバムや佐渡裕さんの指揮のもとコンチェルトのアルバムを発表しました。「さて次は何に挑戦しようか」と考える時、奇をてらったような企画を思いつくのではなく、より音楽を深く感じ、突き詰めていってみようと考えるんです。

これはひとつ、指揮という素晴らしい体験の中で、新たに気付かせてくれた音楽の感じ方、接し方がきっかけになっていると思います。
さて、これから僕はどんなサックスを奏でていくのか。皆さんもお楽しみに、そして応援していてくださいね。

 

※このコーナーは、「THE SAX」誌で2007年から2015年にかけて連載していた内容を再編集したものです

次回のテーマは「楽器と仲良く!」。
楽器を良い状態に保ち、チャレンジ精神をもって練習することが大切です!

 

須川展也 Sugawa Nobuya

須川展也
須川展也
日本が世界に誇るサクソフォン奏者。東京藝術大学卒業。サクソフォンを故・大室勇一氏に師事。第51回日本音楽コンクール管楽器部門、第1回日本管打楽器コンクールのいずれも最高位に輝く。出光音楽賞、村松賞受賞。
デビュー以来、名だたる作曲家への委嘱も積極的に行っており、須川によって委嘱&初演された多くの作品が楽譜としても出版され、20-21世紀のクラシカル・サクソフォンの新たな主要レパートリーとして国際的に広まっている。特に吉松隆の「ファジイバード・ソナタ」は、須川が海外で「ミスター・ファジイバード」と称される程に彼の名を国際的に高め、その演奏スタイルと共に国際的に世界のサクソフォン奏者たちの注目を集めている。
国内外のレーベルから約30枚に及ぶCDをリリース。最新CDは2016年発売の「マスターピーシーズ」(ヤマハミュージックコミュニケーションズ)。また、2014年には著書「サクソフォーンは歌う!」(時事通信社)を刊行。
NHK交響楽団をはじめ日本のほとんどのオーケストラと共演を重ねており、海外ではBBCフィル、フィルハーモニア管、ヴュルテンベルク・フィル、スロヴァキア・フィル、イーストマン・ウインド・アンサンブル、パリギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団など多数の楽団と共演している。
1989-2010年まで東京佼成ウインドオーケストラ・コンサートマスターを22年余り務めた。96年浜松ゆかりの芸術家顕彰を表彰されるほか、09年より「浜松市やらまいか大使」に就任。2016年度静岡県文化奨励賞受賞。
サクソフォン四重奏団トルヴェール・クヮルテットのメンバー。ヤマハ吹奏楽団常任指揮者、イイヅカ☆ブラスフェスティバル・ミュージックディレクター、静岡市清水文化会館マリナート音楽アドバイザー&マリナート・ウインズ音楽監督、東京藝術大学招聘教授、京都市立芸術大学客員教授。
 
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