サックス記事
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田中靖人 6月にヤマハホールでリサイタルを開催 自身のために書かれた作品の数々を披露

THE SAX vol.100|6月13日(土)東京・銀座

デビューから32年、つねに第一線で活躍し続けるサクソフォン奏者、田中靖人さんが6月にリサイタルを開催する。これまでの歩みの中で生まれた委嘱作品、編曲作品から選りすぐりの楽曲を並べ、自身のすべてを全開にして取り組むという田中さん。その意気込みを大いに語っていただいた。
(写真:橋本タカキ/取材協力:ヤマハホール)

委嘱・編曲作品は作曲家からいただく宝物

田中靖人
今回のリサイタルのテーマは、ズバリ何ですか?
田中
僕は若いころから「サクソフォンの新しい作品を書いてもらいたい」という思いがあって、たくさんの作曲家にお願いしてきました。振り返ってみたら、僕のために書いていただいた楽曲がたくさんあるなと。それで、今回はその中から演奏したい曲を絞ってプログラムを組みました。言うなれば、ベストレパートリーをチョイスしたリサイタルですね。
委嘱作品、編曲作品が並んでいますね。
田中
オリジナルが2曲、アレンジしたものが4曲です。リサイタルは曲順も重要なので、いろいろと思案しました。
まずは長生 淳さんに2007年に編曲してもらった、アルベニス『セビーリャの聖体祭』から始まります。これは静かに始まる曲ですが、行進曲風なので意外なスタートで面白いかもしれないと1曲目に置きました。
2曲目は、ドビュッシーの『小組曲』。原曲はG-durで始まるけれど、長生さんの編曲は半音高いAs-dur。ドビュッシーの色よりも、温度がグッと上がるアレンジになっています。
作曲家に委嘱や編曲をお願いする際、気をつけていることはありますか?
田中
自分が要望するリクエストがある時は、しっかりイメージが伝わるようにお願いします。面白いのは、作曲家の方がこのイメージを的確に捉えた上で、ご自身が考えるテイストを加えてくださることです。僕が要望したものが意外な形で出現することもあり、期待以上の作品に出会う楽しみがあります。作曲家が書き上げた楽譜を受け取る時は、ものすごいプレゼント……“宝物”をいただいたような感覚になりますね。
演奏家にとって、新しい曲と出会うことはこの上ない喜びですね。
田中
その通りです。偉大な作曲家に、「サクソフォンの曲を書いてください!」とお願いするのは、とても勇気がいることです。でも、自分から発信しないと何も始まりません。ですから、僕はたくさん委嘱をお願いしてきました。それがサクソフォンの未来に繋がると信じているし、演奏家の使命のひとつだと考えています。
そうして、多くの作品と出会ってきたのですね。
田中
作品はもちろん、素晴らしい作曲家との出会いもありがたいことだと感じています。今回のリサイタルで演奏する曲を書いていただいた長生淳さん、田村文生さんとの出会いは、僕にとって貴重な財産です。お二人には、これまでにたくさんの作品を書いていただきました。何度もお願いしているうちに、僕の演奏スタイルはもちろん、どんなメロディを書くと僕のサクソフォンが活きるのかを理解してくださり、その上で楽曲を書いているのが分かります。演奏家として、こんなに嬉しいことはありません。

前半はじっくりと、後半はリラックスしながらもグッとくる曲を

田中靖人
今回のプログラムはオリジナルが2曲、アレンジしたものが4曲ですね。
田中
はい。リサイタルは曲順も重要なので、いろいろと思案しました。まずは、長生淳さんが編曲したアルベニスの作品から。これは静かに始まる曲ですが、行進曲風なので意外なスタートで面白いかもしれないと1曲目に置きました。
2曲目は、ドビュッシーの『小組曲』。原曲はG-durで始まるけれど、長生さんの編曲は半音高いAs-dur。ドビュッシーの色よりも、温度がグッと上がるアレンジになっています。
3曲目に、長生さんのオリジナル作品がありますね。
田中
『変奏曲』という作品で、2001年に書いてもらいました。当時、僕はテーマが変容していく“変奏曲”に興味を持っていたので、長生さんにリクエストして誕生した作品です。温かく優しいメロディのテーマから始まって、ポップになったり現代音楽風に複雑になったり、バリエーションがハッキリとわかるので、初めて聴く人にも入り込みやすい音楽だと思います。  ところが、演奏者にとっては難しい曲なのです。フラジオの音域も出てくるし、高度な技巧も必要。なにより、実は楽譜に細かい指示が書かれていないのです。ダイナミクスや道標になるような指示がほとんどなく、テンポ表示もありません(笑)。
奏者に委ねられているのですね。
田中
はい。自分でテーマを音楽的に作って、そこから発展させていきます。作品が生まれた当時は、長生さんと話しながら楽曲を組み立てました。作曲家と共に作りあげる作業が楽しくて、譜面に書き込むのを忘れていたみたいで(笑)。今はそれを思い出しながら取り組んでいます。今回のメインと言ってもいい作品です。
プログラムの後半は、田村文生さんが編曲したガーシュインから始まりますね。
田中
前半がじっくりと聴いていただく曲を並べたので、後半は少しリラックスしてもらえる曲を選びました。ただ、これがリラックスしながらもグッとくる曲ばかりなんですよ。  田村さんによる、吹奏楽コンクールの課題曲『饗応夫人-太宰治作「饗応夫人」のための音楽』という作品が、僕にとって衝撃的でした。その後、ご本人からサクソフォンも低音楽器も好きだと伺い、バリトンサクソフォンの作品を委嘱したのが始まりで、多くの楽曲を書いていただいています。今回演奏する『3つのプレリュード』は、ちょっと過激な編曲です。シリアスな雰囲気に聴こえるけれど、実はコミカルな要素を散りばめてある。突然『ラプソディ・イン・ブルー』が始まったと思ったら、同音連打が続いてなかなか終わらなかったり(笑)。田村流にガーシュインの幅を広げている作品です。
その次は、長生さんのオリジナル曲ですね。
田中
『ユア カインドネス』は、2003年にリリースしたアルバム「ガーシュイン カクテル」のために書いてもらいました。ガーシュインの作品のモチーフやフレーズを使って書いてほしいとお願いした楽曲です。とても重たく悲しい雰囲気の中、盛り上がってきたところに『サマータイム』のメロディがじわーっと出てきて、最後は静かに消えるように終わります。華やかな曲が続くので、ここで空気を変えようと思って入れました。

憧れのジプシーバンド、憧れのヴァイオリン

最後の曲は、ヴァイオリンが加わるそうですね。
田中
はい。この曲は、僕の憧れが形になった作品です。実は、昔からハンガリーのジプシーバンドが大好きで、いつか自分でも演奏したいと考えていました。ジプシーバンドには、ヴァイオリンを中心に、ターロガトー(木管楽器。木製だが、形はソプラノサックスに近い)やツィンバロン(スチール弦をバチで叩く打弦楽器)といったハンガリーの民族楽器が集まります。モンティの『チャルダッシュ』、ブラームスの『ハンガリー舞曲』、リストの『ハンガリー狂詩曲』やコダーイの『ハーリ・ヤーノシュ』など、ジプシーバンドが演奏する曲をメドレーにしてほしいとリクエストして、この曲が誕生しました。
なるほど。それでヴァイオリン、ピアノ、サックスというめずらしい組み合わせでの演奏なのですね。
田中
はい。この曲では、ヴァイオリニストの大森潤子さんに登場していただきます。『チガイノワカルYJ』は、2008年に長生さんに編曲してもらいました。曲名の『チガイノワカルYJ』のYは靖人、Jは潤子さんから取っていて、この曲名を早口で何度か言うと、楽曲の冒頭に出てくるサラサーテの『ツィゴイネルワイゼン』になる……という、長生さんらしいタイトルの付け方になっています。
ハンガリーのジプシーバンド風の音楽になるようにお願いして書いてもらいました。
僕にとってヴァイオリンは憧れの楽器。なんとも言えない音色の変化が素晴らしくて、一緒に演奏しているとヴァイオリンの音の中に溶け込んでいきたくなります。弦楽器の倍音を含んだ音色は、サクソフォンの音作りにも非常に勉強になります。実は、僕の自宅にあるCDはチェロとヴァイオリンが圧倒的に多くて、サクソフォンのほうがずっと少ないくらいです(笑)。
ピアニストの白石光隆さんとのアンサンブルが楽しみですね。
田中
白石くんは僕と同じ年齢で、学生のころから顔見知りでした。彼のピアノスタイルはとても魅力的で、ぜひ一緒にやりたいと共演をお願いしたのが25年以上前かな…… 以来、ほとんどのリサイタルは彼と演奏しています。僕がこうしたいと言えば、彼はずっとそれにつき合ってくれる。本番で全然違うことをやっても、なびいてくれる。そういう即興的な面白さは、長年やっているからこそ。まさに、あうんの呼吸ですね。音で自由に会話ができる人です。

演奏者と聴衆が音楽の楽しみを共有できる空間

田中靖人
吹奏楽やカルテットなど様々な形態で活躍されている田中さんですが、ソロリサイタルは何か特別な点がありますか?
田中
吹奏楽やオーケストラのような大編成では、自分の存在を隠す場面も出てきます。もちろん主役になる時もあるけれど、場合によっては背景になり、どこにいるのかわからないけれど、いないと困るような役割をするのです。
それに対して、ソロの場合、自分のすべてを見て聴いてもらいます。全部の音がしっかり生きている音楽になるので、緊張度は高いです。それだけにワクワク度も高い! すべてにおいてテンションが高くなるのがソロリサイタルです。準備段階では、音楽の方向性や楽器の技術的なことも含めて、時間をかけて細かい練習を積み重ねます。さらに、当日は即興性が出せるよう、自分の中に余裕を持たせるくらいの練習が必要です。今回は久しぶりに演奏する曲が多いので、まずはじっくり向き合って練習。そして、だんだんと自由にいろいろな表現が解き放てるようにしていきます。当日、僕の即興に応えてくれる白石くんがいますからね!
会場となるヤマハホールは、響きが豊かなホールですね。
田中
軽く音を出すだけできちんとお客さまに伝えてくれる、演奏者を助けてくれるホールです。サクソフォンというよく響く楽器にはぴったりですね。僕は観客として聴いたこともありますが、舞台でも客席でも同じ印象を持ちました。この空間で、演奏者と聴衆が一緒に音楽の楽しみを共有できます。舞台からお客さまの顔がよく見えるのも良いですね。
では最後に、読者へメッセージをお願いします。
田中
東京でのソロリサイタルは8年ぶりとなるので、特別な気持ちで取り組んでいます。今からテンションが上がっているので、この姿を見に来てください。サクソフォンと田中靖人のすべてを全開にします! トークもふんだんにありますので、ぜひ遠くからもいらしてください(笑)。

Concert Information

珠玉のリサイタル&室内楽
田中靖人サクソフォン・リサイタル

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[日時] 6月13日(土) 開演14:00
[場所] ヤマハホール(銀座)
[料金] 全席指定 一般4,500円、学生3,000円
[出演] 田中靖人(Sax)、大森潤子(Vn)、白石光隆(Pf)
[曲目] イベリア 第1集よりセビーリャの聖体祭(I.アルベニス:長生淳編)/小組曲(C.ドビュッシー:長生淳編)/変奏曲(長生淳)/3つのプレリュード(G.ガーシュウィン:田村文生編)/ユア カインドネス(長生淳)/チガイノワカルYJ(長生淳編)

■問合せ:ヤマハ銀座ビルインフォメーション
03-3572-3171(11:00〜19:30/第2火曜定休、3月31日臨時休業)

登場するアーティスト

田中靖人
Yasuto Tanaka

1964年和歌山市に生まれる。 国立音楽大学在学中、第1回日本管打楽器コンクール第2位、第4回日本管打楽器コンクール第1位を受賞。 1990年東京文化会館でデビューリサイタルを開催。以来、国内外でリサイタルなど幅広い活動を行なっている。東京交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、神奈川フィルハーモニー管弦楽団、札幌交響楽団、名古屋フィルハーモニー交響楽団、仙台フィルハーモニー管弦楽団など、ソリストとしてオーケストラとの共演も多数。 2000年より(一財)地域創造主催の「公共ホール活性化事業」のアーティストとして、リサイタル、アウトリーチ コンサートも意欲的に行なっている。2003年和歌山県より「きのくに芸術新人賞」を受賞。 ソロ・アルバムに、1991年「管楽器ソロ曲集・サクソフォーン」(日本コロムビア)、1995年「ラプソディ」(EMI music japan)、1997年「サクソフォビア」(EMI music japan)、2003年「ガーシュイン カクテル」(佼成出版社)、2012年「モリコーネ パラダイス」(EMI music japan)をリリース。 また、サクソフォーン四重奏団 トルヴェール・クヮルテットのメンバーとして活躍し、これまでに10枚を超えるアルバムをリリース。2001年文化庁芸術祭レコード部門“大賞”を受賞。 現在、東京佼成ウインドオーケストラコンサートマスター、国立音楽大学、愛知県立芸術大学、昭和音楽大学、桐朋学園大学各講師、札幌大谷大学客員教授、名古屋音楽大学客員教授。