サックス記事 当代随一のスター・サックスプレイヤーが新作を携えて4年ぶりに来日!
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THE SAX vol.118 Interview

当代随一のスター・サックスプレイヤーが新作を携えて4年ぶりに来日!

ARTIST

プロ、アマチュア問わず、日本のサックスプレイヤーからもフェイバリットとして名前を挙げられることが多いカーク・ウェイラム。ジャズ、フュージョン、スムースジャズ、R&B、ゴスペルなど、様々なジャンルを消化した懐の深い音楽性と飛び抜けた演奏技術、そして高いエンターテインメント性も兼ね備えた真のスタープレイヤーと呼べる存在だ。そんな彼がコロナ禍を経て4年ぶりに、それも新作を携えて来日を果たした。

インタビュー・文:櫻井隆章
取材協力:株式会社ブルーノート・ジャパン/株式会社キングインターナショナル
Top Photo & Live Photo by Makoto Ebi

ホイットニー・ヒューストンのTVライブ中に折れたネック

あなたは、この新しい楽器にもこのネックを支える金属棒いわゆる支柱を付け加えていますね。それを発想した経緯を教えてください。
カーク
あぁ、ある事故が発端なんだよ(笑)。まだ、ホイットニー・ヒューストンが元気だった頃に、彼女のバックとして人気テレビ番組である「サタディ・ナイト・ライブ」に出演したんだ。彼女は『アイム・ユア・ベイビー・トゥナイト』を歌ったんだが、その最中に僕のサックスのネックが折れたんだよ。生放送の最中に、だよ?(苦笑)。ホント、あれには困ったな。その後は、あの番組のミュージカル・ディレクターでもある(元タワー・オブ・パワーの)サックス奏者のレニー・ピケットが彼のサックスを貸してくれて事なきを得たんだが、あれは良い教訓になったな。だから、そんなことが起きないようにと、あのネックの支えになるパートを付けてもらったんだ。それもあって、このネックは重くなったんだよ(笑)。
愛用のP.モーリアのテナーPMXT-66RBX 20th Anniversary 2023 Limited Edition
 
ネックに取り付けられた支柱
マウスピースはJody Jazz Hand-Hammered HH Tenor 8☆
リードはThe Boston Sax Shopの4
 
 
なるほど。楽器には信頼性も大事ですからね。で、今回の来日メンバーのことを教えてください。
カーク
あぁ、そうだね。今回のメンバーの中でも、キーボードとヴォーカル担当のジョン・ストッダートとは、もう長い付き合いになっている。ベース&ヴォーカルのブレイロン・レイシーや、ドラム&ヴォーカルのマーカス・フィニーともそうだ。このメンバーは、来日経験も多いんだよ。で、もう一人、唯一の女性であるギター&ヴォーカルのアンドレア・リサだけは、今回のツアーが日本初体験なんだ。彼女は、育ちはニュージーランドなんだが、出身は実は南アフリカでね。気が付くと思うけど、僕のキャリアには、南アフリカ出身の人たちが多いんだ。何故だかは判らないけどね(笑)。
 
こう話していたところに、取材場所であるブルーノート東京の楽屋に、そのアンドレアが登場。すかさず話しかけた。
 
アンドレア
あぁぁ、もう最高よ!
と言って、両手を胸のところに当てた。いわゆる「キュン!」ポーズである。余程、初めての日本体験が楽しいのであろう。こちらとしてもホッとする。まだまだ若い彼女、ルックスも非常にキュートで、実にユニークなギター・プレイとヴォーカルを披露していた。早くもソロ・アルバムを出している注目の存在だ。で、カーク・ウェイラムである。当方、このインタビューの前日にライブを観ていた。その際に気になったことが。

ソプラノはあらゆるところから音が鳴るからスタンドマイクで吹く

 
ライブでは、テナーを吹く際にはワイヤレスマイクを付けて、それこそ場内一周とかしていましたよね? でも、ソプラノを吹く際にはステージに立ててあるマイクを使いました。その理由は何ですか?
カーク
あぁ、テナーは、音が出るのは間違いなくベルのところからだ。だけど、ソプラノは、楽器のあらゆるところから音が鳴る仕組みになっているだろ? だから、一か所にマイクを付けたのでは楽器から出るすべての音を拾うことができないんだよ。なので、スタンドマイクに向かって吹く必要があるんだ。さらに、ソプラノにもワイヤレス・マイクを付けていたのは気が付いただろ?
はい、観ていました。もう、日本公演も回数を重ねたと思いますが、日本のお客さんの反応は如何ですか?
カーク
日本に来た回数は、ちょっと数えられないな(笑)。もう、いつでも思うけど、日本の、特に東京のお客さんは最高だね! まず第一に、音楽に対する熱意や敬意、それに深い知識といったものを感じるんだよ。ステージで実際にプレイしていて、それを感じるんだ。あぁ、このお客さんたちは音楽を判っているなってね。僕たちが良いソロをプレイできた時には、素早く熱心な拍手をくれる。で、正直に言うと、そこまでではないソロを繰り出した時には、あんまり熱心じゃない拍手が来る、というわけさ。
本当に音楽が判っているな、というね。だから、逆に言うと東京のお客さんたちは世界でも一番怖い批評家たちかもしれないね(笑)。これは、僕に限らずアメリカのジャズ・ミュージシャンは誰もが言っていることだ。あ、それと、もう一つ付け加えたい。日本のお客さんたちは、我々アーティスト側に対しての敬意が半端ないと思う。実に僕らに対して手厚い尊敬心を示してくれるんだよ。そんなことがあるから、いつでもまた日本に戻ってきたくなるんだな。あ、まだあった。これはもしかしたらサックス奏者に限っての話かもしれないが、日本の楽器屋さんのリペア技術は間違いなく世界最高だ! どんなトラブルが起きても、すぐに対処してくれて、楽器を最高の状態に戻してくれるんだよ。ホント、アメリカに連れて帰りたいくらいだ!
 
 
Live Report

KIRK WHALUMカーク・ウェイラム

6/26(水)ブルーノート東京(東京)

[演奏]カーク・ウェイラム(Ts,Ss,Vo)、ジョン・ストッダート(Key,Vo)、アンドレア・リサ(Guit,Vo)、ブレイロン・レイシー(Bass,Vo)、マーカス・フィニー(Ds,Vo)
[曲目]BIG OL’SHOES 〜 MR. MAGIC、DO YOU FEEL ME 〜 FUNKY GOOD TIME、BAH-DE-YAH!、INTO MY SOUL、VORTEX、KW 2024 BALLED MEDLEY : ANY LOVE 〜 NOW TILL FOREVER 〜 PILLOW TALK、WELL ALRIGHT 〜 WADE IN THE WATER、MF

超満員のお客さんを前に、まずはバック陣が登場。イントロが始まったところで主役が出て来て、いきなりの大ブロウだ。そして妙に綺麗な、そして正しいイントネーションで「元気ですか!」。この発音が実に綺麗な日本語なのである。今の表記も、片仮名で書くよりは漢字交じりで書きたくなるのだ。余程、耳が良いのだろう。ステージは、新譜「Epic Cool」からのナンバーも交え、実にバラエティに富んだ内容で、特に受けたのが『幸せなら手をたたこう』である。お客さんも充分に反応したのだが、二番に入った際にカークがお客さんたちに「違う、違う!」と、「二番は足を鳴らそう、だろ!」 と促す。これにはお客さんも大爆笑。途中、ギター&ヴォーカルのアンドレア・リサのナンバーが一曲挟まれた。彼女がリリースしたアルバムからの曲なのだが、これが実に聴き物だった。実にユニークで、聴いたことがないフレーズやら何やらが飛び出し、これはカークが見込んでバンドに引き入れたのも納得であった。今後も注目な存在だ。そしてカーク。もう貫禄のステージぶりで、自らの持つ力量を充分に見せながら、曲間のトークで笑わせてくれる。平易な英語を使うから、決して英語に堪能ではないお客さんにも通じるのだ。この辺りにも、日本公演の回数が多くなったからこその気遣いを感じるところである。終演後のお客さんたちの、満足気な笑顔も印象的であった。(櫻井隆章)

登場するアーティスト
画像

カーク・ウェイラム
Kirk Whalum

1958年、テネシー州メンフィス生まれ。父親が牧師で、幼い頃からゴスペルやR&B に親しむ。9歳でドラムを、高校に入るとサックスを演奏し始める。ヒューストンの南テキサス大学に入学、在学中テキサス・テナーのアーネット・コブに魅了され薫陶を受ける。1983年にボブ・ジェームスのグループに入り、プロとしての本格的なキャリアをスタート。1985年にジェームスのサポートによりタッパン・ジー・レコーズから「Floppy Disk」でソロ・デビュー。1980年代後半から1990年代前半にはクインシー・ジョーンズ、ルーサー・ヴァンドロス、アル・ジャロウ、ホイットニー・ヒューストンらと共演。数多くのアーティストとの交流を深め、ホイットニー・ヒューストンのメガ・ヒット『アイ・ウィル・オールウェイズ・ラヴ・ユー』でのサックス・ソロは彼が担当している。2000年代以降はスムース・ジャズ・ブーム旗頭的存在としても活躍。デイヴ・コーズが主宰するランデヴーからスマッシュ・ヒットを放った。2012年にジョン・コルトレーンとジョニー・ハートマンに捧げたカバー・アルバム「ロマンス・ランゲージ」を、2015年に「The Gospel Accordingto Jazz」第4弾をリリース。来日回数も数多い。

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