サックス記事 Pianists Insight 第4回 泉谷絵里
ピアニストの目線で、クラシックサックスを鋭く斬る!

Pianists Insight 第4回 泉谷絵里

クラシック奏者にとってピアニストは必要不可欠なパートナー。一番近い存在だからこそ気づくこと、言えることがきっとある。このコーナーでは、サックスの伴奏を長年務める名ピアニストたちに、クラシックサックス習得の秘訣をご教授いただく。今回は音楽大学で伴奏講師を務める泉谷絵里氏に話を聞いた。
text:佐藤淳一 企画:Turn Around Artists Org.

サックスの新しい何かが生まれる瞬間に自分も立ち会いたい

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サックスとの共通点を持つようになったきっかけは何ですか。
泉谷
幼い頃からピアノをやっていると小中高を通じて音楽の時間とか、学芸会とか、何かとピアノ伴奏をさせられることが多かったんです。せっかく歌いたくて合唱部に入っても伴奏になっちゃう。もっと他のことがしたいのにやっぱりピアノ!? みたいな。伴奏に対するイメージが私のなかであまり良くなかったこともあって、大学時代は伴奏をなるべく避けていた節がありました。それでも子どもの頃からヤマハの専門コースでアンサンブルや作曲を勉強していましたから下地はあったんだと思います。それで、大学卒業後に、たまたま母校で伴奏研究員という枠が空いていて先生に「やってみないか」と言われて始めたのがきっかけです。仕事内容などもよく分からずに伴奏のポストをやらせていただくことになって、最初はあらゆる楽器を担当していたんですけど、そのうちサックス界の重鎮であられる宗貞啓司先生のレッスンに伺ったんです。そこで初めてサックスという楽器に出会いました。
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それはピアノの先生にレッスンを受けるのではなく、他の楽器の先生の所に伴奏のレッスンに行ったということですか。
泉谷
そうですね。お弟子さんの伴奏で、という形です。そこでサックスは他の楽器よりも「好きだな」と感じました。音域的にも人の声に近いし、長時間聴いていても疲れないし、サックスのために書かれた楽曲が自分の中でしっくりきたんです。ずっとピアノを勉強してきて、音大では勉強のためにクラシックを練習しましたけど、私はどっちかというと今の時代の音楽とか、近現代の音楽とかに惹かれていた部分があって、そこで共鳴したんでしょうね。
――
サックスの学生を見ていて、音楽の考え方などに何か共通点はありますか。
泉谷
一概には言えないですけど、みなさんがサックスを始めるきっかけになるのは多分学校のブラスバンドだったりすると思います。旋律楽器ということもあって、どうしても旋律をどう吹くかとか、そういう所にみなさん力を入れるんですけど、こちらはハーモニーを担当する楽器でもあるので、よく学生さんとアンサンブルをするときにはハーモニーの話をしますね。だから一緒にアナリーゼするときも「ここはこういうハーモニーだから」という話が多いです。皆さんに共通しているのはもう少しハーモニーの知識なり経験があるといいのかなという気はします。
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単旋律の楽器でハーモニーを勉強するのは難しいですよね。サックス奏者でもある程度ピアノの訓練などが必要だと思われますか。
泉谷
実際にピアノを弾くところまではいかないにしても、いろんなものを聴いてそういう感覚は養ったほうがいいと思いますね。
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上手い人は学生の中にもたくさんいると思いますが、その人たちの共通項はありますか。
泉谷
難しい質問ですね……。もちろん基本的なセンスとか天性のものというのはありますが、これだけ長く学生さんたちとやっていると、パッと音を出した時に「あっ、この人は伸びるな」というのは、ある程度わかります。持って生まれたリズム感とか言葉では伝えきれない部分とか、頭で考えているだけじゃ身に付かない部分とか運動神経とか。音楽の才能って、すべてを総合した感性ですよね。だから共通項と言われると、すべての感覚が優れているとしか言いようがないですけどね……。
――
日本のクラシック界の中でサックスが今後新しい発展を積み重ねていくにはどんなことが必要ですか。
泉谷
歴史が浅いという意味でまだまだこれからの楽器ですから、たくさんの作曲家に書いてもらって新しいレパートリーを開拓するなど、そういう面で期待しています。伝統は伝統としてすでにあるけれど、でもその先が知りたい、見てみたい。私がサックスの伴奏をやっているのはたぶんそこだと思います。そういった中でさらなる自分なりの新しいものを作れる人がどんどん出てくれば面白いですよね。偉大な先人たちはクラシックサックスも、カルテットの歴史も作り上げてきました。そういう流れは今後もあるんでしょうけど、もう一つ新しい何か、誰も知らなかったようなことが起きれば楽しいですよね。そういう瞬間に、もし自分も立ち会えるのだとしたらそんな幸せなことはないでしょうね。
――
最後に、学生に対してメッセージをお願いします。
泉谷
もっと音楽を楽しんでほしいです。そもそも楽しいからやっているわけですよね。その最初の心を忘れないでやっていってほしいです。学生時代はコンクールだとか、試験の点数だとかどうしても目先のことで悩んじゃったり、人によっては心を病んじゃったり。それも大事ですけど、もっと先の目標を見てほしい。そうしたらすべての目標も叶うかもしれませんね。
 
泉谷絵里 Eri Izumiya
札幌市出身。幼少より札幌コンセルヴァトワールにて音楽理論、ピアノ演奏を学ぶ。昭和音楽大学器楽学部ピアノ科ソリストコースを、特別賞を得て首席で卒業。昭和音楽大学器楽伴奏研究員を経て、現在同大学伴奏講師。アンサンブルピアニストとして様々な場で活動中。
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