サックス記事

Pianists Insight 第5回 富山里紗

ピアニストの目線で、クラシックサックスを鋭く斬る!

クラシック奏者にとってピアニストは必要不可欠なパートナー。一番近い存在だからこそ気づくこと、言えることがきっとある。このコーナーでは、サックスの伴奏を長年務める名ピアニストたちに、クラシックサックス習得の秘訣をご教授いただく。今回は、学生の伴奏をする機会が多い富山里紗氏に、今の学生の現状と課題を聞いた。
text:佐藤淳一 企画:Turn Around Artists Org.

評価を気にせず、表現することを怖がらない

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富山さんが学生の伴奏をされる割合は?またプロと学生との決定的な違いとは?
富山
学生の伴奏をすることがほとんどですね。決定的な違いは引きの強さというか、プロの方はソリストとしても活躍しており、ご自身の音楽を持っていらっしゃいます。曲が始まった瞬間から道筋や、その方の音楽プランが見え、それで惹きつけることができるので、結果的に個性に繋がっていると思うんです。でも学生になるとそこまでできる人は少ないです。
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ここ最近の学生の技術的なテクニックは飛躍してきていると思うのですが。
富山
確かに年々技術的な面はすごく上がっていますが、テクニックに走りがちな傾向にあると思いますし、自分で音楽を作る感覚が薄れてきているようにも感じます。新しい曲や難しいものを演奏できるほうが良いとされる学生が多いような気がして。また、そういった曲を良いとする風潮になっているようにも感じます。
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なぜそういう流れになったのでしょうか?
富山
新しい曲も増えていますし、レパートリー自体の難易度も上がってきている。その流れに沿っていきたいし結果も出したいので、表面的な演奏にとらわれがちになっている気がします。技術的なことに目が行きがちで、内面的な表現をしていくことは難しいのですが、私自身も学生の皆さんに伝える時にはそこに踏み込んだ伝え方をしないといけないと思っています。概要や課題を与えられて、それをこなすことで安心してしまうのは危険だと感じています。
――
概要というのはオーディションやテスト、コンクールなどのことですか?
富山
そうですね。コンクールなどで、一位を獲ればプロの演奏家として活動するチャンスは高まります。でも本質的にそういうことではないですよね。実際に卒業して演奏活動をするとなると、聴いてもらうことや観客を呼ぶことに関しては、そういった経歴も最初は必要だと思うのですが、演奏を続けていくうちに自分の経歴に甘んじたり練習を怠たれば、演奏の質は落ちていきます。また新しい物を取り入れていく柔軟性も必要だと思います。実際、社会に出てみないとわからないことがたくさんあるので、今のうちからそのことも含めて伝えていかないといけないのではないかと思っています。
――
サックスは新しい楽器なのでピアノに比べると中々レパートリーの幅が広がりません。
富山
サックスの楽曲ですと歴史の古い作曲家ではドビュッシーなどですよね。ピアノを勉強していく中でドビュッシーに辿り着くまでには結構な時間がかかるんです。ですから、急にドビュッシーやイベールなどの音楽を演奏することは、文学で言えばいきなり現代文学を読まされるようなものだと思います。実際、響きが慣れないので音を覚えるのに時間がかかるという声をよく聞きますし、バロック〜ロマン派の楽曲を遡って勉強する時間もあまりないと思いますが、今はコンクール課題としても取り上げられる機会が増えたので、その時代の楽曲を勉強するのは大切なことだと感じます。細かいニュアンスなどの勉強にもなりますし。
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学生の伴奏をされていて感じることはありますか?
富山
少し諦めが早い部分があり、それが今の子たちの特徴とも言えます。もちろん他に良い部分もたくさんありますが、根気強くとか粘り強いというイメージが薄い。でも自分に対する周囲の評価を変えるには自分が変わったんだというところを本番で見せなかったら誰も反応してくれません。演奏家としては絶対に根気や粘りが必要だと思います。一音で惹きつけなければ聴いてもらえない。プロの方はそんなプレッシャーの中で活躍されているのです。だから私自身も努力を続けて、根気よく伝えていかないといけません。卒業生を見ても、学生時代にどこか変わっているなと感じた子がとても上手くなっていたりします。良くも悪くも考え方がブレないからだと思うのですが、自分の信じていることを怖がらないで表現にしていくことが第一歩なんじゃないですかね。サックスの伴奏をしていらっしゃるピアニストはたくさんいますので、私自身勉強になる反面、自分という存在が必要なのか不安になります。でも活動を続けるうちに、室内楽の面白さやサックスの伴奏だけでなく他のジャンル、幅広い音楽もやってみたいですし、自分の考えやオリジナリティをもっと確立させないとやっていけないと思いました。評価を気にせず表現することを怖がらない、その重要性を改めて感じています。
――
最後に学生にメッセージをお願いします。
富山
まず自分の楽器が単旋律であることをもっと意識し、一人で演奏しているのではないことをもっと理解してもらえたらと思います。それから先生方から教えてもらうことや人にアドバイスされたことを表面的に取るのではなく、その裏にある意図も想像して汲み取り自分の物にしていく。それがすべてに繋がると思うんです。楽譜から読み取ることもそうですし、アンサンブルすることももっと怖がらないで積極的に。そして楽器を吹く以前の勉強をもう少し自分でやって研究していくと音楽そのものを、もっと楽しめるんじゃないかと思います。
 
富山里紗 Risa Tomiyama
宮崎県出身。洗足学園音楽大学を、優秀賞を受賞し卒業。1998年宮崎県高等学校独唱独奏コンクールピアノ部門グランプリ。同年九州高等学校音楽コンクールピアノ部門金賞。2004年宮崎ピアノコンクール大学一般部門最優秀賞。2005年インターナショナルミュージックアカデミー北九州にてヘルベルト・ザイデル氏のレッスンを受講。現在は、ソロや伴奏などの演奏活動を行なっている。これまでに、是澤美穂、斎藤美代子、加藤美緒子、釈迦郡誠、三澤慶子、松尾英美の各氏に師事。
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