画像

トロンボーンのバルブって何? 前編

mini vol.4|What is Trombone Valve?

トロンボーンというとインパクト絶大なスライドに目が行きがちですが、 実は他の金管楽器と同じようなバルブがついている楽器があります。 しかも、トロンボーンのバルブは多くの種類があり、各メーカーが開発にしのぎを削るパーツなのです!
そんなトロンボーンのバルブについて、 ノナカ・テクニカルサービス株式会社の飯塚丈人さんに伺いました。

バルブの基礎とは?
トロンボーンバルブの基礎知識

――
トロンボーンにおいてバルブとはどのようなものですか?
飯塚
調を変化させるためのものです。バルブを使うことでテナーバストロンボーンはF管に、バストロンボーンは1番バルブを使うとF管、2番バルブを使うと一般的にD管になります。トランペットやホルンなど他の金管楽器は音階を演奏するためにバルブやピストンを使用しますが、トロンボーンに関しては少し事情が異なります。6番ポジションや7番ポジションはスライドを動かすのが大変なので、それらを使用する音を瞬時に切り替えるため、そして低音の音域を拡張するためにバルブを使用します。中音域や高音域はスライドだけで音を出すことが可能なので、バルブはあくまで補助的なものと思っていただければいいでしょう。
――
すべてのトロンボーンにバルブはついているのですか?
飯塚
そうではありません。テナートロンボーンと一般的に呼ばれるBb管の楽器にはついていません。トロンボーンにはジャズなどで使用する細管、オーケストラなどで使用する太管、そしてその中間の特徴を持つ中細管と3種類の管の太さがありますが、一般的にバルブがついているものは太管が多いです。中細管にバルブがついているものもあります。

基本は3種類?
バルブの種類と特徴とは

――
バルブの種類について教えてください。
飯塚
オーソドックスなロータリーバルブに加え、ハグマンバルブとアクシァル・フロー・バルブが主な種類として存在します。最近では各社独自のバルブを開発していて、細かく分けると10種類以上のバルブが流通していますが、基本的な構造はこの3種類が元になっています。

ロータリーバルブ (Rotary Valve)

 

ハグマンバルブ(Hagmann Valve)

 

アクシァル・フロー・バルブ(Axial Flow Valve)

 

――
それぞれのバルブの特徴について教えてください。
飯塚
ロータリーバルブの基本的な構造は約200年間ほとんど変わっていません。1830年頃には現在のバルブとほぼ同じ構造のものが発明されていたと言われています。理論的には管の内部はすべて真円状が良いとされているのですが、このバルブの息の通り道は真円になっていません。技術的な問題等でどうしても少し平らな部分が出てしまうんですね。その部分を改善するためにここ約30年で登場したのがアクシァル・フロー・バルブハグマンバルブです。この2つのバルブは、息の通り道が真円のままゆるやかな角度で管の長さを切り替えることができるので、ロータリーバルブに比べて抵抗が少なくなりました。しかし、ロータリーバルブの抵抗感に馴染んでいた奏者にとってはかえって息を持っていかれてしまうと感じてしまう場合があります。また、新しい2つのバルブはロータリーバルブよりも30〜40gほど重いです。バルブが重いとパワーは出ますが細かい動きを演奏しにくくなります。
ハグマンバルブはスイスでレネ・ハグマン氏によって開発されたバルブです。非常に精巧にできています。ゆるやかに曲がった管の中を息が通るので、ヨーロッパ風のふくよかな音がします。
アクシァル・フロー・バルブはアメリカでエド・セイヤー氏によって開発されたバルブです。よりまっすぐに息が入るので、とてもストレートな音がします。現時点で一番抵抗の少ないバルブといえるでしょう。
どのバルブが良いと感じるかは様々です。どのような音楽をしたいかによっても差が出ると思いますから、どのタイプが長けているとは一概に言えません。

基本は3種類?
バルブの種類と特徴とは

――
なぜトロンボーンだけバルブの開発競争が盛んなのでしょうか
飯塚
ホルンやトランペットのサイズでは真円を確保しようとすると体積が大きくなるのでレイアウトが困難になります。トロンボーンのサイズだとそれが可能なので流行したといえるかもしれません。今では各メーカーが新しいバルブをこぞって採用し、それらのクオリティをいかに高くするか、各社しのぎを削っています。バルブがついてもテナートロンボーンの持っているポテンシャルを崩さずに扱えるという楽器を目指して、音響理論を駆使して日々進歩しています。

奥が深いトロンボーンバルブの世界……まだまだ後編に続きます! 
後編はお手入れの注意点やF管アタッチメントの巻き方について掲載予定です。

記事一覧 | Wind-i&mini
トピックス | レッスン | イベント | 人物 | 製品