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田中靖人の吹奏楽サックス A to Z 第10回 | 吹奏楽コンクール対策編

THE SAX vol.60(2013年7月25日発刊)より転載

吹奏楽コンクール対策編

仲間といっしょにリラックスして本番に臨み、最高の演奏をするためには何が必要?中学・高校と吹奏楽部に所属し、今はコンクール審査員を勤めることもある田中先生から、今回も熱い回答をいただきました。コンクールだけでなく、音楽を演奏することへの深い思いが詰まったメッセージを受け止めてほしい!

 

Q. コンクール直前の練習は?
昨年は本番前に気合いを入れて練習しすぎて、唇が痛くなり当日苦い思いをしました。田中先生は本番を万全のコンディションで迎えるために気を付けていることなどありますか?

A. 本番前はゆとりを持って臨みます
みなさんの場合、課題曲と自由曲を何か月も練習すると思いますので、本番前に練習し過ぎないで済むように、もっと着実に練習を重ねておきましょう(笑)。私が本番前に心掛けていることは、良いリードをたくさん持っておく(これは普段から常にそうしていますが……)、楽器のコンディションも良い状態にメンテナンスしておく、本番に向けてリラックス&集中する、などです。

 

Q. ヴィブラートはどこまでかけたらいいの?
ヴィブラートをかけるには、どの程度がちょうどよいのでしょうか。友だちがかけすぎるといやらしい感じがすると言っていたり、コンクールでは減点されるというウワサも聞きましたが……。

A. いろいろな演奏を聴いて、 真似するところから始めては?
ヴィブラートは装飾ではなく、あくまでも音色の変化のための手段ですから、かけることだけにこだわらず、センス良いヴィブラートを心がけてくださいね。
ヴィブラートのかけ方は、音楽のスタイルでも変わるし、共演者によっても変わります。専門的なことをいうと、フレージングを考えて使うこと(和声のことを理解して)も必要なことです。
あまり理屈っぽくては音楽が硬くなってつまらないものになりますから、感覚的な部分を大切に練習してみると良いと思います。そのためには、まず優れた奏者の演奏を真似て演奏してみましょう。真似をするにはよく聴くことが必要ですし、それは共演者に合わせるということにも繋がるので、大切なことですね。
それを録音して聴いてみましょう。自分に何が足りないのか、どこが良くないかなど、きっと鏡で自分を見るように感じられるでしょう。

 

Q. 演奏順1番目は緊張する!
コンクールの演奏順がなんと1番目に決まってしまいました。誰かに「最初でも不利じゃないよ」って言ってもらいたい……。不安を解消する一言をお願いします!(それともやっぱり、不利なのでしょうか……)

A. 良い演奏ができるよう、集中しましょう
私自身、審査をしていて1番目が不利と思ったことはありません。
良い演奏であれば何番目であっても結果は付いてくるわけですから、変な緊張はせず音楽に集中してくださいね。
1番だなんて、縁起が良いじゃないですか?(笑)

 

Q. 部長を務める心構えは?
今年は部長に選ばれてしまい、とても緊張しています。田中先生は東京佼成ウインドオーケストラのコンサートマスターをされていますが、みんなをまとめていく心構えがあれば教えてください。

A. いつも全体を見られるように
私は中学では部長、高校では副部長を務めました。どちらも生徒中心にチームワークが良い吹奏楽部だったので、部長中心というよりみんなで考えて作っていく感じで、苦労はなかったように思います。
現在はコンサートマスターですが、仕事の内容は、管弦楽のオーケストラでヴァイオリン奏者が担当するコンサートマスターの仕事とは違う、演奏時以外での仕事もたくさんあります。たとえば団員代表で会議に出たり、コンサート、レコーディングに関係するプログラムのこと、編成のこと、リハーサルの進め方など指揮者とメンバーの間で橋渡し役をするだけでなく、事務所とメンバーの間に入って話をしたり、時にはメンバー間に入って話すなど、ちょっと学級委員長か部長のようなこともやっています。
そんな時にいつも心掛けていることはたくさんあるのですが、主なところでは……

●自分のことは考えない(笑)、 つまり全体のことを考える。自分のことは誰かが考えてくれているだろう程度に思っています。

●話している相手の言葉だけにとらわれず、何を思っているのかという点を感じる。そうすればその人の気持ちが見えてくる。

●主にリハーサルやレコーディング中においてですが、自分が何かを話すときは指揮者が進めている流れをなるべく止めずにタイミング良く。

● 良い雰囲気を保てるように。

などです。
こんなことは誰にも話したことがないのですが、何か参考になればと思います。

 

Q. ステージでの動きなど、見た目は採点対象?
コンクールで、演奏の始めと終わりでメンバーがタイミングをそろえて「ザッ」と立ったり座ったりする団体があります。そういう団体が得点も高いような気がするのですが、そういった動きも審査対象になのでしょうか?

A. 見た目で審査はしませんが、セッティングは音に大きく影響します
そういった団体からは何か気合のようなものを感じますが、審査にはまったく関係ありません(笑)。
でも演奏する皆さんにとってはメンバーの気持ちをひとつにするとか、テンションを上げるとか、良い演奏に繋がる意味のあるものかもしれないので、その気持ちは理解して聴くようにしています。
見た目という点でとても大切と思うことがあります。それは、上手いバンドはステージでのセッティングが美しいということです。ちょっとしたセッティングの違いで音に影響があるので、ぜひ研究してみてください。

 

Q. メンバーが他校よりかなり少ないんです……
コンクール高校A部門(演奏人数が最大で55人)に出場しますが、今年はメンバーが45人しか集まりませんでした。少ない人数でもしっかりした演奏に聞こえる方法はありますか?

A. メンバー全員が同じ思いで演奏すれば大丈夫!
吹奏楽コンクールでは、迫力重視で大きなものが強いとされる傾向もみられますが、これは間違った方向です。本来はメロディ、ハーモニー、リズムのバランスが整い、美しい音で音楽的に演奏するべきですが、実際は金管のハーモニーや打楽器の音ばかりで、木管のメロディの演奏が聞こえない、という団体がよくあります。
55人と45人の団体を比べても、編成のバランスや個々の力にもよりますが、サウンドに関しては大した違いはありません。
プロの吹奏楽団では50人以下で演奏することが多いのですが、実際に聴いたことがありますか?もちろん音楽的なこと、楽器を演奏する技量などいろいろアマチュアとは違いを感じると思いますが、少人数でもしっかりした演奏に聞こえると思います。それは、全員が同じ音楽の方向に向かってしっかり演奏しているからなのです。
みなさんもそれができれば45人でも40人弱でも、55人に負けない演奏になりますよ。頑張ってください!

 

コンクールでのみなさんの演奏、楽しみにしてますよ!
田中靖人

※この記事はTHE SAX vol.60 を再構成したものです

田中靖人さん
田中 靖人 Yasuto Tanaka
和歌山県出身。国立音楽大学在学中、第4回日本管打楽器コンクール・サクソフォン部門で第1位を獲得。1991年には「管打楽器ソロ名曲集・サクソフォーン」でCDデビュー。1995年「ラプソディー」、1997年「サクソフォビア」を、03年「ガーシュインカクテル」を、2012年「モリコーネ・パラダイス」をリリース。一方、室内楽のジャンルではサクソフォン四重奏団[トルヴェール・クヮルテット]で活躍。2001年には文化庁芸術祭レコード部門大賞受賞。現在、愛知県立芸術大学、昭和音楽大学講師、礼幌大谷大学客員教授として後進の指導にもあたっている。東京佼成ウインドオーケストラ コンサートマスター。


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