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vol.33「クラシックとジャズはすでに融合している!?」

THE SAX vol.55(2012年9月25日発刊)より転載

最近のスガワ

読者の皆さん、こんにちは。ようやく秋の気配が感じられるこのごろですね。芸術の秋です。先日、僕の久しぶりのソロアルバム「サキソ・マジック」が発売になりました! ぜひお手にとっていただけたら嬉しいです。
さてこのコーナーでは、前号から「サックスにおけるジャズとクラシックの関係性」について僕の考えを書かせていただいています。前編では、アメリカを代表する音楽芸術であるジャズを楽譜などに残し、それをクラシック奏者が「スタイル」として取り上げて、吹いて伝えるという活動に僕自身が喜びを見出している話をしました。そのために、旧知の仲であるジャズプレイヤーの本多俊之さんに作品を委嘱し、世界に向けて発信しています。

 

 

クラシックとジャズはすでに融合している!?

「サックスはクラシックのために作られ、ジャズで世界に認められた楽器」だと前号で書きました。クラシックサックスの、いわゆる「マスターピース」といわれる作品の中に、エディソン・デニゾフの『ソナタ』があります。現在、世界中のクラシックサックス奏者が当然のように演奏していますが、この3楽章、ピアノは左手でベースラインを弾きながら右手はアドリブをしているようで、サックスも同じくアドリブをしているかのように書かれています。そのジャズ・テイストの中に、デニゾフ自身のフレーズ、音列を入れ込むことによって、しっかりした現代曲としての存在感を示しています。また、僕はこれまで世界20カ国以上でマスタークラスや演奏会を行なってきましたが、どこに行っても『ファジイバード・ソナタ』をレッスンしてほしいと言われますし、たくさんの国のサックス奏者がこの曲をCDに録音しています。ある意味デニゾフに近いくらい世界のスタンダードになっていると言えるこの曲は、僕が吉松隆さんに依頼して書いていただきました。この曲の第1楽章もやはりランニングベースを用いてジャズ的なニュアンスを使っているし、吉松さんはサックスという楽器のジャンル分けしにくい微妙な立ち位置というものをよく解って、それを表すためにジャズ的な表現を使われています。
この2曲がいま、世界中のクラシックサックス奏者で知らない人はいないくらいになったということが、ジャズからの影響を証明していると言えるのではないでしょうか。ジャズを生んだサックスの音楽というのは、本当に伝えられるべき芸術に違いないということが言えると思います。

一方、ジャズの立場に立って考えてみましょう。例えば、ショパンのピアノ曲である『子猫のワルツ』(俗称)を聴いてみると、今ジャズのプレイヤーたちがよく使うフレーズが出てきます……いや、逆ですね! そういうフレーズがショパンの時代からあったんです。ショパンが偶然作った(その時代は革新的でびっくりされたと思いますが)音の並びを、今、ジャズのプレイヤーたちが自然に取り入れている。となれば、これは「ジャンルを超えて」ではなくすでに今、真にお互いのジャンルは「融合」されていると言えると思います。

クラシックプレイヤーがジャズっぽい曲を吹いてみた、というのは、ジャズをやったんじゃなくてクラシックにジャズのものを取り入れて演奏したということに他なりません。そうすることで、すばらしいジャズのスタイルを次世代に伝えていくために。ジャズの人たちはすでに昔からそういうことをやっているわけです。

クラシックの人は、ジャズは難しいとかアドリブができないと悲観しないでジャズの素敵なフレーズを楽しみ、ニュアンスを自分の演奏に取り入れるようなつもりで接すればいいのではないかと思います。ジャズの人も、時にはクラシックの作品を聴いてみると、新しく創造するに当たってのアイデアにつながるかもしれません。2つのジャンルを股にかけるというのではなくて、自分のジャンルにしっかり腰を据えて、もう一方の素敵なところを知っておく。両方やるというのは無理があります。僕はアドリブに命をかけている人たちと同じ土俵には立てないし、逆も同じでしょう。作曲家たちが音符に残した思いを解釈し、再現するということはジャズとはまた違った世界です。世の中にはウイントン・マルサリスのようにジャズもクラシックも一流という人もいますが、音楽って一部の天才だけのものではありませんよね。演奏者が楽しみ、聴く人が楽しみ、勉強し、後世に伝えていくという、音楽家たちがずっとずっと昔から繰り返してきたことをやっぱりやっていきたい。

今回僕が新しく発表したアルバム「サキソ・マジック」はそういったコンセプトでレコーディングしました。それ以前からずっと考えていたことではあったけれど、今回、サックス奏者としての自分としての答えが出せた気がします。

まとめると、クラシックサックスの活動には3つの柱ができるように思います。1つは、調性音楽(メロディのある音楽)を伝統的なクラシック音楽の流れを汲んで美しく演奏すること。2つめはいわゆる現代奏法、新しい音、サックスという楽器が出すことのできる新しい音、響き、前衛的、画期的な作品を世に送り出すこと。そして3つめはジャズやポップなものでサックス奏者たちが華やかに活躍しているようなフレーズを伝えていくこと。もちろん、この3つの柱からいくつにも枝分かれしていくと思いますが、特に3つめはサックスならではだと思います。他のクラシックの楽器よりもサックスが似合う世界ですから。これをしっかり後世に伝えていく、残すというのは、本当の意味でのサックスらしさと言えるのではないかと思います。これについてはいろんな反論も出てくるとおもしろいんですが……。ジャズの方の意見も聞いてみたいですね!

 

次回のテーマは「クラシック・サックスの世界で認められる“日本発”その1」。
世界に広まっている、日本で生まれたサックスのレパートリー。“その1”ではロシアでの経験について語ります。お楽しみに!

※このコーナーは、「THE SAX」誌で2007年から2015年にかけて連載していた内容を再編集したものです

 

須川展也 Sugawa Nobuya

須川展也
日本が世界に誇るサクソフォン奏者。東京藝術大学卒業。サクソフォンを故・大室勇一氏に師事。第51回日本音楽コンクール管楽器部門、第1回日本管打楽器コンクールのいずれも最高位に輝く。出光音楽賞、村松賞受賞。
デビュー以来、名だたる作曲家への委嘱も積極的に行っており、須川によって委嘱&初演された多くの作品が楽譜としても出版され、20-21世紀のクラシカル・サクソフォンの新たな主要レパートリーとして国際的に広まっている。特に吉松隆の「ファジイバード・ソナタ」は、須川が海外で「ミスター・ファジイバード」と称される程に彼の名を国際的に高め、その演奏スタイルと共に国際的に世界のサクソフォン奏者たちの注目を集めている。
国内外のレーベルから約30枚に及ぶCDをリリース。最新CDは2016年発売の「マスターピーシーズ」(ヤマハミュージックコミュニケーションズ)。また、2014年には著書「サクソフォーンは歌う!」(時事通信社)を刊行。
NHK交響楽団をはじめ日本のほとんどのオーケストラと共演を重ねており、海外ではBBCフィル、フィルハーモニア管、ヴュルテンベルク・フィル、スロヴァキア・フィル、イーストマン・ウインド・アンサンブル、パリギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団など多数の楽団と共演している。
1989-2010年まで東京佼成ウインドオーケストラ・コンサートマスターを22年余り務めた。96年浜松ゆかりの芸術家顕彰を表彰されるほか、09年より「浜松市やらまいか大使」に就任。2016年度静岡県文化奨励賞受賞。
サクソフォン四重奏団トルヴェール・クヮルテットのメンバー。ヤマハ吹奏楽団常任指揮者、イイヅカ☆ブラスフェスティバル・ミュージックディレクター、静岡市清水文化会館マリナート音楽アドバイザー&マリナート・ウインズ音楽監督、東京藝術大学招聘教授、京都市立芸術大学客員教授。
 

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