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vol.40「教えること、教わること その1」

THE SAX vol.62(2013年11月25日発刊)より転載

最近のスガワ

読者の皆さん、こんにちは。先日開催した僕のデビュー30周年プレ企画「須川展也サックス祭!」には、たくさんのお客様にお越しいただき、とても幸せな時間を過ごすことができました。ありがとうございました! これからデビュー30周年のイベントに向けてまた前進していきますので、楽しみにしていてくださいね。 さて今回は久しぶりに、皆さんからいただいたテーマについて書いてみたいと思います。教えること、そして教わるときに大切なこととは何か? 僕は現在、東京芸術大学をはじめ各地でマスタークラスやグループレッスンを行ない、たくさんの生徒たちと向き合っていますので、まずは「教える」にはどういう心構えが必要なのか、考えてみましょう。

 

 

教えること、教わること その1

僕が教育者としての立場で考える、教えることの究極は「生徒が何が何でもやる気になるようにしてあげる」ということだと思っています。練習したくてしょうがない、レッスンに行くのが楽しみで仕方ないっていうくらいのものを生徒に与えたい。自分から好奇心を持って、どうやったらいいかを能動的に求めていけるようなアドバイスをしなければなりません。

そうは言いながら、やっぱり僕もレッスンでつい「練習して来い!」なんて強制するようなことも言ってしまいます。練習しろと言われてしたものは、受動的です。そこをどう、能動的にするかが大事なところですね。

具体的に、まずは「こうしたら音がラクに出る」といったアドバイスをします。音がラクに出せたらそこに使う神経が少なくて済むので、もっと音楽に集中できるでしょう?と。また「セッティングが間違っているなら練習量を増やしても意味がない」ことや「環境の悪いところで練習しても自分の実にならない」こと、「吹いている姿勢が悪かったら身体を壊すし、上手に身体を使わないといい音は出ない」こと、この4項目は教える時の最初のポイントと考えています。いい練習をするための環境作りを手伝ってあげる。まず、即実感できることをアドバイスすることで、多くの生徒は「練習したい!」と思います。そうして練習に熱が入るようになった時に、楽器の奏法について、自己流になってないか……自分はそれでいいと思っていても他人が聴いたら決してよくないこともありますし、目的にそぐわない練習をしているなら正してあげます。

また、こちらは音楽経験が長い分どう演奏したら効果が得られるかが解っているので、それを具体例を示しながら導いていきます。以前このコラムでも紹介しましたが、“音楽における音の方向性”ですね。これが一番大事ですから、自分が実際に吹いてみて理解してもらいます。実感すれば、他にも応用が利きますからね。「ここはこうしなさい」「次はこう吹きなさい」というふうにピンポイントにやってしまうと、その場は解決しても、同じようなことが少し先に出てきたときにはもう0に戻ってしまう生徒が多い。ですから、「ここは」ではなく、「こういう場合は」というふうに指導します。曲の場合、同じ動きが続いた時多くの作曲家は変化を求めていることが多いですから、2回目や3回目は1回目を踏まえた上で変化をつけてみるように言います。音色を変えてみる、大きさを変えてみる、そういう具体例をアドバイスしていき、生徒が「ハッ」とひらめいた顔をしたとき、僕は「しめしめ」と思うわけです。

とは言え、いつもすんなりこの状態に持っていけるわけではないのが難しいところ。教えるには、同じことを10回言ってようやくインプットされるだろう、くらいの忍耐力も必要なんです。繰り返し同じことを言ってあげることによって生徒に自覚させる。自覚した時点で生徒の中ではその言葉が実感に変わり、それが実になり、楽しみになる。この4つのプロセスを踏めるようにするのが、教えることの理想だと思っています。僕も学生時代、先生に何度も同じことを言われ、苦しんで手に入れたことは今でもしっかり持っていますし、逆にその場しのぎでできるようになったことは、すぐにできなくなってしまいました。音楽に一夜漬けは効かないということですね。

とは言え(笑)、たくさんの生徒を教えていると僕も前回のことを忘れてしまったりすることがあるので、定期的に来る生徒にはレッスンノートを持ってきてもらって、レッスンの時に言ったことを走り書きしながら教えます。次のレッスンでそのノートを見て、今何に取り組んでいるのかを振り返り、続きに入ります。このレッスンノートは僕のためにもなるし、生徒が普段練習する時の道しるべにもなります。さらに、僕の元を離れて独り立ちした時にでも、何かに迷った時にはきっと役立ててくれているだろうと思っています。そう思うともっとキレイに書かなきゃいけないという反省もありますが、その辺はまあ、レッスンの臨場感が残っていていいんじゃないかと……思いたいですね(笑)。

この他には、曲を教える時には毎回細かいところばかりを突っ込まないようにとも思っています。どんなに練習が足りてなくて指が回っていなくても、1曲を通すレッスンをする日も作ります。なぜなら、部分のことだけにこだわると全体を見失ってしまうことがあるからです。やはり音楽というものその全体で表現するわけですから、一部分にこだわりすぎると全体のバランスが崩れてしまうことがあります。点の部分と全体の部分。これを両立させて教えているつもりです。

最終的には、生徒がいろんなことを思い描きながら練習できるようになってくれること。最初に戻りますが、能動的に練習し、それが楽しいと思えるようになってくれることを、僕は教育者として一番に願っています。

 

次回は、教わることについて考えてみたいと思います。

 

次回のテーマは「教えること、教わること その2」。
教わる側の立場から、レッスンを有意義なものにするために必要な心がけや準備について語ります。お楽しみに!

※このコーナーは、「THE SAX」誌で2007年から2015年にかけて連載していた内容を再編集したものです

 

須川展也 Sugawa Nobuya

須川展也
日本が世界に誇るサクソフォン奏者。東京藝術大学卒業。サクソフォンを故・大室勇一氏に師事。第51回日本音楽コンクール管楽器部門、第1回日本管打楽器コンクールのいずれも最高位に輝く。出光音楽賞、村松賞受賞。
デビュー以来、名だたる作曲家への委嘱も積極的に行っており、須川によって委嘱&初演された多くの作品が楽譜としても出版され、20-21世紀のクラシカル・サクソフォンの新たな主要レパートリーとして国際的に広まっている。特に吉松隆の「ファジイバード・ソナタ」は、須川が海外で「ミスター・ファジイバード」と称される程に彼の名を国際的に高め、その演奏スタイルと共に国際的に世界のサクソフォン奏者たちの注目を集めている。
国内外のレーベルから約30枚に及ぶCDをリリース。最新CDは2016年発売の「マスターピーシーズ」(ヤマハミュージックコミュニケーションズ)。また、2014年には著書「サクソフォーンは歌う!」(時事通信社)を刊行。
NHK交響楽団をはじめ日本のほとんどのオーケストラと共演を重ねており、海外ではBBCフィル、フィルハーモニア管、ヴュルテンベルク・フィル、スロヴァキア・フィル、イーストマン・ウインド・アンサンブル、パリギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団など多数の楽団と共演している。
1989-2010年まで東京佼成ウインドオーケストラ・コンサートマスターを22年余り務めた。96年浜松ゆかりの芸術家顕彰を表彰されるほか、09年より「浜松市やらまいか大使」に就任。2016年度静岡県文化奨励賞受賞。
サクソフォン四重奏団トルヴェール・クヮルテットのメンバー。ヤマハ吹奏楽団常任指揮者、イイヅカ☆ブラスフェスティバル・ミュージックディレクター、静岡市清水文化会館マリナート音楽アドバイザー&マリナート・ウインズ音楽監督、東京藝術大学招聘教授、京都市立芸術大学客員教授。
 

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