フルート記事 「源流」を求めて─古楽と伝統音楽が交差する場所
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THE FLUTE vol.211 Close Up

「源流」を求めて─古楽と伝統音楽が交差する場所

ARTIST

5月に来日予定のトラヴェルソ奏者フランソワ・ラザレヴィチ氏。古楽と伝統音楽を横断しながら、舞曲と身体性に根ざした演奏を追求してきた彼に、フランス在住のフルート奏者 奥村みゆきがインタビューを敢行。古楽と伝統音楽は対立するものなのか──。氏のこれまでの歩みと音楽観に迫った。
インタビュー・文 奥村みゆき

衝撃と感銘の出会い

まずは子ども時代の歩みについてお聞かせください。音楽家の一家に育ったのですか?
ラザレヴィチ(以下、L)
いいえ、まったく違います。家族にプロの音楽家はいませんでした。しかし、母には「音楽の学びを深めたかった」という、ある種の心残りがあったようです。当時、彼女が住んでいた南フランスの地方では、音楽教育の機会が非常に限られていたからです。
私と姉が5歳で音楽教育を始めたのは、おそらく母が自分の叶わなかった夢を託した、情熱の継承のようなものだったのでしょう。私自身は、幼い頃からずっと音楽の道に進むと確信していました。当時はオーケストラの指揮者か、それに類する何かになるだろうと想像していましたね。
それと並行して、考古学者になることも夢見ていました。歴史や遺物の発見に魅了されていたんです。母方の祖父母の家で休暇を過ごすときは、いつも化石(アンモナイト、ベレムナイト、ウミユリなど)を探しに出かけていました。今振り返れば、それは自分のルーツを探すという今の私の活動にも通じる、一つの探求心だったのだと思います。
最初はトランペットを吹きたかったという話ですが。
L
その通りです。5歳の頃は名手モーリス・アンドレに夢中で、どうしてもトランペットを習いたかった。でも、その年齢では早すぎると言われ、代わりにリコーダーを勧められました。それから個人レッスンで10年ほど学びました。
当時の先生はとても熱心でしたが、古楽の専門家ではなく、アプローチもかなりソルフェージュ的なものでした。奇妙なことに、先生自身はトランペットを吹かないのに、リコーダーと並行して私にトランペットも教えてくれたんですよ。
15歳で音楽を職業にすることを決意し、パリ地方音楽院(CRR de Paris)に入学されました。そこで決定的な出会いがあったのですね。
L
はい、ダニエル・ブレッビア氏との出会いです。彼のリコーダーにおけるフレージングのアプローチ、特にアーティキュレーションの多様性には、言葉を失うほどの衝撃を受けました。私が想像もしなかった音の世界への扉を開いてくれたのです。
最初のレッスンから、彼はジャック・オトテールなどの歴史的教則本に記された「ノート・イネガル(音の不均等奏法)」について話してくれました。当時の私には未知の世界でしたが、翌日には本屋へ走り、その著作を買い求めました。それ以来、資料を読み漁り、研究に没頭する日々が始まりました。彼にはいつも質問攻めでしたね。単なるソルフェージュを超えた、スタイル、レトリック、雄弁術といった問題に私の目を向けさせてくれたのは彼でした。
また、彼が古楽の偉大な先駆者であり巨匠であるアントワーヌ・ジョフロワ=ドゥショーム(1905-2000)を紹介してくれました。彼の百科事典のような知識と演奏スタイルには、一生消えない感銘を受けました。私は定期的に彼の自宅を訪ね、フルートやチェンバロ(当時私も学んでいました)の演奏を聴いてもらいました。彼の指から奏でられるチェンバロのような響きは、後にも先にも聴いたことがありません。彼は私の最も重要な影響の源だと言えます。
それと同時期に、フィリップ・アラン=デュプレ氏のもとでバロック・フルート(トラヴェルソ)も学び始めました。
 
 

インタビューは続きます!
・「呼吸」と「共鳴」──クイケンから受け継いだ身体性
・伝統音楽との融合──レ・ミュジシャン・ド・サン・ジュリアン」の誕生
・音楽の本質はシンプルさの中にある

 
 
 PROFILE
 

フランソワ・ラザレヴィチ François Lazarevitch
トラヴェルソ、リコーダー、バグパイプを操る奏者。フランス古楽界を牽引する存在として知られ、2005年にレ・ミュジシャン・ド・サン=ジュリアンを創設。「芸術的実験室」をコンセプトに、厳格な学術研究と直感的な口承伝統を融合。その生き生きとした表現力豊かな音楽と言語は、幅広い聴衆を魅了している。Alpha Classicsから発表される録音は「Diapason d’or」等で高く評価されている。

 

奥村みゆき Miyuki Okumura
福岡生まれ。15世紀から20世紀までのレパートリーを持つフルート奏者。視野が広がるようなコンサートプログラムをモットーにヨーロッパ各地で演奏活動を行なう。2014年に渡仏し研鑽を積む。バーゼル・スコラ・カントルム音楽院にてマルク・アンタイに師事。パリ国際フルートコンクール特別賞入賞。現在はジョルディ・サヴァール指揮Concert des Nationsに参加するほか、フランス各地の音楽院で教鞭をとる。

 
 
 
 
 CONCERT INFORMATION
 
 

レ・ミュジシャン・ド・サン=ジュリアン 聖ジュリアンのおくりもの
[日時]4/28(火)19:00開演
[会場]福岡市民ホール 小ホール
[出演]フランソワ・ラザレヴィチ(トラヴェルソ・リコーダー・ミュゼット)、エレーヌ・リショー(歌・Vc)、レオ・ブリュネ(テオルボ)、ピエール・リゴポロス(Perc)、レ・ミュジシャン・ド・サン=ジュリアン
[曲目]J.プレイフォード:「ダンシング・マスター」より、H.パーセル、F.ルベル&F.フランクール:La Fürstemberg―La Royale、ターロウ・オキャロラン:James Betagh – Lady Wrixon イングランド、アイルランド、スコットランドの伝承曲 他
[料金]一般¥4,000 学生¥2,000
[チケット]Tiget https://tiget.net/events/463300
[問合せ]リコフェスふくおか実行委員会 事務局
E-mail:concertinfukuoka2026@gmail.com

 
 

フランソワ・ラザレヴィチ 来日記念マスタークラス
[日時]4/30(木)10:00
[会場]Space 415(東京・中野区)
[通訳]奥村みゆき
[料金]聴講¥3000
[問合せ]cortedeltraverso@gmail.com

 

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2026
[出演]レ・ミュジシャン・ド・サン=ジュリアン(室内楽)、フランソワ・ラザレヴィチ(笛)
[問合せ]ラ・フォル・ジュルネ TOKYO 運営委員会事務局
E-mail:lfjtokyo2026@kajimotomusic.com

◆ヴィヴァルディ:四季の息吹(公演番号:123)
[日時]5/3(日・祝)14:00~15:00
[会場]東京国際フォーラム ホールC:ヴルタヴァ
[曲目]~リコーダー、フルート、フラウト・トラヴェルソ、ミュゼットのための協奏曲~ ヴィヴァルディ:協奏曲「海の嵐」、協奏曲「冬」、協奏曲「夜」、ヴィヴァルディ(シェドヴィル編):協奏曲「春」
[料金]S¥3,400 A¥2,700

◆テレマンとポーランド(公演番号:223)
[日時]5/4(月・祝)14:30~15:30
[会場]東京国際フォーラム ホールC:ヴルタヴァ
[曲目]テレマン:トリオ第3番 ロ短調 TWV 42:H2(アレグロ – カヴァルのためのホラ[ルーマニア伝承] – アダージョ – プレスト)、陽気な少女(スロヴァキアの伝統歌)、ウフロフスカ写本から “表題なし” – ハンガリー風 – ハンガリー風 – “表題なし” – オラス 他
[料金]S¥3,400 A¥2,700

◆美しく青きドナウの川岸で(公演番号:335)
[日時]5/5(火・祝)17:30 ~ 18:20
[会場]東京国際フォーラム ホールD7
[曲目]ルーマニア民謡「緑の葉」に基づく変奏(I.モラル編)、ルーマニア・メドレー(I.モラル&F.ラザレヴィチ編):A.パン 知ってさえいたなら、私の魂よ~G.ディニク:ホラ・スタッカート 他
[料金]¥3,000

 
 
 
登場するアーティスト

トラヴェルソ、リコーダー、バグパイプを操る奏者。フランス古楽界を牽引する存在として知られ、2005年にレ・ミュジシャン・ド・サン=ジュリアンを創設。「芸術的実験室」をコンセプトに、厳格な学術研究と直感的な口承伝統を融合。その生き生きとした表現力豊かな音楽と言語は、幅広い聴衆を魅了している。Alpha Classicsから発表される録音は「Diapason d’or」等で高く評価されている。

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