―コンチェルトの夕べ in 京都―

古楽実験工房 vol.1

ベルギーを拠点に、古楽を中心とするフルーティストとして活動の幅を広げてきた柴田俊幸さん。出身地の香川県高松市に古楽祭を立ち上げて毎年開催を続けるほか、コロナ禍での独自の取り組みが注目を集め、THE FLUTEでは昨年表紙を飾った。
そんな柴田さんが、この12月に新たな“試み”として挑む公演が「古楽実験工房」だ。京都を舞台に、新時代の古楽器奏者たちと共に繰り広げるのは、バロック時代のコンチェルト。一晩で4つのフルートコンチェルトが聴けるという、貴重な機会だ。
いま、このタイミングとこのメンバーで、そして京都という場所にこだわりつつ公演を決めたのには、すべて意味がある――。
共演者の一人、若きバロック・ファゴット奏者の長谷川太郎さんとともに、公演についてお話を伺った。

「古いけれど新しい」を現実のものに

今回公演には、格別の思い入れと意気込みがあるのだそうですね。
柴田
僕はこれまで、在住しているベルギーと日本を行き来していました。それが、コロナ禍の後に日本で活動する機会がとても増え、自分と同年代かもっと若い人たちと一緒に新しく音楽を作っていける場があったら、自分自身の音楽性も深めるきっかけになるのではと、半年くらい前から考えるようになったんです。
今回はAFF(ARTS for the future!=コロナ禍を乗り越えるための文化芸術活動の充実支援事業)の対象公演として認められたので、思いの丈を目一杯ぶつけることができる、本当に自分がやりたかったコンサートです。
どんなプログラムですか?
柴田
単刀直入に言えば、一晩で4つのフルート・コンチェルトを演奏するという、超ドMな企画です(笑)。とはいえ、J.S. バッハのブランデンブルグ協奏曲第5番はチェンバロやヴァイオリンと、クヴァンツは2本のフルートのためのコンチェルト。楽器同士の掛け合いを楽しんでもらえると思います。それに加え『バディネリ』で有名なJ.S.バッハの管弦楽組曲第2番や、自分のライフワークであるC.P.E.バッハ……。吹き切るにはスタミナが必要なプログラムです。
一晩でこの4曲が一挙に聴けるのはすばらしいですね。タイトルの「古楽実験工房」には、どんな意味と意図が込められていますか?
柴田
僕が最初に海外に出たのはニューヨークへの留学だったのですが、その頃最も感化されて影響を受けたのが現代音楽だったんです。その業界に携わる音楽家が持っているオープンマインド、固定観念に縛られずに音楽ができる感じががとても心地よく思えました。
現代音楽とは対極にあるように思われている古楽にも、もともとはそういう精神が根付いていました。「伝統」という名に基づいたバッハやモーツァルト像=固定観念からの脱却です。長らくそう信じていたものが、実は違った姿をしていた。例えていうなら、昔の絵画を修復してみると、まったく別の絵が出てきたみたいな…ベルギーの絵画「神秘の子羊」がそうですよね。ほこりを取り払うと、まったく新しい発見があります。それが古楽です。
古楽というと、一部の人には厳然たる古い様式に則った音楽づくりのように認識されている部分もありますが、それだけではありません。芸術は多面的で、一つの法則にとらわれないもの。古楽も本来は、そういう解釈の自由度が高い音楽だと僕は思っているんです。
「実験工房」というのは、1950年代に現代芸術家が中心になって結成されたグループの名前。武満徹や福島和夫などがメンバーで、前衛芸術の先がけ的存在だった。ふとそんなことが頭に浮かんで、古楽の“実験工房”があってもいいんじゃないか、僕が目指しているものを指すのにぴったりなネーミングだな、と感じてタイトルに拝借しました。今の「古いけれど新しい」古楽のムーブメントの中で、なにかもっとオープンマインドなことができればいいな、と。
長谷川
「古楽ブーム」と言われてずいぶん経ちますけれど、そんな中でもこれまでほかの人がやっていないことをやりたい、ということもあったんじゃないですか?
柴田
いちばんやりたいと思うことは、古楽の中でも「バッハだったらこういうふうに演奏しないと」という固定概念のようなものを取り払うこと。音楽って生物で、“古楽”であっても形が変わってきているし、ヨーロッパにいるとそれを実感することも多いんです。今回は、そんな新しい流れをキャッチしつつ表現できるであろう仲間たちを集めました。長谷川君はその中でも若きエースですね。
柴田さんと長谷川さんは、どんなふうに知り合ったのですか?
長谷川
僕は藝大を卒業してからパリに留学していたのですが、ある時柴田さんからいきなりTwitterのDMで「はじめまして…」と連絡がありまして。パリのオークションで楽器を落札して、それをパリに住んでいる友人のところへ預けておきたいので、届けてくれませんか?という内容でした。そんなご縁でつながって、実際にお会いしたのはまだ数回なのですが、日本で古楽祭を立ち上げたり、ヨーロッパと行き来されて古楽を通じた架け橋的な活動をされていることはずっと知っていたので、こうして声をかけていただいたことはとても光栄です。
柴田
僕らも含めた最近の世代で、古楽のファゴットで留学した人は他にはいないので、彼は唯一無二の存在なんですよ。
パリに留学されたきっかけというのは?
長谷川
藝大を卒業して日本でフリーで活動している時に、ある衝撃的なCDの録音に出会って……居ても立ってもいられない思いで、その演奏者だったジェレミー・パパセルジオに師事するべくパリへ行きました。

次のページへ続く
種を蒔き続けた、その先に…
大いなる冒険のススメ

 

このコンサートのチケットを、抽選で1組2名様にプレゼント!
ご応募お待ちしております!!

[応募締め切り]2021年11月30日(火)
※無料のアカウント登録が必要になります。

 
 
 
柴田俊幸©Ayane Shindo

柴田俊幸

しばた・としゆき●ベルギー在住のフルート奏者。ブリュッセル・フィルハーモニック、ベルギー室内管弦楽団などで研鑽を積んだ後、 古楽の世界に転身。ラ・プティット・バンド、イル・フォンダメント、ヴォクス・ルミニスなど古楽器アンサンブルに、ユトレヒト古楽祭、バッハ・アカデミー・ブルージュ音楽祭などにソリストとして参加。2019年には、B' Rockオーケストラの日本ツアーのソリストに抜擢された。また「C.P.E.バッハ フルートソナタ集」はレコード芸術にて《輸入盤 CD特選》に選出、2022年には「J.S. バッハ:フルート作品集」をベルギーのFuga Liberaよりリリース予定。これまで、アントワープの王立音楽院図書館、フランダース音楽研究所にて研究員として勤務。たかまつ国際古楽祭芸術監督。
 
長谷川太郎

長谷川太郎

はせがわ・たろう●東京藝術大学モダンファゴット科卒業。その後フランスへ留学。パリ国立地方音楽院古楽科を褒賞付き満場一致最優秀の評価を得て修了。バロックファゴットとドゥルツィアンの2つの演奏家ディプロマを取得。フランスではラジオ局やヴェルサイユ宮殿などでの録音の他、ジャン・ テュベリ、シギスヴァルト・クイケン、ラファエル・ピション等著名な指揮者のもとで演奏。フランスを代表する古楽グループ Ensemble La Fenice の公演に度々参加する。第32回国際古楽コンクール〈山梨〉入選。これまでにモダンファゴットを宮永康史、水谷上総、岡崎耕治の各氏に、ヒストリカルファゴットを鈴木禎、堂阪清高、ジェレミー・パパセルジオの各氏に師事。
 

Concert Information
古楽実験工房 vol.1 コンチェルトの夕べ in 京都

古楽実験工房

https://teket.jp/1383/7740
[日時]2021年12月8日(水) 18:30開場、19:00開演
[会場]青山音楽記念館 バロックザール(京都)
[曲目]J.S.バッハ:ブランデンブルク協奏曲 第5番ニ長調 BWV1050、J.S. バッハ:管弦楽組曲 第2番 BWV1067 ロ短調、C.P.E.バッハ:フルート協奏曲イ短調 Wq. 166, H. 431、J.クヴァンツ:2つのフルートのための協奏曲 ト短調 QV 6:8
[出演]
フラウト・トラヴェルソ/アーティスティック・リーダー:柴田俊幸
バロック・ヴァイオリン:鳥生真理絵、大橋麗実
バロック・ヴィオラ:廣海史帆
バロック・チェロ:島根朋史
ヴィオローネ:布施砂丘彦
バロック・ファゴット:長谷川太郎
テオルボ:小暮浩史
チェンバロ:中川 岳
フラウト・トラヴェルソ:小松 綾(※クヴァンツのみ)
[チケット販売期間]2021年11月1日(月) 10:00 ~ 2021年12月8日(水) 0:00
[問合せ]株式会社Locatell(ロカテル):info@locatell.net

1   |   2      次へ>      


フルート奏者カバーストーリー