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古楽実験工房 vol.1

―コンチェルトの夕べ in 京都―

種を蒔き続けた、その先に…

長谷川
実際に顔を合わせた数回の間に、僕はかなり柴田さんから影響を受けているなあ、と自分で思う部分があります。
たとえばどんな?
長谷川
「固定概念」という言葉が、まずそうですね。「固定概念を取り払うこと」が、いつもお話しするたびにテーマとして出てくるんです。「皆がやっているからという理由で自分もやろうとしていないか」「演奏者目線に慣れて、お客さん目線を忘れていないか」など、これまでルーティンとしてやってきたことを新しい切り口で突きつけられることが多々あって……そのたびハッとさせられます。
柴田
なんだか僕、エラそうな感じになってませんか……(笑)そもそも最初に自分自身が留学したニューヨークでは、今でもすごく良い体験をしたと思うのですが、何をするにもまずお客さんがいることを意識したうえで芸術活動が成り立っている。すべてアーティスト目線ではないんです。どうやったら音楽や芸術を社会の一部として回していけるか、ということを芸術家がものすごく意識している。
長谷川
その発想がすべてにおいて徹底しているところ、尊敬します。新しいことにどんどん挑戦されているのも、その考え方が根底にあるからなのだと思います。
柴田
実は今回の公演を東京ではなく京都でやることにしたのも、演奏者目線だけで考えてはいけないという思いからでした。現在のように、ほぼ東京一極集中でのコンサート活動を続けていては、地方で音楽が鳴らなくなるという危機感があります。良い音楽、面白い企画に地方も巻き込んでいかなくては、いずれ文化や芸術が衰退してしまう。古楽ブームと言われるものの、今その活動の場もほとんどが東京ですから。
「実験工房」という試みには、そんな意味と目的も込めています。次回vol.2以降も、基本的には地方公演にしたい。そうやって種を蒔き続けると、何年後かには少しずつ花が開くということを、僕は古楽祭の経験から学びました。高松でようやく形になってきたことが、他の地域でも実現するといいな、と今は考えています。
 
 
音楽家と同時にプロデューサーでもある柴田さんの姿勢から、長谷川さんのように何かを学びとる若い人たちの輪がますます広がっていきそうですね。
今回公演に出演される皆さんは、どんなご縁で集まった方々ですか?
柴田
東大卒のチェンバロ奏者である中川岳君は、東京・中野にある古楽の音楽スタジオ「Space415」のオーナーさんを通じて知り合った演奏家で、いつか共演したいというお互いの願いが実現しました。
バロック・バイオリンの鳥生真理絵さんは、ベルギーでのアンサンブル活動を通じて知り合いました。音楽的に、この人ならコンミスを任せられるという信頼を置いている奏者の一人です。
ドイツに留学した中川君以外は、フランスで学んだことがある人たちがほとんどです。というのも、今回の演奏はフランススタイルでやりたいという願望があったから。
プログラムは、ドイツの音楽で構成されていますが。
柴田
そうなんです。でも、バッハやクヴァンツの音楽が作曲された当時、ドイツとフランスの間で演奏家の行き来がなかったかというと、そんなことはない。当時の最先端の楽器はフランスで生まれ、それがドイツに渡ってきます。もちろん、楽器とともに演奏家たちも移動するのです。当時のドイツにもエスプリというものは存在したはずで、ドイツ音楽をアラ・フランチェーゼ(フランス風)に演奏するべきではないという考え方は、僕は違うのではないかと思っています。
長谷川
それにはすごく同意です。僕はパリに学んで肌で感じてきましたが、フランスの人々は本当に自国の文化に誇りを持っています。彼らには、ヨーロッパの音楽全般がフランス音楽と密接に関わっているという矜持があります。
柴田
そんなわけで、そういった演奏解釈も「実験工房」としての試みとして実現したいという意図が、今回のメンバー構成にもつながっています。これからの若い世代の演奏家なら、従来の凝り固まったしきたりを良い意味で取り払って“新しい古楽”をきっと作っていける。そんな大いなる期待を込めた企画であり、聴いてくださる皆さんにも新時代の自由な古楽を楽しんでいただければ嬉しいです。
 

大いなる冒険のススメ

今回の「古楽実験工房」は、AFFの対象公演とのことですが、この芸術家をサポートする動きについて思うことはありますか?
柴田
演奏家は、これを絶好のチャンスと捉えて今までにできなかったことをやるべきです……いや、やってほしいと思います、切実に。その好機をどう使うか。僕自身についていえば、東京ではなく京都で、古楽の“実験”的な試みを実現できるのもAFFという制度があったからです。ここでもし、これまでと変わらない普通のコンサートをやるのだとしたら、コロナ禍から何の教訓も得ていないことになるし、一つも成長できていないことになってしまう。
この制度は、芸術家に対する支援金というより、コロナ禍という新たな状況を打開するためのブースターだと僕は思うんです。どれだけ面白いことをプロデュースできるか、今こそアイデアを発揮するときですよ。
とはいえ、演奏活動を中止せざるを得ない自粛期間もそれなりに長かったわけで、それに対する補償がようやくかなったという見方もあります。
柴田
ヨーロッパの都市が軒並みロックダウンしていた現実を目の当たりにしてきた身からすると、日本では制約がありながらも今は前よりもお客さまをたくさん入れられるようになってきたし、お客さんたちも、音楽をライブで聞きたい!という気持ちが強くなっている。そんな今こそ大いなる冒険をしましょう!と、僕は呼びかけたい。
特に、僕たちも含め、若い演奏家たちがどんなことに挑戦していくかを真剣に注目してほしい気持ちです。
今回の「古楽実験工房vol.1」、そして先々に計画されているvol.2以降にも、とても期待感が高まります。引き続き“攻めた”古楽が各地に響くことを、楽しみにしています。
 
 
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