THE FLUTEオンライン記事:イ・ジュヒ 若い世代が現状を変えていけるように……
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イ・ジュヒ 若い世代が現状を変えていけるように……

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韓国生まれ、パリやニューヨークに学んだフルーティスト、イ・ジュヒさん。オペラファンタジー曲集のCDを、このたび日本でリリースした。「フルートを吹くのは歌うことと同じ」といつもレッスンで教えているという通り、自身でもオペラを演奏することを得意としている。多彩なオペラの世界を華麗なテクニックで奏でるその音楽性は、どこでどんなふうに育まれたのだろうか。
(インタビュー、翻訳:榊原敬幸、取材協力:コジマ録音)

  

コンサートのようなレッスンからクラシック音楽を学ぶ

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韓国のフルート事情を教えてください。日本にはフルート愛好家が昔から多く、また中国からも最近は実力のあるフルーティストが輩出されていますが、韓国のフルート界はいかがですか?
ジュヒ
私は2016年以来、上海音楽院でのレッスンやマスタークラスなどで中国を頻繁に訪れていますが、そこで目にする中国人フルーティストの進歩はめざましいものがあります。韓国でも最近は世界に羽ばたく有名なフルーティストを輩出するようになりましたし、国内でも素晴らしい奏者が数多く活動しています。ですが、韓国内ではプロフェッショナルとしてそれほど多くのポジションや演奏の場があるわけではありません。小さな町で子どもにフルートを教えるくらいしか、働く場がないことが多いのも現状です。能力のあるフルーティストが国内のいろいろな場所で活動することにより、その手ほどきを受けた若い世代が現状を変えていってくれることを期待しています。 実際のところ、国際的に高名な奏者のコンサートでも空席が目立ちますので……日本で目にした満員の聴衆と、その音楽に対する熱意に憧れてしまいます。もちろん日本では長い年月をかけた文化的な背景があってのことだと思っていますので、私たちもそうなれれば、と願っています。いくらコンサートでの演奏の質が高くても、それを聴いて楽しんでくれる聴衆がいなければ、音楽は成り立ちませんからね。
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これまでどんな先生に師事しましたか?そしてその中で強く印象に残っているのは、どんな教えでしょうか?
ジュヒ
フルートを習い始めた最初の先生はKBS交響楽団のDae-won Kimです。その後、パリ高等音楽院でレイモン・ギオーとアラン・マリオンに教えを受け、さらにイエール大学に移り、ランサム・ウィルソンとキャロル・ウィンセンスのレッスンを受けています。その中でも特別な一人と言えば……マリオンでしょうか。彼は自らの演奏をもって教えてくれる先生で、レッスンはまるで彼のコンサートのようでした。それによって、私はどういう演奏が本当のクラシック音楽なのかを徹底的に学ぶことができました。今年は彼の没後20周年にあたるので、フランスの彼の家を訪ねて夫人にもお会いして、自宅で小さなコンサートもさせていただきました。マリオンの自宅の庭で夫人と食事をし、彼の書斎で練習をさせてもらい……彼の思い出に浸る素晴らしい時間を過ごせました。

ブリッチャルディのオペラファンタジーに魅入られて

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今回リリースされたCDは、フルートとピアノによるオペラファンタジー集ですね。このレパートリーにしようと思ったのはなぜですか?
ジュヒ
私はいつもレッスンで「フルートを吹くのは歌うことと同じ」と教えています。そして自分自身でも歌、オペラのフレーズを演奏するのが好きなんです。
ある時ブリッチャルディの作曲したオペラ・ファンタジーに出会い、その虜になってしまいました。よく知られているフランス人が作曲したオペラ・ファンタジーの名曲よりも、彼の作品のほうが技術的な難しさだけでなくアリア、歌に重点を置いて作られているんです。CDのタイトルにした“Dolce amaro”の意味するところ、オペラ・アリアの醍醐味である“甘さ”と“ほろ苦さ”が存分にちりばめられている魅力を、ぜひ皆さんに伝えたかったというのがいちばん大きな理由です。

韓国で最初のフルート オーケストラを率いて

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後進の指導にも情熱を傾け、コンクールの審査員などもされていますね。最近の学生を教えていて感じるのは、どんなことですか?
ジュヒ
今の生徒たちはやはり以前よりも若い時期に成熟し、より多くの音楽的な答えを知っているように思います。ですが、時にはそれも行き過ぎだと感じることがありますね。YouTubeの弊害でしょうか……模範的な演奏を簡単に知りすぎてしまうことで、自分で考えて音楽を作り上げる、という気概が薄くなってしまっているのはとても残念です。
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YouTubeで瞬時に音楽が聴けてしまうことの影響は、フルートを教えている人からとてもよく聞きます。どの国の人も一様に指摘する、根深い問題になりつつありますね。
ところで、日本ではフルートオーケストラに参加する愛好家がとても多くなってきていますが、韓国でもフルートオーケストラは盛んなのでしょうか?
ジュヒ
日本と比べればまだまだですね。それでもここ最近はアマチュアフルーティストの数も増えてきて、気運は高まっています。私自身もソウル・フルート合奏団で1992年以来コンサートマスターを務めています。これは韓国で最初のフルートオーケストラですし、毎年いくつかの小さな編成でのコンサートの他に、一回は大編成でのコンサートも開いています。こういう活動が、他のアンサンブルへの良い道標になればいいな、と思います。
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普段使用されているフルートの種類と、どんなところが気に入っているかを教えてください。
ジュヒ
パウエルの総14Kを使い始めて2年になります。キーを軽量化したエレガント・モデルですが、輝くような音色と、“歌う”ように吹ける演奏性の高さをとても気に入っています。
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音楽以外にご趣味は?
ジュヒ
ピラティスです! 最初はフルートの練習や演奏の後になんとか体と心を上手くリラックスさせたいと思って、半分義務のような感じで始めたんです。でも、今はとても楽しみながら取り組んでいます。フルートを演奏することで起こる心身の緊張を取るには、とても良い方法ですよ。
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プロの演奏家は、からだのことを意識して本当にしっかり自己管理されていますね。日本でも取材などで接していると、そのことはよく感じます。
では最後に、日本の読者へメッセージをお願いします。
ジュヒ
私の新しいアルバム「Dolce amaro」をこうして皆さんにご紹介できたことを、大変嬉しく思います。来年の4月29日、東京で工藤重典さんの“Kudo Live”でドップラーのダブルコンチェルトを演奏するために来日します。ぜひそこでも読者の皆様とお会いできればと思います。

プロフィール
イ・ジュヒ Joohee Lee
韓国ソウル生まれ。イェウォン芸術学校およびソウル芸術高校で学び、連続で最優秀賞を受賞。イファ・キョンヒャン・コンクールをはじめ韓国の数々のコンクールに優勝。その後、パリ国立高等音楽院副校長およびローマ大賞の受賞者アラン・ウェーバーに招かれ、パリに留学。エコール・ノルマル音楽院にてパトリシア・ナーグルに師事、一年で審査員一致の優秀賞で卒業。パリ国立高等音楽院でアラン・マリオンおよびレイモン・ギヨーに師事、木管五重奏で室内楽の一等賞を得た。さらにイェール大学音楽院にてランサム・ウィルソンに師事、修士号を取得。在学中に第5回ジャン=ピエール・ランパル国際フルート・コンクールで特別賞を受賞。最終的にはジュリアード音楽院にてキャロル・ウィンセンスの最後の弟子として腕を磨き、ニューヨークのティルデン賞(審査員長ジャン=ピエール・ランパル)にて第2位を受賞。現在、韓国の名門校である崇実大学音楽院の客員教授および延世大学の講師ほか、韓国フェスティバル・アンサンブルのソロ・フルート奏者、ソウル・フルート・クワイアのリーダー、アジア・フルート連盟理事を務める。


dolce amaro
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dolce amaro
〜フルートとピアノで奏でるオペラファンタジー〜

【ALM RECORDS / コジマ録音 ALCD-9187】
[価格]¥2,800(税別)
[演奏] イ・ジュヒ(Fl)、アリアンヌ・ジャコブ(Pf)
[曲目]ブリッチャルディ: ヴェルディの歌劇「椿姫」による自由なトランスクリプション、ロッシーニ: 歌劇「セビリアの理髪師」より≪今の歌声は≫、ショパン: ロッシーニの主題による変奏曲、ブリッチャルディ: ヴェルディの歌劇「マクベス」による幻想曲 作品47、 ドニゼッティ: フルートとピアノのためのソナタ、ブリッチャルディ: ヴェルディの歌劇「アイーダ」による劇的幻想曲 作品134、ジュナン: ヴェルディの歌劇「リゴレット」による幻想曲 作品19



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