サックス記事 世界の頂きを知る奏者が生んだ話題のサックス〈XYZ〉に迫る!
  サックス記事 世界の頂きを知る奏者が生んだ話題のサックス〈XYZ〉に迫る!
[1ページ目│記事トップ
THE SAX vol.121 Gear Report

世界の頂きを知る奏者が生んだ話題のサックス〈XYZ〉に迫る!

GEAR

世界的サクソフォニスト、ニキータ・ズィミンが日本の松下洋とともに新ブランド〈XYZ〉を立ち上げた。世界の頂きを知る2人の演奏家が、“完璧な楽器”を追求し、生まれたXYZ。各所で話題となっているこの注目の楽器を探るべく、編集部はニキータにオンラインインタビューを敢行。XYZ誕生までの道のりから、楽器に込めた想いとその展望について、彼らの言葉を通して掘り下げていこう。

世界的サクソフォニストの選択肢は、“選ぶ”ではなく、“創る”だった

XYZを開発しようと思った経緯を教えてください。
ニキータ・ズィミン
(以下NZ)
音楽家の人生とは、常に「探求」の連続です。自分だけの道、自分だけの音、自分だけのスタイルを探しており、音楽も楽器についても常に研究しています。そうした中で、既存の楽器に自分を合わせるのではなく、自分たちの手で理想の楽器を「創り出す」ことに挑戦しようと考えるようになりました。
音楽家の人生は常に変化・成長し、新しいアイデアが次々と生まれてくるもので、最初から“答え”があるわけではありません。だからこそ私の良き友人である洋(松下)とともに議論を重ねながら、信頼できる工場を探し、私たちの経験に基づくアイデアを詰め込んだ「XYZ」というブランドが誕生しました。
既存ブランドに倣うのではなく、自分たちのスタイルを追求すること。それこそが私たちが楽器作りで目指したことであり、私たちにはそれができると信じていました。夢を持つことは人間の素晴らしさのひとつですが、夢を「実現させる」ことが何より大切です。私たちは、それを本気で目指しました。
楽器の開発パートナーとはどのように出会ったのでしょう?
NZ
5年ほど前、最初は台湾で楽器を作ろうとしていましたが、ビジネス面での問題が生じ、その後に今の中国工場と出会いました。この工場はもともと自社ブランドのサクソフォンを製造しており、複数の工場を比較検討したその結果、この工場に将来性を感じました。そこからは、私たちのアイデアをもとに細かくアドバイスしていき、ゼロからすべての設計を再構築していきました。
アドバイスをもとに工場が改善していく形で作っていったのですね。
NZ
私と洋のふたりがリーダーとなり、世界中の技術者、演奏家、教授たちとチームを組み、意見を出し合いながら、より技術的なディテールへと落とし込んだものを“宿題”という形で工場に渡し、それを彼らが改善していきました。ときには工場から新たな提案をしてくることもあります。こうした「採用」か「不採用」かの最終判断は、すべて私と洋のふたりだけで行なっています。
洋は、世界中で演奏経験を積んできた素晴らしいアーティストであり、私自身も音楽的・芸術的な経験を重ねてきました。私たちは自分たちが求める音色、技術的な要件を明確に理解しています。もちろん、多くの人が満足できる楽器を目指していますが、まずは私たち自身が納得できる“完璧な楽器”を作ることを何よりも大切にしています。
私は長年、セルマーを愛用してきましたが、その中で見出した良い部分はしっかりと活かし、逆に不満に感じていた部分は取り入れず、そこに一切の妥協はありません。「完璧な楽器を作る」というと大げさに思われるかもしれませんが、それが私たちの本音なんです。

音楽の始まり—それこそが人生の「アクセント」

具体的にこだわった点は?
NZ
楽器が人を惹きつける順序として、まず最初に「見た目の美しさ」です。つまり設計が良いこと。次に、触ったときの「タッチ感」がよく、快適であること。そして楽器を吹いたとき、瞬時に音が鳴り、その音が「圴一で吹きやすい」こと。低音も即座に鳴って、高音を吹いても音程に問題がないこと。「音程の正確さ」はもちろんですが、子どもや学生から、プロのジャズ奏者まで、誰が使っても扱いやすく、さまざまなアンブシュアに対応できること。そして「音色のパレット」です。柔らかい音、明るい音、極めて明るい音、あるいは暗い音など、さまざまな音色が出せる柔軟性を目指しました。単一の音色ではなく、細かく深いニュアンスまで柔軟に表現できること。これがXYZが目指した私たちの方向性です。
「Accent」「Pro」「Artist」の3モデルがありますが、それぞれのコンセプトを教えてください。
NZ
それぞれ採用している金属素材から違い、素材は音色で選んでいます。「Accent」は、鳴りのよさが魅力で、とても吹きやすく、音程もかなり安定しています。価格も手頃なため、初心者や若い演奏者に適していると思います。「Pro」は音色がより豊かで、アフリカ産ココボロ材を使用した木製ボタンなど、細部のデザインにもこだわっています。XYZはすべてのモデルがプロ用として使えるクオリティで作っており、現にジャズ奏者の方で「Accent」のほうを好む方もいます。価格の違いで自由に選んでもらえると思います。
最上位モデルの「Artist」は、まさに私自身がクラシックの国際的な舞台で使用している楽器です。音程、音色ともに自分が求めるすべてを表現できる、完璧に限りなく近い楽器に仕上がっています。
松下
名前にも意味を込めていて、「Accent」は、人生における“アクセント”からきています。音楽の始まり——それこそが人生の「アクセント」になると。
NZ
そう、音楽の始まりは “インパクト”のようなもの。それが「Accent」の意味です。「Pro」はすでに自分のスタイルや個性を持った演奏者。そして「Artist」はプロの概念を超えた“真の音楽家”のためのモデル。ただのグレード分けではなく、それぞれが異なる「コンセプト」と「エネルギー」を持って設計されています。
名前からすると「Pro」と「Artist」は似ていますが、その違いは?
NZ
設計やメカニズム、材質から焼きの工程といった製造技術まですべてが異なります。もっと語りたいのですが、詳しくは「企業秘密」なんです(笑)。 特徴的な点で言えば、「Artist」は、ソルダード・トーンホールを採用しています。これはフルートの高級ハンドメイドで用いられる製造技術で、ドローン(音孔引き上げ)式よりもはるかに手間とコストがかかります。しかし、私たちは“完璧”を目指し、コストよりもクオリティを優先しました。その結果は、吹奏感や音色にしっかりと現れ、今ではこの技術が本当に素晴らしいと感じています。
松下
「Artist」は、これまでの演奏活動の中で不満に感じていた部分——例えば、低音の出にくさであったり、高音の音程が高いとき、下げようとするとpにノイズが入ってしまったり、中音のド♯はいつも替え指を使わなければいけない……といったすべての課題と向き合い、pでもfでももっとリッチな音で鳴ってくれる私たちの“理想”そのものを追求し、「これが最高だ」と感じたなら迷わず選ぶ。それが「Aritst」です。
ソルダード・トーンホールは、24個ものトーンホールをハンドメイドで仕上げています。この吹奏感はぜひ体験していただきたいですね。
1   |   2   |   3      次へ>      
サックス