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THE SAX vol.121 Gear Report
世界の頂きを知る奏者が生んだ話題のサックス〈XYZ〉に迫る!
[この記事の目次]
世界的サクソフォニスト、ニキータ・ズィミンが日本の松下洋とともに新ブランド〈XYZ〉を立ち上げた。世界の頂きを知る2人の演奏家が、“完璧な楽器”を追求し、生まれたXYZ。各所で話題となっているこの注目の楽器を探るべく、編集部はニキータにオンラインインタビューを敢行。XYZ誕生までの道のりから、楽器に込めた想いとその展望について、彼らの言葉を通して掘り下げていこう。
“中国製”の固定観念を覆せると信じていた
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ソルダード・トーンホールは、かつてヴィンテージのKINGなどが採用していましたが、高い精度が求められ、現在採用しているサックスはないと思います。このアイデアはどこから?
NZ
ロシアと日本の技術者仲間が「やってみよう!」と提案してくれて、中国の工場の技術者が「できます」と答えてくれました。他の工場では「コストがかかりすぎる」「技術的に難しい」と理由をつけて断られることも多い中、私たちが信頼する工場の社長は「ノー」と言いません。いつも「やってみましょう」と言ってくれるんです。ビジネスは二の次で、“アイデア”を大切にし、「今できる最高のものを作ろう」という情熱を持って取り組んでくれる。この楽器が実現したのもこうした「人」と「信頼」があったからです。
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その他にもアイデアを活かした点は?
NZ
たとえば「木製ボタン」は、中国の文化からインスピレーションを得ました。中国では、ストレス解消のための触感グッズのような木製のおもちゃがあり、その素材は触り心地が良くて、温かみが気に入っていたんです。「これをボタンに使おう」と思いつき、実際に採用しました。ココロボ材は貝素材より軽く、同じくらい強度もあり、キィの開閉もスムーズになります。それに年数が経つごとに味が出て、より触り心地がよく、ツヤも増す。本当に素晴らしいアイデアだと思っています。
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「クオリティコントール」の面で、検品体制についても教えてください。
NZ
検品は、私と洋と専門技術者で頻繁に中国へ赴き、自ら行なっています。私たちの製品は開発して間もないため、「時間の経過とともにどうなるか」まで含めてしっかりとチェックする必要があります。私たちは自分たちの名前とブランドを背負っている以上、質を落とすことはできませんし、それは工場側も同じです。工場では、素材の段階から製品になるまでのすべての工程をチェックしています。また、中国には優れた演奏家の友人たちがいて、彼らが代わりに工場に出向き、動画でレポートを送ってくれます。それでも細かい点については、私たち自身が直接行って確認していて、保証や品質管理も含めて、「安心して手に取ってもらえる仕組み」を作っています。
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日本国内では現状はどのような形で販売していますか?
松下
日本ではムートンストアですべて検品チェックをしていて、購入から半年間の保証をつけています。今はムートンストアで試奏・購入というのが主です。問合せいただいた際に好みを言っていただければ、私が選定することも可能です。
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中国工場との協業を通じて、感じたことは?
NZ
“中国製”と聞くと「品質が良くない」という固定観念があることは理解しています。しかし中国は未来を見据え、急速に成長を遂げている国です。私たちならそれを覆せるという自信がありました。現に、私たちのアイデアは中国工場との協業のなかで次々と実現しており、これは非常にポジティブなことだと感じています。
松下
実際のところ中国は、いくつかの工場で生産されたパーツを各々の業者が組み上げ、OEMなどでロゴだけ変えて販売するビジネスモデルがほんとんどです。しかし、私たちは自社工場内ですべてを作ることができ、互いが妥協せずに取り組むから実現できた稀有なケースだと思います。それでも万が一、品質が良くない場合はすべて修正となり、私たちは一切その楽器を受け取りません。
“良し悪し”を自分の感性で見極められる奏者に
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市場戦略についてですが、クラシック市場において、既存ブランドの力が強く、新しいブランドが参入するのは難しいとも言われます。この点はどうお考えですか?
NZ
「I Can Play」ではなく、「I Want Play」であり、奏者に誠実であること。そして自分たちがこの楽器を演奏し、紹介していくことを大切にしたいです。気になった方は、ぜひ手に取って吹いてみてください。気に入れば購入する、それだけです。強引なマーケティングはしたくない。私たちは“演奏家”であって、“ビジネスマン”ではないからです。人生とは常に新しいものを試し、発見する旅のようなもの。ワインや香水のように、お気に入りのブランドを大切にしながらも、新しいものを試すことも楽しみのひとつです。だからこそ、XYZという楽器も「自由な選択肢」として存在していたい。
松下
私は会社を経営していますが……ビジネスマンとしては優秀ではないですね(笑)。
NZ
それは私もだよ(笑)。6歳から音楽だけで生きてきたので、販売やマーケティングは専門外ですが、「演奏家として良い楽器を作る」という本質をつらぬき、その楽器を使ってもらえることが何よりの喜びです。自分のためだけでなく、他の演奏家たちのためにも価値あるものを作れた——それがこのプロジェクト最大の意義だと思っています。
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日本では楽器の価格が年々上がっていますし、XYZの価格帯はそうした現代の新たな選択肢になりそうですね。ロシア市場はどうですか?
NZ
ロシアは制裁の影響でセルマーは購入できませんし、日本ブランドもほとんど手に入りません。そもそも楽器店がない地域も多いので、ヨーロッパや中国、日本へ出向いて購入するしかないのが現状です。だからこそ、この楽器が力になればと思います。
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ニキータさんの周りのXYZの評価は?
NZ
とても好評です。私が運営する協会では皆がテナーやアルトを使い始めていて、今度ハルビンで開催される音楽祭では、XYZを使ったオーケストラとの共演も予定しています。私自身はすでにロシアや中国のコンサートでXYZを使っていて、完全に「自分の楽器」として確信を持って使用しています。
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最後に、日本の読者へメッセージをお願いします。
NZ
楽器の話より皆さんに伝えたいことがあります。どうか、オープンマインドな音楽家であってください。いい演奏に触れ、自分を信じ、自分の人生を創り上げてください。たとえ先生に言われたことでも、一度は自分で検証してほしい。あなた自身の人生なのだから。
その旅の中で、マスタークラスなどを通し、異なる文化を持つ人たちと触れ合う機会があるなら、それは本当に素晴らしいことです。自国の文化や歴史、音楽的背景を背負いながら他国の才能と交わることで、より豊かな音楽家になれる。それは言葉だけではなく、音楽という「言語」で通じ合える存在になるということです。
たくさんの情報にあふれる時代だからこそ、「何が良くて、何が良くないのか」を自分の感性で見極めてください。寛容で、知的でありながら、明確な価値基準を持っていてほしいと思います。そしてステージに立ち、そうした素晴らしい経験を、音楽家としてより多くの人へ共有できる、“Artist”を目指してください。
その旅の中で、マスタークラスなどを通し、異なる文化を持つ人たちと触れ合う機会があるなら、それは本当に素晴らしいことです。自国の文化や歴史、音楽的背景を背負いながら他国の才能と交わることで、より豊かな音楽家になれる。それは言葉だけではなく、音楽という「言語」で通じ合える存在になるということです。
たくさんの情報にあふれる時代だからこそ、「何が良くて、何が良くないのか」を自分の感性で見極めてください。寛容で、知的でありながら、明確な価値基準を持っていてほしいと思います。そしてステージに立ち、そうした素晴らしい経験を、音楽家としてより多くの人へ共有できる、“Artist”を目指してください。
松下
ぜひ一度XYZを試してみてください。世界のニキータ・ズィミンがこだわって作り、実際に使って演奏していることが、“いい楽器”という何よりの証拠です。
NZ
やはり洋は素晴らしい友人だね!(笑) そう、Just Try XYZ! 何がいいのかすぐにわかるよ。YesかNoかもね!












