サックス記事 小林香織 都会の夜に流れる R&B グルーヴをまとった極上のサックス
THE SAX vol.58 Cover Story

小林香織 都会の夜に流れる R&B グルーヴをまとった極上のサックス

日本のみならず活躍の場をアジア各国にまで広げて、いまや国際的なプレイヤーへと成長した小林香織。前作からセルフプロデュースに挑むことを決意し、自らのカラーを前面に打ち出しはじめた彼女の最新作は、フェイバリットなジャンルだという R&B をテーマにしたアルバムとなった。これまでのイメージからは印象を変えたシックで大人なムードのサウンドで新境地を切り開いた彼女が、その手応えを語った。
(取材協力:ビクターエンタテインメント)


プライベートで最もよく聴くのは R&B

今回のアルバム「アーバン・ストリーム」は R&B がテーマになっていますが、作品のコンセプトはいつ頃から暖めていたのでしょう。
小林香織
やりたいことはいつもたくさんあって、それをいっぱいに詰め込んだのが前作の「SEVENth」でした。初セルフプロデュース作ということもあって、言うなれば “小林香織カタログ” のような作品になりました。そしてそれに続くセルフプロデュース2作目と考えた時に、プライベートな時間に最もよく聴いている R&B をテーマにしたいと思ったのです。普段よく聴いている音楽と自分が作るもののギャップを埋めてみようかなと。あまりそういうイメージはないのかもしれなくて、意外だとおっしゃる方もいるんですけど、自分としては自然なんです。いい意味での公私混同というか(笑)。
ファンクやソウルと R&B の違いはどのように捉えていますか。
小林
ファンクは私のなかでは男らしいというか下町な感じがありますね(笑)。それに対して特に今回の R&B のイメージでこだわったのは “極上でありたい” ということでした。ちょっとリッチでゴージャスな世界です。私がいつも好きで聴いている R&B もそういうタイプのものが多いですね。CDをプレイした瞬間にその場をワンランク上の空間に一変させるような音楽。まあ、人によって R&B の捉え方って様々だと思いますけど、私は R&B のそんなところにスポットを当てました。

あえて全編にプログラミングサウンドを採用

今回は曲ごとに複数のトラックメイカーを起用して、プログラミングサウンドでバックトラックを作り上げていますが、その狙いは?
小林
いまの R&B の主流は完全に打ち込みでトラックを制作するものになっていますから、中途半端に生演奏のトラックを混ぜるのではなく全編プログラミングサウンドに。それぐらいハッキリさせちゃっていいかなと考えました。せっかく毎年1枚のペースでアルバムを作る機会を与えてもらっているので同じことはやりたくない。去年とはガラッと違うコンセプトにしたいという狙いもありましたね。それにはサウンドの種類を変えるのが一番効果的ですから。
コンポーザーそしてプロデューサーとしてトラックメイカーに要望したのはどんなことでしょう。
小林
10人いるトラックメイカーのうち5人は私のバンドメンバーとしてこれまでにお手伝いしてくださっているミュージシャンです。あとの5人は今回が “初めまして” という方々になります。お願いしたのは余計な音をなるべく排して欲しいということです。というのは、過剰な装飾があるとヴォーカルの場合には成立してもサックスが乗るとそぐわないということが間々あるので。例えば全部をデジタルサウンドにしていくと、サックスでやるとあまりにもケミカルになり過ぎてしまう。テクノやハウスに寄せていく意図があればそれでもいいけど、R&B の色は薄れてしまいます。私は今回 “極上のBGM” を作りたいとずっと言ってきたんです。これまでは BGM という言葉にネガティブなイメージを持っていましたけど、聴く人の生活を邪魔しない音楽というポジティブな意味で、あえて BGM という言葉を使いました。それこそちょっとした余計な音を入れることで悪い意味での BGM になることがある。それを避けたかったんです。
プログラミングサウンドにサックスを乗せるにあたって気をつけた点はありますか?
小林
それはもう R&B シンガーになりきることですね。サックスの手癖でついやりたくなることがいろいろあるんですけど、「いや、エリック・ベネイだったらこういう風には歌わないだろうな」とか「ミュージック・ソウルチャイルドだったら多分ここはこういうフェイクに持っていくだろうな」とか、普段やり慣れているジャズ的なアドリブからは離れて “R&Bにするためには” ということを基準にすべて考えて演奏しました。
小林香織

CD Information

「アーバン・ストリーム」小林香織 初回盤(DVD付)
「アーバン・ストリーム」小林香織 通常盤
 
「アーバン・ストリーム」
【VIZJ-14】初回盤(DVD付) ¥3,600
【VICJ-61680】通常盤 ¥3,150

[収録曲]Prayer、Time、Dream Market、Gotta Go to School(Interlude)、Gotta Go to School、Solitude、Cats & Dog、Tears、Sultry Nights、Back Street、Lovin' You、September、City Lights



次ページにインタビュー続く
・アドリブではなくフェイクでソロを吹く
・有名 R&B のカヴァーも2曲収録

登場するアーティスト
画像

小林香織
Kaori Kobayashi

1981年、神奈川県生まれ東京育ち、母はピアノ教師、父は写真家。中学1年から吹奏楽部でフルートを、高校2年でアルトサックスを始め、原ひとみ氏に師事。2000年に洗足学園音楽大学ジャズコースに入学し、ボブ・ザング氏に師事。在学中より都内のライブハウス等で活動し、卒業後の2005年2月、ビクターエンタテインメントより「Solar」でメジャーデビュー。現在までにベストアルバムを含む12枚のアルバム、ライブDVD、譜面集2冊を発表。YouTubeにアップされた『Nothing's Gonna Change My Love For You』が世界中で多大なアクセス数を記録し新聞テレビで話題になり、アジアでの公演を行なう。2013年には台湾のサックスメーカーTKMelodyとの共同開発による小林香織モデルのサックスが発売される。2016年8月に発表した洋楽カバーアルバム「MELODY」では、魚類学者でタレントのさかなクンが参加したことで話題となる。現在、泉谷しげる、タケカワユキヒデらのライブサポートに加え、ジャンルを問わず様々なレコーディングにも参加する他、母校である洗足学園音楽大学ジャズコースの講師として後進の育成にも力を入れている。2018年9月26日キングレコードに移籍、その第一弾として全曲オリジナルのニューアルバム「Be myself!」を発表。

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