サックス記事 EASTMAN SAXを深掘り!
  サックス記事 EASTMAN SAXを深掘り!
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三木俊彦の試奏検証

EASTMAN SAXを深掘り!

GEAR
[この記事の目次]

ボブ・ミンツァー氏が愛用する楽器として知られるEASTMAN(イーストマン)。
そんなイーストマンを今回試奏検証してくれたのは、ビル・サクストンやジェームス・カーターらジャズのビッグネームとの共演歴を持つジャズプレイヤーの三木俊彦氏。彼が楽器に求めるものとは? 前号に引きつづき、この楽器の実力を深掘りしていこう。

●PROFILE
三木俊彦 Toshihiko Miki
1976年神戸生まれ、大阪音楽大学短期大学部Jazz科卒。赤松二郎、土岐英史、ジョージ・ガゾーンに師事。自己グループでの活動のほか、江藤良人、吉澤良治郎、村上寛、北川潔ら多数のバンドやライブ・レコーディングに参加し、作曲活動でも頭角を現す。2006年にはニューヨークに渡米し、Bill Saxton、James Carter、Greg Bandyらと共演するほか、レゲエ界の大物プロデューサーDerrick Barnettのレコーディングに参加するなど、国内外のジャズフェスティバルや様々なメディアで活躍。また、セネガルやマリなどのネイティブアフリカンバンドにも参加し、グローバルな視点で多方面にわたる音楽活動を展開している。一方でサックス・ジャズの指導者としてこれまでに1000人以上のプロ・アマプレイヤーを導いてきた。ビバップに根ざしつつ、モード・ファンク・コンテンポラリーまで幅広く演奏するスタイルで聴衆を魅了する注目のジャズサックスプレイヤー。またYouTubeチャンネルも運営し、登録者数は1万人を超える。

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吹きやすさと解像度の高さが魅力

イーストマンの楽器を試されましたが、今回たくさんの個体を吹いた率直な感想は?
三木俊彦
第1印象は「すごく吹きやすい」ですね。音色が良くて操作性が抜群に良いです。楽器ってメーカーごとにカラーがあるじゃないですか。イーストマンはそれがシンプル。見た目はヴィンテージを意識した造りで、上から下まで素直に鳴ってくれるし、手で持った感触はマークⅥに近い。ジャズ系の現行サックスってほとんどマークⅥを意識していると思いますが、その中で差別化を図るために個性が強すぎる楽器も多いんですよ。イーストマンは自然体で操作しやすく、吹きやすい。
あと、音抜けがほんとにいいと思います。音が大きい・小さいという意味ではなくて、解像度が高くて鮮明。だから音の輪郭がはっきりする。そういう楽器って吹いていて気持ちがいいんですよ。例えばマウスピースでも、ローバッフルのラバーマウスピースのアタリ個体って音色がすごく鮮明で、吹き込まなくても十分吹きごたえある音が出る。そういう音抜けのよさを感じましたね。
こういう楽器を中国で生産しているというのが今までになかったように思います。
ひと昔前の“中国製”のイメージとはまったく違う印象ですね。
三木
輸入代理店のグローバルさんの話によると、イーストマンの工場は中国ですが、アメリカのブランドで、これまでに欧米の管楽器メーカーを買収していく中で、経験ある職人が入ってきて、そうした熟練工の意見が反映されているそうです。
日本から要望を出しても、キィひとつ変えるのに何年も掛かるメーカーも多いそうで、いろんな楽器を扱ってきたグローバルさんが「数あるメーカーの中でもトップクラスに要望を聞いて改善してくれるメーカー」と言っていました。そうしたフットワークの軽さも要因かもしれないですね。
マークⅥを研究した楽器とのことですが、その点はどうでしょう?
三木
マークⅥって実は癖もあるんですよ。コーンほどではないけどバランスの悪い個体も多い。僕が持っているマークⅥは、6万5000番台の初期のもので、音量はそんなに出ないけど音色の色彩感が好きで使っていましたが、操作性や吹きやすさの面は、現代の楽器のほうが進化してると僕は思います。その点、イーストマンもフロントFキィの形状であったり、ジョイントのライアーがなかったりと、現代のデザインになってますよね。
キィ形状はシンプルだけどよく考えられた形になっています。それでいてキィカップの角が丸いのはマークⅥを再現していたり、サックスの歴史を踏まえた上で良いところを取り入れていると感じる。こういう楽器はありそうでなかったですね。
テーブルキィの操作性もすごくいいです。重すぎず小さすぎず、回しやすい。最近のクラシック向けの楽器は、テーブルキィの位置がもうちょっと外側にありますよね。手首が上から指が下に向くように持つようなキィレイアウトの楽器が多いですが、この楽器は手首の角度がそこまで気にならない。そういうところはジャズに寄せてるのかもしれないですね。

レスポンスを最大化するキィデザイン

ボブ・ミンツァー氏が監修したテナーの852はいかがですか?
三木
いろんな現場を経験してきたレジェンドがアドバイスしているだけあって、明らかに他のジャズ系サックスでは出せないところまで来てるように思います。触った瞬間にいいのがわかる。特にキィデザインは、レスポンスを最大化しようというこだわりが随所に見られます。
テーブルキィのLow C♯の上部に膨らみがついてるんですけど、これ画期的ですね。例えば「ド♯」からローラーで「シ」に移る指使いのときに、この膨らみのおかげで小指が自然と上から下に流れるように移動できる。戻すときも体重がかかりやすい。この小指の操作はアマチュアの方にとってひとつの壁だったりするので。
テーブルキィ
サイドキィ
 
  
サイドキィの形状も全部違っていて、目的に応じてよく考えられてる。例えば、HighEキィは直線的に当てていく動きなので、これぐらい幅広でベタっとしてるほうが当てやすい。サイドB♭レバーも少し長めになってるんですけど、これくらい長いほうが当てやすいですね。
Low E♭とLow Cキィの位置も少し斜めになってます。人間の手って扇状だし、特にテナーの場合は下のほうにキィがあるので、このほうが小指で支えられるし、回しやすいです。ここをゴツくするのはよくあるんですが、むしろ小ぶりなぐらい。
モデルによって、ここまでキィ形状が違うサックスは見たことないですね。
イーストマン傘下の老舗フルートメーカー「ヘインズ」の技術者がキィ設計に携わっているのも関係があるそうですね。
三木
普通はしない発想ですよね(笑)。オーガニックな感触というか、生き物っぽい。操作性って大事で、それが悪いと使わなくなるんですよね。例えばヴィンテージのコーンって音色は凄まじいんですよ。ただ操作性が壊滅的で(笑)。数多のプレイヤーがそれを乗り越えようとして挫折して、結局マークⅥを使う。楽器に慣れるために練習してるのが嫌になってくるんですよね。
アルトはゴールドラッカーとノーラッカーの2タイプですが、どんな方におすすめですか?
三木
ゴールドラッカーはノーラッカーに比べてきらびやかな音色なので、ジャズであれば少し華やかさを求める人にあってるかもしれないです。ノーラッカーは乾いた音色で、素の鳴りが魅力だと思います。いずれにしても吹いたときに自分が「楽しい!」と思えるかどうかの感覚を大切にして選ぶといいと思います。

ジャズ・ヴィンテージ系の新たな選択肢

三木さんが楽器に求めることとは?
三木
僕にとって一番大事なのは「吹きやすいかどうか」です。結局、パッと持って吹けるっていう楽器を一番使うので。アマチュアの方でも上達していくと、全部の音域でスケールを吹くようになって、スケールや三度・アルペジオを全調で吹く。それもスラー、テヌート、スタッカートってやっていくと、もれなく全部の音を使うようになります。そのときに「吹きやすい楽器が1番」と気づく。特定の指だけ難しかったらそこに時間を取られるし、その楽器はいまいちになってきますから。だから先ほど試奏したときも、素早くいろいろ吹いて、楽器が応えてくれるかどうかを重要視していました。結局そういう楽器しか残っていかないんですよね。
イーストマンを吹いて、これまでのイメージは変わりましたか?
三木
そこはほんとに驚きましたね。正直、中国系のサックスで安くて悪いものはいくらでもありますが、イーストマンにそういう印象はまったくなかった。
今はヴィンテージ楽器の価格が上がってるじゃないですか。「いい個体と出会いたい」と全プレイヤーが思ってますけど、だんだん非現実的な話になってきてます。それにミンツァーも言ってたそうですが、運よく出会えても、そういう貴重な楽器を飛行機に乗せるとか、「移動」のストレスも大きいんですよね(笑)。
これぐらいの価格帯でこのクオリティであれば、ヴィンテージを探してる方の選択肢に十分入ると思うし、特にテナーの852は、ボブ・ミンツァーの意見がしっかり反映されていて実用的。これは触ってみないとわからない。先ほど852は3本吹きましたが、3本とも良かったですよ。それこそヤマハ82Z、ヤナギサワWO10、キャノンボールのようなジャズ系の現行楽器も視野に入れているなら、イーストマンもぜひ試してみるといいと思います。
 

【問合せ】EASTMAN 発売元:株式会社グローバル
東京都新宿区百人町2-17-7
TEL:03-5389-5111
www.global-inst.co.jp



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