サックス記事 マウスピース徹底検証 第1回「アルト・ハードラバー編」
マウスピースの煌めき THE SAX vol.29

マウスピース徹底検証 第1回「アルト・ハードラバー編」

無限の音色に魅せられて

サックスはいろいろな音色を内に秘めている。温かく柔らかな木管楽器の音、透明感のあるフレッシュな音、金属的なエッセンスを含む個性的な音、エレクトリック楽器の中にあっても埋もれることなく、激しく主張する音。音色にこれだけの多面性を持った楽器が他にあるだろうか? 少なくとも管楽器では思い浮かばない。その無限とも思える選択肢の中からどの音をチョイスするかは奏者の指向。そしてその時必要な道具が、今回の主役“マウスピース”であろう。しかし、この道具選びにもさらなる迷宮が待ち受けている。そこで、この厄介な“マウスピース迷宮”に一人入り込む前に、道しるべを立てるべく、本格派プレイヤー、アルト:大森明、テナー:山中良之の両氏を水先案内人として、各マウスピースを試奏、徹底検証をお願いした。この検証をあなたのマウスピース選びのヒントにしてほしい。今回は第1回、アルト・ハードラバー編!

 

第1回 アルト・ハードラバー編

 

大森 明
Akira Omori

音色のイメージとマウスピースについて

サックスの音色の方向性を決定する上で一番大事なことは、どんな音を出したいかを、“明確なイメージを持って練習する”ことではないだろうか。もちろん音色に限らず、ダイナミクスや音程などすべてにおいて同じことが言える。マウスピースなどのハードの担う役割は、それらのイメージを実現しやすくする“ツール”であるということだろう。自分に合った道具を見つけることが、理想に近づく上では重要な要素となる。中でも、マウスピースの存在は大きい。音色、ダイナミクス、吹奏感などに対して、サックス本体以上に影響のある重要な部分といっても過言ではない。マウスピースはメーカーや、各部分(チェンバー、バッフル等)の形状によって、音色や吹奏感の特性は変わってくる。また素材に関しては、大きく分けてハードラバー(またはエボナイト)とメタル製があり、今回取り上げるハードラバーは、メタルに比べてマウスピース自体に強い特徴があるというより、わりとクセのない自然な音色、またコントロールの容易性(もちろんメタル製にもこのような特性のものもたくさんあるが)から、奏者自身の個性を打ち出すのに適したものが多いといえる。クラシック、ジャズとジャンルを問わず使用されるのも、このようなことが要因かもしれない。それでは、各部分についての名称と音色などの傾向について説明しよう。

マウスピースの各部名称
本編に進む前に「マウスピース各部の名称」をおさらいしておこう。

大森氏による37本のマウスピース試奏、検証

今回、インタビュー形式で、37本のマウスピースを試奏してもらい、それぞれの感想を聞いた。インタビューの項目に関しては、以下のとおりである。スペースの関係上、項目を省略したものもある。

 
 
質問事項
1.吹いてみた率直な感想
2. 音色の傾向/ブライト、ダーク、柔らかい、太い、細い、芯がある、ない、バズがある他
3. 音の立ち上がり/速い、遅い
4. 音量/大きい、小さい
5. 向いているジャンル/クラシック、ジャズ、フュージョン、他
6. その他、くわえ心地や素材について
7. どのくらいのレベルの人に向いているか/初心者、上級者
8. 総評
 
 
■大森明氏:使用楽器 今回の試奏において、
今回の試奏において、アルト=Selmer Mark6(アメセル)、マウスピース= N.Y メイヤー、リード=バンドーレン JAVA21⁄2と3を使用。

比較マウスピース

1ページ:
01.Meyer 5MM

 

 


 

 

(※1 写真の見方:チェンバー部分の写真は、すべて、テーブル部分(リードをつける部分)を上にくるように撮影。)

 

 

01.Meyer (メイヤー)
5MM

01.Meyer (メイヤー) 5MM

ジャズアルト奏者の定番

普段は N.Yメイヤーを使っているけど、この新しいメイヤーも嫌いじゃないよ。センター(※2)はN.Yメイヤーより狭いけど、上手いこと捕らえられればスピード感のある、また艶っぽくもあるリッチなサウンドが出るよね。音量的には逆にN.Yメイヤーより出ると思う。ただ音量を落としてpで吹くと音質が変わってしまう傾向があるかな。使用ジャンルはやっぱりバップ、あとジャズよりのフュージョン、グローバーワシントンJr.なんかも使ってたよね。現行のマウスピースでは一番バランスが取れてるんじゃないかな。

※2 センター:音の芯




登場するアーティスト
画像

大森明
Akira Omori

1949年生まれ、福岡県出身。高校時代よりプロ活動を開始。その後、国立音楽大学、バークリー音楽院に学び、在学中からソロイストとして活躍。卒業後8年間のニューヨーク滞在中チャーリー・ミンガスのレコーディング「Me Myself An Eye」「Somethin’ Like A Bird」に参加。1979年、1982年のニューポートジャズフェスティバルへの出演を初め、数多くのミュージシャンとの共演を通して本格派ジャズメンとしてのスピリットを学ぶ。83年バリー・ハリス、ロン・カーター、リロイ・ウイリアムスをバックに初リーダー作「To Be Young And Foolish」を発表。84年帰国後「Back To The Wood」ではレイ・ブライアントを、「Trust In Blue」では、エルヴィン・ジョーンズをフィーチャー、2001年発表の中牟礼貞則氏をフィーチャーした「PRIMEMOMENTS」は「スイングジャーナル」誌のジャズディスク大賞にノミネートされる等、専門家筋の間でも高い評価を受けている。2006年、New York 録音作「Recurrence」、2009年、前田憲男氏との「Matin’ Time」、2015年、Hod O’Brien との「ManhattanSuite」と、常にハイクオリティーなストレートJazz を追求し続ける。教則本の制作も手がけ2005年、新刊著書「実践、Jazz Adlibシリーズ」が出版され、現在もThe Sax誌に自己の連載コーナーを持ち若手の育成にも力を注いでいる。

[CLUB MEMBER ACCESS]

この記事の続きはCLUB会員限定です。
メンバーの方はログインしてください。
有料会員になるとすべてお読みいただけます。

1   |   2   |   3   |   4   |   5      次へ>      
サックス