画像

家事とジェンダーギャップ

木村奈保子の音のまにまに|第36号

昨今は、ミニシアター向けのドキュメンタリーが多い。
人生の多くのテーマを考えるとき、映像の力は大きい。

北欧アイスランドのドキュメンタリー「主婦の学校(The School of Housewives)」は、タイトル通り、主婦になる女性のための学校としてスタートした。
嫁入り前に学ぶ女性のための学校として始めたのは、1942年。料理、洗濯、掃除、裁縫、編み物、刺繍、アイロンがけ……
こうした家事技術を実践的に教える学校は、今もあるという。

© Mús & Kött 2020
© Mús & Kött 2020
 

現代アメリカだと、この映画のタイトルだけでも暴動が起こりそうだ。
なんで、ハウスワイフの学校なのか、と。

しかし、本作はジェンダーギャップ指数が11年間、世界一となった国、アイスランドがあえて製作したのだ。

ちなみに、日本のジェンダーギャップ指数は、世界で120位。アフガニスタンの156位に比べても、さほど変わらない。
さらに、経済、教育、保健、政治のジャンルで分けると、特に政治ジャンルにおいて、日本はほぼ、最下位に近い。
総合的に1位のアイスランドとの差異は、比較できないレベルだろう。

© Mús & Kött 2020
© Mús & Kött 2020
 

さて、この作品では、ジェンダーギャップ1位である国の環境にいながら、現代の若い女性が、この主婦学校に入学する。
かつての時代の主婦たちと同じように、家事技術を学んでいる。

寄宿舎だから、同世代の女子ばかりで楽しそうだし、たぶん食べることが好きなのだろう、とりわけ料理には力を入れているように見える。

© Mús & Kött 2020
© Mús & Kött 2020
 
© Mús & Kött 2020
© Mús & Kött 2020
 

そういえば、私も中学、高校と一貫した女子校で、受験校でもなかったため、ちょっと似ている気がして過去を思い出した。
その流れで、短大の英文科にでも進学すれば、地元の銀行に入りやすいらしい。

しかし私は、この女子高の授業にもなっていた家事技術が、どれもすべて嫌いで、料理の時間はさぼっているし、宿題の着物縫製もまったくやる気がない。母やら友人やらにお願いしながら、やりすごした。
人生でこれほど逃げまくっていた時期はないだろう。
だから、将来「お嫁さんになること」だけは、絶対避けたいと決意した時期でもある。

そもそも、共学の小学校で、男子らを相手にわんぱくがすぎていたため、もう女子校に入れるしかない……と、親と先生が相談して私の入学を決めたのだ。
それでも、思春期に女性ばかりの中で「女子」を意識しなくてすむのは、ギャラリーとしての男性がいないこと、また、クラスを取り仕切る男性がいないことで、そういうところに自分の存在価値を見出せた気がする。

人には得手不得手がある。
これは私個人のたまたまの問題かと思っていたら、家事技術がそれほど不得手ではない友人でも、結婚するとその男女別の不公平に意義を申し立てはじめた。
それは、女性だけの仕事なのではなく、人として生きる限り、男女の仕事なのだと。

時代は変わり、この作品に登場する学校は、設立後50年近く経ってから、1990年に一般男性の生徒をも受け入れた。
そして、これまで女性しか学ばなかった家事技術を学ぶ楽しさ、便利さ、意義などを語っていく。
同時に、男性が一人でも、難なく自立生活できる価値を知るというテーマだ。
主婦学校に男性も入学できるようになって、実に30年以上経っている。日本では想像できないようなジェンダー感だろう。

© Mús & Kött 2020
© Mús & Kött 2020
 

「主婦学校」をせめて、「ハウスキーピング学校」としたほうがいいと思うが、あえて歴史を知るためにも、その表現を残しているのかもしれない。

料理、洗濯、掃除、裁縫、編み物、刺繍、アイロンがけ……こうした家事技術は、誰であっても、できないより、できたほうが生活しやすい。

かつて授業から逃げて、主婦業を避けるためにも、別のキャリアを築いたつもりだが、人として、当たり前のことを誰もが学んでおいたほうがいいのは確かだ。
ひとりの男性に尽くすために学ぶのではなく……。

これからの世代は、男女に関わらず、進学にかかわらず、「家事の授業」をとり入れていくのがジェンダーギャップを埋めることになるのかもしれない。

 

MOVIE Information

『〈主婦〉の学校』

© Mús & Kött 2020

監督・脚本・編集:ステファニア・トルス
2020 年/アイスランド/アイスランド語/ドキュメンタリー/78 分/カラー/ビスタサイズ/ステレオ/DCP
後援:アイスランド大使館
提供・配給:
kinologue http://kinologue.com/housewives/

2021年10月16日より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー

 

木村奈保子

木村奈保子
作家、映画評論家、映像制作者、映画音楽コンサートプロデューサー
NAHOKバッグデザイナー、ヒーローインターナショナル株式会社代表取締役
www.kimuranahoko.com

 

 

N A H O K  Information

木村奈保子さんがプロデュースする“NAHOK”は、欧州製特殊ファブリックによる「防水」「温度調整」「衝撃吸収」機能の楽器ケースで、世界第一線の演奏家から愛好家まで広く愛用されています。
Made in Japan / Fabric from Germany
問合せ&詳細はNAHOK公式サイト

 

PRODUCTS

レッスントート

レッスントート「Swing」(フルート、オーボエ、クラリネット対応)
販売価格: 24,300円(税別)
色:アイボリー/キャメル、ホワイト/ピンク、ブラック/レッド 3 color

レッスントート「Swing」は、マチ幅が、ボストンバッグ「Departed」を薄型にしたトートスタイル。
フルートC管、H管、オーボエもクラリネットもNAHOKシングルケースに入れたまま、すっぽりおさまります。
NAHOKブリーフケース系と違い、スーパーヒートインシュレーターを使用せず、くたっと感で折りたたむことができ、軽量です。
手持ちハンドルは、女性なら肩掛けにもOK。Dカン座をつけていますが、ショルダーベルトは別売です。

 

>>BACK NUMBER
第29回:「ノーレスポンス芸」の舞台は、いつ終わるのか?
第30回:“わきまえる女”の時代は過ぎ去った
第31回:すべての女性音楽家に“RESPECT”を込めて…
第32回:修復だけがゴールではない
第33回:逃れられない現実と向き合う覚悟
第34回:時代と闘い、ストリートから世界へ
第35回:コロナ禍の2020東京オリンピック、チャップリンとレニ・リューフェンシュタールと

Wind-i MAGAZINE
管楽器リペアガイド コルグ 池袋オペラハウス アトリエMOMO クラリネットリガチャー バスクラリネット エンドピン
YAMAHA
JVC レッスンマスター ナイス・インターナショナル 国立音楽院 アトリエMOMO

THIS WEEK EVENT

─ 今週のイベント ─


>>もっとみる

これから君もユーフォ吹き&チューバ吹き! 我ら、バリチューアンサンブル!

記事一覧 | Wind-i&mini
トピックス | レッスン | イベント | 人物 | 製品