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vol.43「レコーディングはチームワークに尽きる!」

THE SAX vol.65(2014年5月25日発刊)より転載

最近のスガワ

読者の皆さん、こんにちは! 4月に浜松と東京で開催させていただいた僕のデビュー30周年記念コンサートは、本当にたくさんのお客さんと素晴らしい共演者に囲まれて幸せなステージとなりました。心から感謝しています! これからもたくさんの方々にサクソフォーンの魅力を伝えるべく張り切って活動していきますので、応援よろしくお願いします。

さて今回は、久しぶりにトルヴェール・クヮルテットの活動について紹介させてください。来る7月に発売する新しいCDのレコーディングを、3月25日〜27日の3日間にわたって行ないました。何度やっても、レコーディングはとても大変な作業なのです……。

 

 

レコーディングはチームワークに尽きる!

今作は、全体の統一感ということよりもトルヴェールの「今」を伝えようという思いで、実に盛りだくさんの内容となっています。まず、圧倒的な2大名曲であるジャン・リヴィエ作曲の『グラーヴェとプレスト』、ガブリエル・ピエルネ作曲の『民謡風ロンドの主題による序奏と変奏』。結成間もないころに教則用CDとして録音したものは廃盤になっていますし、サクソフォーンカルテットの伝統の源となるこの2曲に真っ正面から取り組んでいきたいという思いからの選曲でした。そして、以前長生淳さんに書いてもらった、サクソフォーン四重奏とシンフォニーオーケストラのための協奏曲『プライム・クライム・ドライブ』を、ご本人にサクソフォーン四重奏とピアノによる五重奏の形に書き直してもらい、初演という形で収録しました。石川亮太さんに依頼した『ナポリ!ナポリ!ナポリ!』は、イタリアのカンツォーネの名曲をメドレーにした曲で、演出も含めてコンサートを楽しく盛り上げていく、我々のレパートリー『カルメン・ラプソディ』の次世代版ですね。そして、佐橋俊彦さんに「人間を愛する」というテーマのもとに書いてもらった『With You』。「You」という言葉は、単数でもあり複数でもあり、皆さんと一緒に歩んでいきたいという思いが込められた大変美しい曲です。

それぞれ曲想はあまりにも違いますが、言ってみればトルヴェールの「オールド&ニュー」という形。伝統と展望……といった内容になっているんじゃないかと思います。

さて、レコーディングは今回も大変な思いをしましたが、一番重要なのは「チーム力」だということを改めて実感する機会となりました。僕のCDを30枚以上録音していただいているエンジニアの小貝俊一さんをはじめ、そのアシスタントとして音のチェックをしてくれた小池由理佳さん、ピアノ調律師の執行直さん、そして録音機材の会社であるSCIスタッフの皆さんとのチームワークで作っていきました。今回は先にサックス四重奏を録ってからピアノを交えた曲を録りましたが、編成が変わるとマイクの位置などを替えます。そこはさすが小貝さん。ベストな位置をすぐに決めてくれて、自分たちの思っている理想の音で最初から録ってくれます。また、我々はずっと吹いているので楽器が「起きてる」状態ですが、途中から入ったピアノが追いつくのに時間がかかる……と思いきや、執行さんのマジックハンドですぐにサウンドが馴染み、ストレスなく演奏に集中できたのです。

録音というのは、演奏者には極限の緊張感が強いられる中で、より良い方法を選んで納得のいく音を録るというひとつの目標に向かって全員が一丸とならなければできあがらないものです。特に僕たちは小貝さんとは長いお付き合いですし、ピアノの小柳美奈子が信頼を置く執行さんには、特に精神面でも本当に助けていただきました。

アンサンブルはなんと言っても複数の人間で演奏しますので、一人の調子が良いときに他の人が引っかかることもあり、同じメンバーで何年やっていてもうまくかみ合わないこともあります。そんな時、トルヴェールはいいなと思うのは、だいたいみんなの手の内、クセを解っているので、誰かが引っかかることがあっても「あーあ」なんて思わないで、終始笑って「いいよ、何回でもやってやるよ!」と救いあえるところですね。

「何度もコンサートで取り上げている曲を録音するのは余裕!」のように思われるかもしれませんが、コンサートでの演奏と録音の演奏はまったく違うものです。コンサートでは、お客さんは「目」で聴くことを助けるというか、演奏者は体全体で音楽を語ることができますが、CDは「耳」だけで聴いてもらって楽しめる演奏を心がけなければなりません。そしてマイクはとても敏感なもので、普段の演奏ではまったく気にならないちょっとしたズレなどもシビアに拾われてしまうので、神経を研ぎ澄まして臨まなければなりません。しかし、ただ丁寧にすることにだけ集中してしまうと、できあがったものは堅苦しく、楽しみの少ない音楽になってしまいます。そこが、レコーディングの一番難しいところであり、何枚録音しても「慣れる」ものではないんですね。慎重に作り上げていくことと、音楽の表現のせめぎ合いの中で、テイクバックを聴いたときに「ん? もっと大きく表現したはずなのに」と思えば、無理してでも攻めていくこともあります。特に、伝統曲はたくさんの方が知っているので、慎重かつ大胆な演奏を心がけました。

ちょっとしたトラブルがあっても笑い飛ばし、みんなで乗り切ったレコーディング。最後に録ったのは『ナポリ!ナポリ!ナポリ!』です。これは絶対に舞台で聴いて(観て)いただきたいので詳しい演出などを書くのは控えますが、トルヴェールの「個性と融合」というテーマをそのまま出したような楽しいものとなっており、皆さんが必ずや楽しんでいただけるだろうと今からワクワクしています。発売は今年(2014年)の秋頃を予定していますので、ぜひお手にとってくださいね。

 

次回のテーマは「歌うように楽器を吹く、ということ」。
楽器が上達したら、もっと感情豊かに表現できるようになりたいもの。そのためのポイントをお伝えします。お楽しみに!

※このコーナーは、「THE SAX」誌で2007年から2015年にかけて連載していた内容を再編集したものです

 

須川展也 Sugawa Nobuya

須川展也
日本が世界に誇るサクソフォン奏者。東京藝術大学卒業。サクソフォンを故・大室勇一氏に師事。第51回日本音楽コンクール管楽器部門、第1回日本管打楽器コンクールのいずれも最高位に輝く。出光音楽賞、村松賞受賞。
デビュー以来、名だたる作曲家への委嘱も積極的に行っており、須川によって委嘱&初演された多くの作品が楽譜としても出版され、20-21世紀のクラシカル・サクソフォンの新たな主要レパートリーとして国際的に広まっている。特に吉松隆の「ファジイバード・ソナタ」は、須川が海外で「ミスター・ファジイバード」と称される程に彼の名を国際的に高め、その演奏スタイルと共に国際的に世界のサクソフォン奏者たちの注目を集めている。
国内外のレーベルから約30枚に及ぶCDをリリース。最新CDは2016年発売の「マスターピーシーズ」(ヤマハミュージックコミュニケーションズ)。また、2014年には著書「サクソフォーンは歌う!」(時事通信社)を刊行。
NHK交響楽団をはじめ日本のほとんどのオーケストラと共演を重ねており、海外ではBBCフィル、フィルハーモニア管、ヴュルテンベルク・フィル、スロヴァキア・フィル、イーストマン・ウインド・アンサンブル、パリギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団など多数の楽団と共演している。
1989-2010年まで東京佼成ウインドオーケストラ・コンサートマスターを22年余り務めた。96年浜松ゆかりの芸術家顕彰を表彰されるほか、09年より「浜松市やらまいか大使」に就任。2016年度静岡県文化奨励賞受賞。
サクソフォン四重奏団トルヴェール・クヮルテットのメンバー。ヤマハ吹奏楽団常任指揮者、イイヅカ☆ブラスフェスティバル・ミュージックディレクター、静岡市清水文化会館マリナート音楽アドバイザー&マリナート・ウインズ音楽監督、東京藝術大学招聘教授、京都市立芸術大学客員教授。
 

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