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金澤恭悦のリペアマンへの道! -第10回- クラリネットの割れ欠け修理編

Wind-i mini 16号 -第10回-

第10回 クラリネットの割れ欠け修理編

代官山音楽院、管楽器リペア科で行なわれる実際の授業を追いながら、代官山音楽院主任講師の金澤恭悦先がリペアの基本、そして技術が現場にどのように活かされているかを解説してもらうこのコーナー。今回は「クラリネットの割れ欠け修理」についてです。

クラリネットに使用されている素材の多くは「グラナディラ」です。見た目は「黒檀」に似ています。昔は黒い木をまとめて「黒檀」と呼んでいたころもありましたが、正確には「グラナディラ」はマメ科の植物であること、「黒檀」はカキノキ科と別物であることを知っておいてください。「グラナディラ」は比重が1.2 ~ 1.3と大変重く水に沈みます。そのくらい重く硬い材質ですから精度の高い加工が可能です。この条件も楽器に使用される理由のひとつです。

普段見ることのできないクラリネットの断面

普段見ることのできないクラリネットの断面

硬い材質ですが「グラナディラ」も植物であることに違いはありません。楽器の管体は温度が下がると縮み、温度が上がると膨らみます。また湿度が上がると膨らみ、下がると縮むという特性があります。
冬場は保管状況にもよりますが楽器は冷えて縮んでいます。この状態ではピッチが低くなります。従って、合奏に適するピッチにするために暖かい息を吹き込みますが、この時に管体内面と外面に大きな温度差が生じます。内面では膨らもうとする力が働き、外面は冷たく縮んでいる状態です。この状態のときに管体が割れるという現象が起こります。割れを防ぐには楽器をまず室温に慣れさせることが第一です。更に演奏中はこまめにスワブを通して水分を溜めないということも心掛けなければなりません。夏の時期にはエアコンの風を直接楽器に当てないということも割れを防ぐためには重要なことです。
割れの対策は楽器に付属している「取り扱い説明書」を熟読してください。楽器の性質を知っておくと楽器の扱い方が変わってきますよ。

 

不幸にして割れが発生してしまったら早めに修理をしなければなりません。なぜなら、さらに割れが大きくなることがあっても小さくなることはないのです。乾燥した状態では見た目には割れが小さくなったように見えますが直っている訳ではありません。その割れが音孔まで達してしまうと息漏れになり楽器の鳴りは著しく低下するのです。
一般的に割れの修理は二通りあります。修理技術者により方法には若干の差がありますが、一つ目はビスを割れた管体に入れて割れた部分の再発を防ぐ方法。二つ目は接着剤を浸透させて接着する方法です。さらには、ベルトを巻いて再び開こうとする割れを抑える方法などもありますが、代官山音楽院では接着剤で割れを接着する方法で実習をしています。
接着剤は瞬間接着剤を使用します。木部の割れを修理する接着剤は金属用です(商品名:アロンアルファ#201)。割れや欠けなどが大きな場合には「グラナディラ」の木粉を埋め込んで修正をする場合もあります。

割れ目が大きい場合はグラナディラの木粉で溝を埋めます

割れ目が大きい場合はグラナディラの木粉で溝を埋めます

①上からアロンアルファを流し

①上からアロンアルファを流し

②固まったらヤスリで管体の外形に沿って削ります

②固まったらヤスリで管体の外形に沿って削ります

削る道具。左から、サンドペーパー、スチールウール、棒ヤスリ

削る道具。左から、サンドペーパー、スチールウール、棒ヤスリ

接着剤を使用して修理をしたときやビスを入れたときは、修正した部分は修正痕として分かってしまいますが、いかに綺麗に仕上げるかは技術者の腕の見せ所です。

 


Profile|金澤恭悦

69年日本管楽器(株)入社。日本管楽器製造(株)(現ヤマハ)と合併後、本社にてクラリネットの開発に携わる。77年に開設された「ヤマハアトリエ東京」の初代スタッフとして木管楽器の専門家対応を22年間担当。特にサックス奏者ソニー・ロリンズ氏からの信頼は厚い。更に北米の修理技術を視察、アジアにおいても技術指導を行なうなど海外でも活躍。現在は代官山音楽院主任講師、リペア工房atelier kanazawa主宰。

INFORMATION

サックス メンテナンスセミナー ~テクニック編~

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