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金澤恭悦のリペアマンへの道! サクソフォン工具編

wind-i mini 11号 -第5回-

第5回 サクソフォン工具編

代官山音楽院、管楽器リペア科で行なわれる実際の授業を追いながら、代官山音楽院管楽器リペア科主任講師の金澤恭悦先生にリペアの基本、そしてその技術が現場にどのように活かされているかを解説してもらうこのコーナー。第5回はサクソフォンのリペアで使用する工具について。授業では通称貝隠しという工具を作りました。

今回の授業では貝隠しを製作しました。私たちはよく貝隠しと呼んでいますが、正式には指貝保護カバーと呼びます。タンポの調整をする時、ガストーチ(バーナー)でタンポ皿の表面を炙り、タンポ皿とタンポをつけている接着剤を溶かします。その時に指貝がこげてはいけないので、今日作った工具を使います。この工具を被せながらキィのカップを炙るわけです。

貝隠しを溶接する様子/溶接する際に変色するのできれいに磨き上げます貝隠しを溶接する様子(写真:左)
溶接する際に変色するのできれいに磨き上げます(写真:右)

タンポをつけるための接着剤はラック、またはシェラックというんですけれども、ラックカイガラムシという虫の分泌物から作ったものを使用していました。えんじ色の染料や食物添加物としても使用されるそうです。今ではグルーガンで使用されるような樹脂系の接着剤を使うこともあります。樹脂系の接着剤はラックに比べ吹奏感が軽く吹きやすいといわれています。また接着力が強く、扱いが楽です。
天然貝である白蝶貝は丈夫なので、炙っても簡単には焦げないんですが、一定以上の温度になった瞬間に一気に中心まで焦げてしまいます。そうなったらもう交換するしかありません。工場で楽器を組み立てるときには、貝は一番最後に入れるので焦げる危険はないのですが、リペアは貝を入れた後の仕事なので、そこに難しさがあります。さらに厄介なのは、ある有名メーカーでは貝を入れた後に金属で固くとめてあるんです。ですから焦がしてしまうと取れないので大変です。もしも焦げてしまったら貝を除去した後に、中に入るサイズの指貝を入れ、隙間を接着剤で充填するしかありません。しかし、お客さまの楽器ですから、お客さまが使い込んで、例えば貝が擦れている方もいらっしゃいます。新品に交換してしまうとタッチ感が変わってしまうわけです。なので、お客さまからオーダーがない限り勝手に替えるわけにはいきません。つまり焦がすわけにはいかない、ということです。そこで指貝用のカバーがどうしても必要になるのです。
授業では指貝を隠すカップと持ち手の部分を、銀ロウを使用して溶接します。そして管体に傷をつけないように貝隠し全体を紙ヤスリや金属磨きで磨きます。ちゃんと磨き上げられたか、これから生徒たちの作品をチェックするところです。

生徒たちが作成した貝隠し生徒たちが作成した貝隠し

今回は工具を自分たちで製作してみましたが、大半の工具は大手海外メーカーで製作され、市販されています。

トーンホールを削る工具/このように回しながら使いますトーンホールを削る工具(写真:左)
このように回しながら使います(写真:右)

トーンホールを平行に削る工具は全世界共通でよく使われているようです。また、宝石工具の店やホームセンターなどでも修理に役立つアイテムを見つけられます。そして必要があれば自分で作る。道具を集めるだけではなく、それらの道具をいかに活用するかが重要だということを生徒たちには意識してほしいですね。

木槌も使いやすいように形を加工します/授業では他にこのような工具を自作します木槌も使いやすいように形を加工します(写真:左)
授業では他にこのような工具を自作します(サクソフォン以外の楽器のための工具も含む)(写真:右)

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