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金澤恭悦のリペアマンへの道! リペアマンの心がまえ

wind-i mini 7号 -第1回-

第1回 オリエンテーション

リペアマンの心がまえ

代官山音楽院、管楽器リペア科で行なわれる実際の授業を追いながら、代官山音楽院主任講師の金澤恭悦先生にリペアの基本、そしてその技術が現場にどのように活かされているかを解説していく新連載! 第1回はオリエンテーション、一流リペアマンを目指すための心がまえを語っていただきました。

リペアマンを志望する学生は、学校に来たリペアマンに楽器を直してもらい、感動してこの道に進んだという人が多いです。そのような学生の皆さんにはまず、リペアマンは楽器の形だけを直しているのではなく、音程や音質まで直しているということを理解していただきたいですね。そこまで直すためには、美しい音とは何か、ひいては音楽とは何かということを理解しようとする努力が必要です。和声、音楽史、国による音楽の違いなどを踏まえて音楽家は音楽をしているので、我々リペアマンもそれを勉強しておかないと、音楽家の要求に応えられないわけです。
アメリカ人は「リッチな音にしてほしい」というところを、ドイツ人は「ダークな音」、ウィーン人は「温かい音」など、言語によって様々な表現をしますが、ニュアンスが微妙に違いますよね。我々からみると同じことを言っていたりもするのですが、そういう部分も理解できるような技術者を目指してほしいです。絵を観たり、芝居を鑑賞したり、本を読んだり……音楽に限らず様々な形で感性を磨いてください。

私が今教えている代官山音楽院では、演奏授業や楽典の授業はもちろん、弦楽器やピアノなど、他学科の授業も聴講でき、視野を広げることができます。さらには一般常識や言葉遣いなど、社会が求める教養を身につけることも大事です。音楽家には天才と呼ばれ、破天荒な生き方を選ぶ人もいますが、リペアマンは、社会の一員として働ける、専門技術と社会性のバランスの取れた人材になる必要があります。この仕事は楽器が相手ではなく、それを操る人間が相手ですから。

▲代官山音楽院の授業風景(左)/代官山音楽院ウインドオーケストラ 演奏会の様子(右)

リペアマンという職業はおもしろいですよ。私が楽器を修理したことがきっかけでプロになった方を何人も知っています。ステージ上で拍手はもらえませんが、その拍手に大いに貢献できます。リペアマンになって長いですが、未だに「上達したな」と思う瞬間があります。プレイヤーから要求されることで、さらによい修理ができるんですね。
私が学生の頃に代官山音楽院があったら、入り直したいくらいです(笑)。学ぶ内容は一生かかるほどありますから、がんばってください。学生のうちにどれだけのめり込めるかで、その先が決まります。積極的に学んで、人に感動を与えられるリペアマンになってください。

 


 

Profile|金澤恭悦

69年日本管楽器(株)入社。日本管楽器製造(株)(現ヤマハ)と合併後、本社にてクラリネットの開発に携わる。77年に開設された「ヤマハアトリエ東京」の初代スタッフとして木管楽器の専門家対応を22年間担当。特にサックス奏者ソニー・ロリンズ氏からの信頼は厚い。更に北米の修理技術を視察、アジアにおいても技術指導を行うなど海外でも活躍。現在は代官山音楽院主任講師、リペア工房atelier kanazawa主宰。

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