THE FLUTE ONLINE連載

山元康生の吹奏楽トレーニング!│第6回

新型コロナの影響で延期になった2020年の吹奏楽コンクール。課題曲はそのままスライドして、今年2021年に開催が始まりました。
今からフルート演奏の基礎を見直して、「良い音」「正しい音程」「音量のコントロール」「正確で俊敏な指使い」を手に入れられるトレーニングをしてみませんか?

♪♪♪

今回は音程のコントロールについて説明していきます。

私が中高生の吹奏楽の練習を見てビックリしたのは、ほとんどの生徒たちが譜面台にチューナーを置いていたことでした。だいぶ前からオートマチックチューナーを安く買うことができるようになりました。また、スマホにチューナーアプリをタダでインストールすることもできます。

良い時代になりましたね。しかし、使い方が適切でないような気がします。

合奏のときに、指揮の先生から「フルート高い!」と叱られたりしているのでしょうか?

頭部管を1.5cm〜2cmも抜いて吹いている生徒さんがたくさんいるようです。

高音域の音を吹くときに、チューナーを見て表示が真ん中にくるようにすると、そうなるのでしょうが、仮にその音の音程は合っても今度は他の音が合わなくなります。

そもそも「良い音程」とは?

連載第5回で「音質」「音色」を、それぞれ英語で「Quality」「Color」という表現になると書きました。

「音程」は英語で何と言うのでしょうか?

すぐに「Pitch」(ピッチ)が思い浮かびますが、実はもう一つあるのです。

それは「Intonation」(イントネーション)です。

「ピッチ」はA1=440やA1=442などのように、音の絶対的、物理学的な高さを意味します。

それに対して「イントネーション」は長3度、完全4度など音と音の相対的な間隔を意味します。

例えば、A1=440で良く調律されたピアノとA1=442で良く調律されたピアノは、どちらが良い悪いということはありません(他の楽器が音程を合わせやすい・合わせにくいという問題はあるかもしれません)。

しかしA1だけ440または442にキチンと調律されて、その他の音がA1に対して正確に音程の間隔が調律されていなければ、メロディは奇妙な感じがしますし、ハーモニーは美しく響きません。

「イントネーション」が悪いとは「オンチ」な状態であるわけです。

さて、話をフルートに戻します。
極端に古い楽器(40年以上前に製作された楽器のうちの一部)でない限り、頭部管を全部入れたところから5〜8mm抜いた状態で正確なイントネーションで吹きやすいように設計されています。
仮に頭部管を全部入れると右手の音(D1やE1など)は少し高くなり、左手の音(C2やC♯2)は大変高くなります。逆に頭部管を1.5cmほど抜くと右手の音は少し低くなり、左手の音は大変低くなります。
どちらにしても、正確なイントネーションで吹くのは大変難しくなります。
では、なぜ5〜8mm抜いた状態の高音域で、チューナーの表示が右に振り切れてしまうのでしょうか?
そうなる人のほとんどは、楽器を顎や唇に弱く当てて、唇を絞って吹いているのです。
歌口を下唇で覆わず、息を細くして高音域を吹くと、間違いなくピッチは高くなります。この奏法を変えなくては正しいピッチ、イントネーションで演奏することはできません。

チューナーの奴隷にならないように!

チューナーは高い精度で音程を測って示してくれます。
しかし、私は実際の演奏では「悪くない音程」で吹くことが大切だと思っています。実際のところ人間は機械ではないので、常にチューナーのような正確な音程で吹くことは不可能ではないかと思います。
少なくとも私にはできません。

ミシェル・デボスト

今までに何回もご紹介した、ミシェル・デボスト氏(元パリ管弦楽団首席奏者、元パリ音楽院教授)は、著書「フルート演奏の秘訣」の中で「私は、これまで悪くない音程で吹いてきた」と述べています。

これは正確な音程ではなくても良いと言っているのではなく、「チューナーを使わなくても悪くない音程で吹くことができなければならない」と言っているわけです。
私は音程に関して最もシビアな職場は、オーケストラとスタジオだと思っています。
オーケストラの中でのユニゾンやハーモニーは「悪くない」どころか正確な音程でなければ響きが濁って悲惨な演奏になってしまいます。
スタジオはシンセサイザーやキーボード、ギターなど、絶対的に完璧な音程を出せて、しかも絶対にフルートに音程に歩み寄って合わせてくれない楽器を相手にしていかなければなりません。
その点、オーケストラでは「ごめん!どうしても、その音上がらないから低めに吹いてくれる?ごめんねー」と仲間に歩み寄ることをお願いしたり、お願いされたりすることもあります。

前述のデボスト氏は、レッスンのときに何度も「エレクトリックチューナーなんて壊してしまえ!」と教えていました。キツイ言い方ですが、私は「チューナーは上手に使いなさいね」と教えているのだと解釈しています。
また、デボスト氏は音程を良くする(悪くしない)ためには「楽器を安定させなさい」と教えていました。
結局、個々の音をチューナーでチェックして修正していくやり方では、いつまで経っても音程の良い演奏はできないということです。

小泉剛

私の学生時代の恩師、小泉剛先生(元・読売日本交響楽団首席奏者)は「みんな音程、音程って神経質になっているけれど、良い吹き方してれば音程なんて自然に合っちゃうんです」と言っておられました。

 

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山元康生

山元康生│Yasuo Yamamoto
1980 年、東京藝術大学音楽学部器楽科卒業。同年6月渡米し、ニューヨークでのジュリアス・ベーカー氏のマスタークラスに参加し、ヘインズ賞を受賞。その後2ヵ月間にわたってベーカー氏に師事。1982年、宮城フィルハーモニー管弦楽団(現・仙台フィル)に入団。1991年より、パリ・エコールノルマル音楽院に1年間学ぶ。1997年から度々韓国に招かれマスタークラスやコンサートを行なう。また、2006年にはギリシャとブルガリアにてマスタークラスとコンサートを行なう。2002年、Shabt Inspiration国際コンクール(カザフスタン)、2004年、Yejin音楽コンクール(韓国)、仙台フルートコンクールに審査員として招待される。

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