フルート記事
THE FLUTE 30th Anniversary│さかはし矢波Special Interview

念ずれば花開く──念ずるだけでなく言葉にし努力すること

謝罪のメールが結んだ台湾とのつながり

台湾の聖徳基督学院で客員教授を務められていますが、これはどんなきっかけからですか?
矢波
ミヤザワフルートさんから台湾に進出するためのデモンストレーションとして主要都市や音楽学校でコンサートをしてほしいという依頼がありました。20年以上前のことです。ところが出発2週間前にSARS(重症急性呼吸器症候群)が台湾でも発生し、患者は病院に隔離されたのです。今の新型コロナウイルスと似ていますね。
ミヤザワフルートとしては、僕にもしものことがあったら取り返しがつかないということで中止になりました。海外でソロを演奏できるのは、演奏家としては最高の舞台ですからとてもショックでした。
もちろんミヤザワフルートさんが、イベントの中止の連絡を謝罪とともに送っているのは知っていましたので、その連絡先をすべて教えてもらい、僕からも謝罪のメールを出したんです。そうしたら、そのうちの一つの大学から連絡がありました。
SARSが収まったら次年度にぜひコンサートをしに来てほしいと。それで翌年公開レッスンやコンサートが台湾で実現しました。1年前に行なうはずだったコンサートなので、ギャラはいただくつもりはなかったのでお断りしました。そのお金は楽譜購入など学生のために当てて欲しいと。それに学長さんが感激したらしく、帰国後しばらくすると客員教授の委嘱状が届いてお引き受けしました。
SARSが流行っていなかったら、メールを出してなかったら……普通に終わっていたご縁かもしれません。ほかにもいろいろな活動をされていますが、ラジオのパーソナリティも長く務められています。
矢波
地元の栃木でリサイタルを開催するときに、告知のために新聞社などマスコミを巡っていたんです。ラジオ局に行ったときに、今ちょうど生番組をやっているから自分でしゃべってと(笑)。
びっくりしたけど、コンサートのMCのような感じで話したら、翌日「ラジオをやる気はありませんか?」と連絡が来ました。最初は月に一度の15分番組だったけど、それが30分になり、今では毎週放送になりました。
30年以上やっていますが、なかなかうまくなりません。いつも納得のできる出来にはならない、これは芸術の世界と一緒ですね。
そうそう僕は思ったことが叶わなかったことはないんです。プロのオーケストラに入る、ラジオ番組を持つ、雑誌にエッセイを書く……すべて叶っています。会社の経営もしたかったので、人材派遣会社も作り、台湾では犬猫のトリミング会社も経営しています。
まだ叶っていないことは……テレビのコメンテーターですね。林修さんに負けないぐらいの知識や雑学は持っていますよ。

言葉にすることで実現度も上がる

経営までやられていたのですね。
矢波
僕はやりたいことがあったら、それをいろんな人に言うんです。口に出さないと叶いません。
それで叶ったものの一つがJICA(独立行政法人国際協力機構)の活動です。JICAの活動の中にシニアボランティアというのがあるのですが、これは退職した方が発展途上国に行って国際協力をするものです。でも年齢がいってからの海外での活動は自分の体がどうなるかがわからない。現役のうちにチャンスがあるなら、オーケストラをやめてその国の洋楽の祖になりたいといろんな人に言っていたんですね。
するとあるとき、JICAから「お会いしたい」とメールが来ました。海外派遣協力隊で派遣されている音楽の先生方の活動や、何が必要なのかを専門家の目で見てきてほしいというものでした。派遣されている先生方は、教育が専門の方もいますから、具体的に必要なものがわからない場合もあるためです。
それで2017年にスリランカとヨルダンに行きました。ヨルダンでは難民キャンプを訪問し、子どもたちがやっている音楽を聴いたり、スリランカではユースオーケストラを見ました。帰国後JICAに報告しましたが、とても勉強になりましたね。
その後はJICAがやっているSDGsを広めてほしいということで、JICA東京国際協力サポーターとして活動しています。そしてその延長線で創設したのが「東京SDGs吹奏楽団」です。
言葉にすることは大事ですね。
矢波
人間は言葉にすると実行しないといけない、という気持ちが生まれます。それで行動し、実現度合いも上がるわけです。
僕の座右の銘は「念ずれば花開く」。でも念じるだけではだめです。念じて、さらに言葉にしています。もちろんそれなりに努力もしていますよ。
 

一生吹き続ける『ハンガリー田園幻想曲』

ドップラーの研究もされています。
矢波
初めて聴いたランパルのコンサートの後、自宅に『ハンガリー田園幻想曲』のレコードがあるのを発見したんです。しかも演奏者はランパル! それからは擦り切れるぐらいまで毎日レコードを聴いていました。
大学4年生のときに、フルートアンサンブルアカデミーが主催したドップラーコンクールがあって、本選まで行くことができました。そのときに選んだのが『ハンガリー田園幻想曲』です。
それ以来コンサートでは吹かなかったことがないくらい、プログラムに入れています。
ドップラーはウクライナのリビウ出身ですが、『ハンガリー田園幻想曲』の1楽章は、日本の追分に似ていますよね。そういう部分が僕に合っていてドップラーにハマったのではないかと思います。
いつ吹いても何度吹いても、吹くたびに新しい発見があります。たった一つの音を追求し続けています。
おこがましいですが、僕は世界で一番この曲を上手く吹くフルーティストだと思っています。それぐらい思っていないと人前では吹けません。
楽器のことをお聞かせください。現在はミヤザワフルートをお使いですね。
矢波
オーケストラに入ってから使い始めました。それまで他社の14Kを吹いていたのですが、ある時ミヤザワフルートに営業として就職した後輩が、楽器を試奏して欲しいと訪ねて来たんです。僕としては、その時使っていた楽器に不満はなかったので、特段興味はなかったのですが、差し出されたミヤザワの14Kを吹いた時に「これはっ‼︎」とビビッときました。それまで使っていた楽器も良く鳴る素晴らしいものでしたが、ミヤザワは良い意味で癖があり、例えるなら、ドイツの高級車が乗れば乗るほど素晴らしい走りをしてくれるというように、吹けば吹くほど、これまでとは違う異次元の音楽を共に作り上げてくれる楽器だと思い、それ以来ミヤザワを使っています。
ミヤザワは、僕の提案にも耳を傾けて研究して試してくれるんですね。それで実現したのがGisキィの形の変更です。もともとGisキィは大きいため跳ねるのが気になっていたので、何度か試して、最終的には薄くすることで解決しました。そういうプレイヤーの声に耳を傾けてくれる会社の姿勢がとても素晴らしいと思っています。
ありがとうございました。
 

 

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