サックス記事

田中靖人&谷中 敦 ジャンルの垣根を飛び越えた バリトンサクソフォン対談が実現!

THE SAX vol.103

ここからは、田中とともにヤマハ新製品の開発アドバイザーを務めた、ジャズ&ポップスの中堅世代でNO.1バリトン奏者として活躍する竹村直哉も交えての鼎談をお届けしよう。 待望のカスタムモデルであるYBS-82を筆頭とするヤマハ新製品3機種の魅力に、事前に試奏して取材に臨んでくれた谷中の意見も参考に迫っていこう。
(写真:土居政則/協力:株式会社ヤマハミュージックジャパン、株式会社ソニー・ミュージックアーティスツ)

ジャンルを越えて、同じ方向性へ

ヤマハの新製品3モデルの開発はいつ頃から始まったのでしょうか。
田中
私は4年ほど前から携わっています。だいぶ前に一度カスタムを作ろうかという話になりかけたのですが、しばらく停滞していました。4年前にヤマハの方針としていよいよやるぞと決まってからは、トントン拍子で開発が進んでいきましたね。静岡の豊岡工場に行って、気づいたことをお伝えして、それが反映された試作品が出来てきてというやりとりが、数ヶ月に一度行なわれる形で開発が進んでいきました。
竹村さんはいつから開発に参加されましたか。
竹村
もともとこの新しい82モデルにおけるジャズ&ポピュラー・サイドの開発は僕の師匠にあたる宮本大路さんが携わっていらっしゃいました。4年前に亡くなられた後、その後を引き継ぐという形でお声がけいただき、携わるようになりました。
今回YBS-82の開発にあたって、最もこだわった点はどこでしょうか。
田中
一番初めはキィのレイアウトから着手しました。キィのレイアウトはなるべくコンパクトにというところですね。前のYBS-62Ⅱより、特に左手はコンパクトになったと思います。ハイサイドキィも低くなりました。そしてU字管付近のトーンホールの位置や大きさを変更し、またベル自体も数センチ短くすることでLow Aの音程を改善しました。この改善は他のシリーズのバリトンにも応用されています。
竹村
低音の音程に関して何の不安もなくなりましたね。
田中
他にもF#のトリルキィなどのトーンホールも調整しています。音色の部分でいうと、YAS-875などと同様のカスタム材を使用するようになりましたが、これによって音色を変化させやすくなりました。口元の息の変化に対応してくれるキャパシティが広くなったようなイメージです。
竹村
ネックの開発も行ないました。最終的にはV1,E1,C1と3種類のネックが残りましたが、開発段階では他にも何十種類も試しました。
田中
V1が一番容積が大きくパワフルで、しっかり息を吹き込みたい奏者に向いているのに対して、C1はコンパクトで音がフォーカスされ、ツボにピタッとはまる感じがありますね。
竹村
検討していった結果、この3種類がいいという点は田中さんと偶然意見が一致していたようです。クラシックサックスとジャズ&ポピュラーのサックスで同じ結果が出たのは、ある種驚きでもありましたが最終的に求めるものって同じなのだろうと感じましたね。
谷中
言葉でわかりあったわけではなく、お互いに同じ方向に行っていたということは凄いことですね。それはある意味で音楽的に正解な道に辿り着いたということなのでしょうね。

痒いところに手の届く改良ポイント

竹村
あと、ストラップリングの位置を上げることで、構えたときの楽器の重心が変わっています。
田中
この点については、私はそれまでの楽器で慣れていたこともありあまり気にしていなかったのですが、調整してみると確かに変更したほうが間違いなく良かったですね。
竹村
旧モデルでは立奏のときに楽器が水平になってしまっていましたが、この位置を変えたことで楽器が自然と自分に寄ってくるようなバランスになりました。
谷中
それはナイス・アイディアですね!
竹村
ありがとうございます(笑)! さらに、一部のキィや台座を軽量化することで音の伸びが良くなりました。あと、YBS-82ではオプションでハイF#キィの有無を選べるようになっています(YBS-62はハイF#つき、YBS-480はハイF#なし)。ジャズ・プレイヤーはファズのかかった音を出すためにこのキィを使わずF#を出すことも多いですし、無しにすることで抜けも良くなるように思います。
田中
クラシックにおいてはF#前後の連結を良くするために必須のキィですが、確かにトーンホールが少ないほうが抵抗は少なくなりますよね。
竹村
現行モデルでハイF#キィの有無をオプションで選べるのは珍しいと思います。
田中
ペグも今までの太いものから、チェロのような細めのものに変えました(82のみ付属、62、480は付属なし)。ホールでペグを床につけて吹くと、客席までちゃんと響きが伝わる感覚があります。速いパッセージのときに楽器を 安定させるのにも有用です。

ドライで、重厚感があり、伸びのある音色

YBS-82の完成品を吹かれて、どのような感想を持ちましたか?
田中
ダイナミックなヤマハの音色を受け継ぎつつも、キィがコンパクトになったことで小回りも利きますし、より繊細に音色の変化や表情をつけられるようになったと感じました。
竹村
もう言いたいことをほぼ言われてしまいました(笑)。ジャズやポピュラーの世界ではビッグバンドなどでのホーンセクションと、ソロ楽器という使用場面の二極化が進んでいますが、そのどちらにも対応可能な楽器だと思います。
谷中さんにも1週間ほどの期間でYBS-82を試奏していただきましたが、いかがでしたか。
谷中
音色が明るくて、小回りが利いて、音程のバランスもいい。メンバーから「今の楽器よりいいね」と言われそうになったので、慌てて制しました(笑)。スカパラのリハーサルで使ってみて録音したのですが、それを聞いてみたら音のノリも素晴らしい。小さく吹いてもちゃんと音が目立っていました。
竹村
私もレコーディングやテレビの収録でこの楽器を使用していますが、音場がクリアですね。ヴィンテージの楽器は生で聴くといいんですけれど、どうしてもハイの成分が落ちてしまって、録音だと痩せてしまいがちです。この楽器はそれとは対極で、しっかり面でドンと聞こえてくる安心感がありますね。
谷中
確かに、その通りの音色ですね。これ以上吹くと欲しくなってしまいそうで、途中で吹くのをやめてしまったくらいです(笑)。
ところで、初心者がバリトンサクソフォンを選ぶ際に、どのようなことに気をつければいいと思いますか。
谷中
やっぱりいい楽器を選ぶべきだと思います。初心者だからこの程度でいいだろうという買い方はしないほうがいいですね。だからこそ、バリトン初心者の人にはぜひこのYBS-82で楽器を始めてほしいですね。何の不足もない楽器から始めたほうが、上達も早いはずです。
竹村
すべての音域で音程やバランスがいいということももちろん重要ですが、私が自分の生徒さんの楽器を選ぶときや楽器選定をするときは、必ず音色のふくよかさというものを重視しています。
田中
竹村さんのおっしゃる通り、やはり音色だと思います。メカの調整はできても、その楽器が持つ音色は変えられないですからね。もちろん楽器のわかる人と一緒にお店に行って、音程や出ない音がないかのチェックをすることも必要ですが、一番は音色だと思います。
最後に本誌読者に今回のヤマハバリトン新製品をレコメンドする一言をお願いします。
田中
これは買いですよ(笑)。すべての面において非常にバランスがいいので、いいパートナーになると思います。
竹村
すごくドライで、なおかつ重厚感もあり、伸びもある。こういった楽器を作りたくてヤマハさんと一緒に開発してきました。今あるバリトンサックスの中でも、間違いなく自信を持ってオススメできる一本です。
谷中
私は開発には携わっていませんが、自信を持ってお勧めできます(笑)。明るいのにペラペラせずに重厚で太く、ふくよかで色気のある音も出せます。私のようにリズムセクションを多く演奏する奏者でも楽しめる楽器だと思います。

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設計担当者に訊く! 待望のカスタムモデルYBS - 82 ここが凄い!!

登場するアーティスト

田中靖人
Yasuto Tanaka

1964年和歌山市に生まれる。 国立音楽大学在学中、第1回日本管打楽器コンクール第2位、第4回日本管打楽器コンクール第1位を受賞。 1990年東京文化会館でデビューリサイタルを開催。以来、国内外でリサイタルなど幅広い活動を行なっている。東京交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、神奈川フィルハーモニー管弦楽団、札幌交響楽団、名古屋フィルハーモニー交響楽団、仙台フィルハーモニー管弦楽団など、ソリストとしてオーケストラとの共演も多数。 2000年より(一財)地域創造主催の「公共ホール活性化事業」のアーティストとして、リサイタル、アウトリーチ コンサートも意欲的に行なっている。2003年和歌山県より「きのくに芸術新人賞」を受賞。 ソロ・アルバムに、1991年「管楽器ソロ曲集・サクソフォーン」(日本コロムビア)、1995年「ラプソディ」(EMI music japan)、1997年「サクソフォビア」(EMI music japan)、2003年「ガーシュイン カクテル」(佼成出版社)、2012年「モリコーネ パラダイス」(EMI music japan)をリリース。 また、サクソフォーン四重奏団 トルヴェール・クヮルテットのメンバーとして活躍し、これまでに10枚を超えるアルバムをリリース。2001年文化庁芸術祭レコード部門“大賞”を受賞。 現在、東京佼成ウインドオーケストラコンサートマスター、国立音楽大学、愛知県立芸術大学、昭和音楽大学、桐朋学園大学各講師、札幌大谷大学客員教授、名古屋音楽大学客員教授。

登場するアーティスト

竹村直哉
Naoya Takemura

1979年生まれ。中学入学と同時にクラリネット、翌年よりアルトサックスを始める。早稲田大学入学後は、早稲田大学ハイ・ソサエティ・ジャズ・オーケストラに所属。学生時代よりプロ活動を始め、現在はバリトンサックスを軸としたマルチリード奏者として、数多くのビッグバンドや小野リサ、挾間美帆らとのライブや、スタジオワーク、ミュージカルなど幅広く活動中。これまでにDreams Come True、Superfly、BoA、鈴木雅之、マンハッタン・トランスファーらをサポート。

登場するアーティスト

谷中敦
Atsushi Yanaka

1966年生まれ。アメリカ、ヨーロッパ、南米、アジアと世界を股にかけ活躍する大所帯スカバンド、東京スカパラダイスオーケストラのバリトンサックス担当。スカパラのヴォーカル曲の主な作詞を手掛け圧倒的支持を集めている。他アーティストにも作詞家として、KinKi Kids『ルーレットタウンの夏』、EXILE『空から落ちてくるJAZZ』、矢沢永吉『白い影』などを提供。また、アパレルブランド「Instant Fame」のプロデュースなど活動は多岐に渡る。

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