サックス記事 田中靖人&谷中 敦 ジャンルの垣根を飛び越えた   バリトンサクソフォン対談が実現!
THE SAX vol.103

田中靖人&谷中 敦 ジャンルの垣根を飛び越えた バリトンサクソフォン対談が実現!

ヤマハ株式会社B&O事業部 B&O開発部 管教育楽器開発グループ主事 内海靖久さん

バリトンサクソフォンでは初のカスタムモデルとなるYBS-82。待望の新機種について、さらに突っ込んだ質問をヤマハ株式会社B&O事業部 B&O開発部 管教育楽器開発グループ主事の内海靖久さんにぶつけてみた!!

元のモデルとなっているのはYBS-62IIでしょうか?
内海
はい。そうです。
YBS-62に比べてベルの長さを短くしたことによって、どのような効果が得られましたか?
内海
低音域の音程改善が目的でベルの長さを短くしました。これにより音程改善だけでなく、低音域から中音域の音色の統一感も実現しています。
バリトンサックスで1枚取りのベルは技術的にもとても難しいのではないかと思います。1枚取りにした理由とは?
内海
低音の音の響き、重厚感ある豊かな音色を実現するためです。確かに技術的には難しいのですが、こだわるだけの価値があると思っています。
1枚取り加工されたYBS-82のベル
これまでカスタムモデルがラインナップされた際、アルト、テナーとも8から始まる3桁の番号(875、855など)がモデルナンバーとされていましたが、今回2桁番号となったのはどういう経緯でしょうか?
内海
バリトンサックスは現行62の完成度が高いため、カスタムバリトンは62ベースで開発を進めてきました。最終的に完成した時に、YBS-875と呼ぶか、YBS-82と呼ぶかで社内でも議論が白熱したのですが、875という品番は 62 とは設計思想が根本から異なるものに与えられていたモデルのため、82のほうが適切だという結論に至りました。
また、カスタムバリトンはクラシック、ジャズのプレイヤー両方の満足を得られる楽器を目指して開発が進められ、結果的にジャンルを問わずプロ奏者から高評価をいただいたこともあって、「Z」、「EX」を付けることはせず、YBS-82 としています。
3タイプのネックが標準装備されていますが、それぞれのテーパーの広がりや内径など、形状的な特徴の違いを教えてください。またそれら形状の違いによって音色や吹奏感はどう変わるのでしょうか?
内海
V1,E1,C1とタイプがあり、C1は内径(ボア)が小さく、反対にV1は内径が大きく、E1はその中間です(V1>E1>C1)。C1はレスポンスの速さが特徴で、歯切れよく、芯のある音で音色を自由に操る心地よさがあります。E1は響きとレスポンスの両方を兼ね備えたバランスの良さが特徴で、低音から高音まで均一で安定感があります。V1ネックは豊かな響きと音量感が特徴で、息を吹き込むほどにしっかりと鳴ってくれます。
ネック差し込み部分、本体側のレシーバーもアルトやテナーのカスタム同様に真鍮ではなく洋白でしょうか? このパーツを採用することで、音色や響きなど、どのような特徴になりますか?
内海
息に対してのレスポンスが良くなり、また輪郭のある音色になります。
洋白を採用したYBS-82の ネック差し込み部分
キィレイアウトもコンパクトに変更されたように見受けられます。全体的にコンパクト化が図られた印象ですが、そのことによる変化、特徴とは?
内海
EXシリーズで培われてきたキィレイアウトのノウハウを取り込みました。具体的には手の大きさに依存せず、誰でも構えやすく、キィを押さえやすい設計にしています。バリトンは特に楽器も大きく、重いため、持つだけでも一苦労ですから、少しでも身体的な負担を軽くするために大小さまざまな変更を加えています。
軽量化とコンパクト化が図られた YBS-82のLow Aキィとオクターブキィ
YBS-82製作にあたって田中靖人さん、竹村直哉さん、お二人のアドバイザーからいろいろなオーダーがあったと思います。それらオーダーの中でも特に再現が難しかった点、苦労した箇所などありますか?
内海
カスタムバリトンを開発するにあたり、ジャンルも使われるシーンも違うお二人を満足させる楽器ができるのか? という課題がありました。実際、開発当初はある試作品を田中さんは気に入ってくださっても、竹村さんはそうでない。ということもありました。当初はお二人同時に満足いただける楽器は無理ではないかと諦めかけた時期もありました。最終的にお二人とも納得いただける楽器になったのですが、最初のうちは試行錯誤を繰り返して、その点が大変でした。
ベル支柱もアルトのYAS-875EXのようなリング形状のパーツやコンパクトな座金が採用されています。ここのパーツ変更で響きや音色にどのような影響があるのでしょうか?
内海
低音域の発音性の良さに加え、吹奏感が良くなることで音色の自由度が増します。
しっかりしたペグもヤマハのバリトンサックスの特徴だと思います。YBS-82に標準装備されたペグの材質や形状、響きの伝達などについて教えてください。
内海
今回ペグは新しくデザインしなおしました。目的は2つあります。1つ目は音の面の改良です。従来のペグは重量が重く、つけた時に低音域の吹奏感や音色に変化がおきてしまうことが課題でした。そのため新設計のペグは従来よりも大幅に軽量化し、吹奏感や響きを損なうことなくペグが使用できるようになっています。
そして2つ目は長さ調整です。従来ペグの調整はナット式で、長さ調整する際には一度ペグを楽器から外して調整するのが主流でしたが、それを手間と感じる人が多かったようです。今回の設計ではその点を解決し、楽器に装着したペグを床面につけ、演奏時と同じように構えたまま、あたかも譜面台の高さを調整するように無段階に調整することが可能になりました。機構としてはチェロのエンドピンと同じです。
結果的にデザインは「しっかりした」から少し「すっきりした」デザインになっていて少し強度面での不安を感じるかもしれませんが、その点は十分な強度試験を行なっており、ユーザーに安心して使っていただけるものになっています。
軽量化されたYBS-82のペグとペグ受け
「こんな楽器を求めている人にオススメ」というYBS-82のお薦めポイントを聞かせてください。
内海
ジャンルを問わず、自分の音色や吹き方にこだわる方に向いていると思います。さらにこだわる方には、好みにあわせて表面仕上げ(銀メッキ)や F#なしを選択していただけます。また、バリエーション豊かなオプションネックも取り揃えていますので、幅広いユーザーの好みに対応できる自信があります。

ヤマハYBS-82

[調子]Eb
[管体素材]イエローブラス
[仕上げ]ゴールドラッカー
[付属]マウスピース:5CM(エボナイト製)、ケース:BSC-62Ⅲキャスター付き
[希望小売価格] ¥1,150,000(税抜) 2020年12月19日発売

ヤマハYBS-62

[調子]Eb
[管体素材]イエローブラス
[仕上げ]ゴールドラッカー
[付属]マウスピース:5C(フェノール製)、ケース:BSC-62Ⅲキャスター付き
[希望小売価格] ¥830,000(税抜)

ヤマハYBS-480

[調子]Eb
[管体素材]イエローブラス
[仕上げ]ゴールドラッカー
[付属]マウスピース:5C(フェノール製)、ケース:BSC-41Ⅲキャスター付き
[希望小売価格] ¥600,000(税抜)

登場するアーティスト
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田中靖人
Yasuto Tanaka

1964年和歌山市に生まれる。 国立音楽大学在学中、第1回日本管打楽器コンクール第2位、第4回日本管打楽器コンクール第1位を受賞。 1990年東京文化会館でデビューリサイタルを開催。以来、国内外でリサイタルなど幅広い活動を行なっている。東京交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、神奈川フィルハーモニー管弦楽団、札幌交響楽団、名古屋フィルハーモニー交響楽団、仙台フィルハーモニー管弦楽団など、ソリストとしてオーケストラとの共演も多数。 2000年より(一財)地域創造主催の「公共ホール活性化事業」のアーティストとして、リサイタル、アウトリーチ コンサートも意欲的に行なっている。2003年和歌山県より「きのくに芸術新人賞」を受賞。 ソロ・アルバムに、1991年「管楽器ソロ曲集・サクソフォーン」(日本コロムビア)、1995年「ラプソディ」(EMI music japan)、1997年「サクソフォビア」(EMI music japan)、2003年「ガーシュイン カクテル」(佼成出版社)、2012年「モリコーネ パラダイス」(EMI music japan)をリリース。 また、サクソフォーン四重奏団 トルヴェール・クヮルテットのメンバーとして活躍し、これまでに10枚を超えるアルバムをリリース。2001年文化庁芸術祭レコード部門“大賞”を受賞。 現在、東京佼成ウインドオーケストラコンサートマスター、国立音楽大学、愛知県立芸術大学、昭和音楽大学、桐朋学園大学各講師、札幌大谷大学客員教授、名古屋音楽大学客員教授。

登場するアーティスト
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竹村直哉
Naoya Takemura

1979年生まれ。中学入学と同時にクラリネット、翌年よりアルトサックスを始める。早稲田大学入学後は、早稲田大学ハイ・ソサエティ・ジャズ・オーケストラに所属。学生時代よりプロ活動を始め、現在はバリトンサックスを軸としたマルチリード奏者として、数多くのビッグバンドや小野リサ、挾間美帆らとのライブや、スタジオワーク、ミュージカルなど幅広く活動中。これまでにDreams Come True、Superfly、BoA、鈴木雅之、マンハッタン・トランスファーらをサポート。

登場するアーティスト
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谷中敦
Atsushi Yanaka

1966年生まれ。アメリカ、ヨーロッパ、南米、アジアと世界を股にかけ活躍する大所帯スカバンド、東京スカパラダイスオーケストラのバリトンサックス担当。スカパラのヴォーカル曲の主な作詞を手掛け圧倒的支持を集めている。他アーティストにも作詞家として、KinKi Kids『ルーレットタウンの夏』、EXILE『空から落ちてくるJAZZ』、矢沢永吉『白い影』などを提供。また、アパレルブランド「Instant Fame」のプロデュースなど活動は多岐に渡る。

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