サックス記事
サックス記事

バッハと向きあう意味〜上野耕平 「BREATH」の戦略

THE SAX vol.87

1992年生まれの上野耕平は、まちがいなく同世代の先陣として疾駆するスーパースターのひとりだ。「アドルフに告ぐ」(2014年)、「Listen to…」(2016年)に続き、2017年末に彼がリリースしたアルバムのテーマは楽聖バッハ全作品中のなかでも異色の光を放つ無伴奏の独奏楽曲群だった……。


耕平の挑戦

それはまさに「戦い」だったのではないだろうか。インタビューを終えて、そう思った。 いつも快活な上野耕平は、新譜の話を根掘り葉掘り聞きだそうとする取材班に、いつものように真摯に答えてくれた。そこには「戦い」のような悲壮感は微塵もなかったけれど、彼が快活に語るアルバムの秘話から感じられたのは、巨大な絶壁にサックス一本で立ち向かおうとする若武者の姿だった。まあ、実際にはソプラノ、アルト、バリトンの3本だったのだが。

「飛行機、嫌いだったっけ?と、空港で会ったときにはちょっと心配しちゃいました」 スタッフの一人がそう漏らしたが、ドイツでの収録に向かう上野は、いつもとは違って無口だった。
上野
「処刑台に連行されるとしたら、こんな気分なんだろうなって思ってました」
上野は、そう語る。それだけ、今回のアルバムにけかける思いが強かったのだ。
上野
「これまで、清水靖晃さんや平野公崇さん、栃尾克樹さんなどの大先輩がさまざまなかたちで挑戦してきたのはもちろん存じ上げていましたし、よく聴いていました。だから、自分もいつかバッハの無伴奏作品をアルバムとして残したいな……と思ってきたんです」
その思いは今回の「BREATH」として結実したわけだが、そのきっかけとなったのは2016年4月に行なわれた「B to C」だった。東京オペラシティの企画で、若き才能ある音楽家たちがバッハ(Bach)と現代作品(Contemporary)を一晩で同時にとりあげる異色の演奏会、それが「B to C」だ。そこで上野は、はじめてバッハの無伴奏作品と向き合った。
上野
「バッハは、ハードルが高い印象があったんです。時代的に当然なんですが、サックスのための曲はありませんし……」
そう思いつつ、上野はその夜のプログラムに「無伴奏フルートのためのパルティータ」を組み込んだ。
上野
「これに取り組んでみて、手ごたえを感じたんです。やれるかもしれない、と。それで、今回のアルバムの話があったときに全曲バッハの無伴奏作品でいけないかと思ったんです」

(続く)

 


上野耕平BREATH

BREATH─J.S.Bach×Kohei Ueno─上野耕平
【COCQ-85411】¥3,000(税抜) 日本コロムビア [曲目]無伴奏チェロ組曲第1番ト長調、無伴奏フルートのためのパルティータ イ短調、無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番 ニ短調[演奏]上野耕平(Ss,As,Bs)


Concert Information

上野耕平のサックス道!Vol.2〜上野耕平 無伴奏サクソフォン・リサイタル[Bach × Kohei Ueno]
6月8日(金)19時開演 浜離宮朝日ホール
※詳細はhttp://columbia.jp/

 

登場するアーティスト

上野耕平
Kohei Ueno

茨城県東海村出身。8歳から吹奏楽部でサックスを始め、東京藝術大学器楽科を卒業。日本国内では早くから頭角を現し、学生時代にデビューを果たす。第28回日本管打楽器コンクールサクソフォン部門において、史上最年少で第1位ならびに特別大賞を受賞。2014年には世界最高峰サックスコンクール、第6回アドルフ・サックス国際コンクールにおいて第2位を受賞。2016年のB→C公演では、全曲無伴奏で挑戦し高評価を得ている。常に新たなプログラムにも挑戦し、サクソフォンの可能性を最大限に伝えている。CDデビューは2014年「アドルフに告ぐ」、2015年にはコンサートマスターを務めるぱんだウインドオーケストラのメジャーデビュー、また2017年にはThe Rev Saxophone QuartetのデビューCDをそれぞれリリース。第28回出光音楽賞受賞。現在、演奏活動のみならず「題名のない音楽会」、「報道ステーション」等メディアにも多く出演している。昭和音楽大学非常勤講師。The Rev Saxophone Quartet、ぱんだウインドオーケストラコンサートマスター。

[CLUB MEMBER ACCESS]

この記事の続きはCLUB会員限定です。
メンバーの方はログインしてください。
有料会員になるとすべてお読みいただけます。

1   |   2   |   3   |   4      次へ>