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田中靖人の吹奏楽サックス A to Z 第12回 | コンマス・パートリーダーお悩み編

THE SAX vol.62(2013年11月25日発刊)より転載 

コンマス・パートリーダーお悩み編

先輩たちが引退したら、自分がリーダーに指名されてしまった! でも後輩を指導する自信がないよ……というあなた、怖がらなくても大丈夫。これをチャンスととらえて、音楽スキルを上げちゃいましょう。もちろんリーダーでなくても必見の内容です。

 

〈コンマスお悩み編〉

Q. 音感が悪いので全体チューニングが不安です……
コンマスに指名され、指揮者が振る前に全員でのチューニングを仕切らなくてはなりません。でも音感にまったく自信がない……。音感を良くする方法はありますか?

A. 音程が合った時の「気持ちいい!」響きを覚えましょう
音感はわかるまで訓練するしかありません。これは誰もが通る道です。音楽を演奏する上で重要なことはたくさんありますが、最も大切なのは「聴く」ことです。自分の音はもちろん、共演者の音も同時に聴かないとアンサンブルができません。それは音程だけでなくテンポ感、リズム感、音色感、音量感などなど、すべてに関係します。
音程のトレーニングは、キーボードなどきちんとした音程が出る楽器の音を聴いて、あなたが楽器で演奏して合わせることから始めましょう。わからない場合は、自分のチューニングを極端に低く(または高く)して、音程が合っていない時の響きを覚えます。そこから次第に合うように修正して、合った時のスッキリした響きを覚えましょう。低音から高音までいろいろな高さの音でトレーニングして、慣れることです。そして、演奏の時も常に音程を聴く意識を持ちましょう。音程がわかるまでには個人差がありますが、最後には必ず誰もがわかるようになります。
コンマスとして自信を持ってチューニングに臨めるよう、頑張ってください!

 

Q. コンマスに必要な知識や能力って?
コンマスに指名されました。音楽の知識があまりなくて不安です。ちゃんとした(?)コンマスになるためには、どんな勉強をしたらいいでしょうか。

A. 指揮者と演奏メンバーとの間に立って意思疎通ができるように
吹奏楽の場合、管弦楽のオーケストラの第1ヴァイオリン奏者のコンサートマスターのような、弓のアップとダウンを決めたり、弓のボーイングで楽団員へ合図を送るような作業はありませんが、やはりいろいろな役割があります。リハーサル前に指揮者と、音楽的なこと、編成のこと、楽団員が持っている質問などをまとめて打ち合わせをしたり、リハーサル中に指揮者と楽団員の意思疎通が上手くいくように橋渡し役となったりと、自分の演奏以外にもたくさんのアンテナを持っている必要があります。
吹奏楽部のコンマスなら、指揮者が合奏中に皆さんに出した指示で特に大切なことをよく覚えておくこと。それらがきちんと音になっているかを、毎回リハーサルでチェックすること。パート練習などでは関係セクションにその内容を伝えて改善できるように努めること。
あとは、部活動ですから部員の悩み事も聞いてあげることも必要なのではないでしょうか?
知識があまりなくても、演奏する作品のスコアを見て曲の仕組みなどを勉強することで、音楽のことがだんだんわかるようになってきますよ。

 

〈パートリーダー編〉

Q. 部活を休みがちのメンバーにどうアプローチすれば?
時々しか部活に来なくなってしまった後輩がいます。その子はちゃんと吹けるし、パートの人数も少ないので出てきてほしいのですが、どうアプローチしていいかわかりません。学年の違うクラスを訪ねて呼び出すのも気が引けるし……。田中さんならどう声をかけますか?

A. 会ってじっくり話を聞いてみては
「ちゃんと吹ける」ということですが、その子は本当に吹奏楽部を続けたいのでしょうか? なぜ時々しか出てこないのか、その理由をきちんと知るべきですね。そこは後輩にハッキリと聞いてみましょう。大勢の前だとなかなか本当のことを言えないかもしれませんが、1対1で話せば何か理由を話せる雰囲気になると思いますよ。
パートリーダーですから、まずはすべてを受け止めて話を聞いてあげましょう。

 

Q. 練習はパート別、音域別のどちらを優先?
曲の練習をするときは、同じ楽器同士(サックスならアルト~バリトン)でやる場合と、曲の中で同じ旋律の動きをする楽器同士が集まってやる場合の2通りがあると思います。曲全体で考えると、同じ旋律の人が集まって練習するほうが大切なように思いますが、サックスパートで音色を合わせる必要もありますよね。コンクール直前の練習ではどちらを優先させるべきでしょうか?

A. もちろん、どちらも大切です
まず各セクションで音色、バランスを作っておいてから合奏に参加しなければいけません。そして、大きな編成だと自分と同じことを演奏する楽器がどこなのか聞こえにくい場合があるので、そこを聴けるようになるために分奏します。スコアを見て知るだけでは、ニュアンスやバランスがわからないからです。
分奏する時間がないという場合でも、合間の時間を使ってお互い声をかけて自主的にリハーサルをすると、合奏での演奏が変わりますよ。

 

Q. 強く指示するとメンバーに嫌われそう……
パート練習中に指示をするのが苦手です。「音がずれてる」とか、「もっとしっかり音を出して」と言いたいのですが、なんか嫌われそうで怖いです。

A. 言い方ひとつで良い雰囲気が生まれます
学校の吹奏楽部でもそうでしょうが、プロの世界でも「音程高い(低い)よ!」、「速いよ(遅いよ)」のような言葉は練習中によく聞こえてきます(笑)。オーケストラのような大人数になればなるほどいろんな人がいるわけですから、そういった言葉も多くなってきます。
私がメンバーとして26年演奏しているサクソフォン クワルテットのトルヴェール・クワルテットでは、「音程は友情」とよく言い合っていますが、先日、東京佼成ウインドオーケストラ定期演奏会のリハーサルでも、指揮者の飯守泰次郎さんが同じく「音程は友情」と仰っていて、なんだか嬉しくなりました。つまり、音程は常に動くものだから、誰かが突っ張るより、お互いよく聴き合ってどこかに集まって良い響きを作る。それが音程や音色なのです。
合奏では音楽の方向、音程、リズムなど大切なことがたくさんあって、合わなくなることも多いですね。でもそんな時は言い方ひとつで雰囲気が変わります。
ですから「音がずれている」ではなくて「このあたり、合わせる練習しましょうか」とか、「もっとしっかり音を出して」ではなくて「ここはもっと元気よく演奏しましょうか」など、やらされるのではなく、一緒にやる雰囲気を作ってみましょう。
言葉とタイミングって本当に大切ですね。

 

Q. 譜読みを間違えない方法ってありますか?
譜読みをしっかりしているつもりでも、音を間違えて吹いてしまって、後輩からよく指摘されます。演奏する前に音源は聴いているのですが、それでも間違えてしまいます。絶対に音を間違えないで読む方法を教えてください!

A. 楽譜をゆっくり読んで体に覚えさせましょう
急いで譜読みをすると間違えてインプットされてしまうことがあります。私もやってしまうことがありますよ。
また、短い時間で覚えようとして、きちんと吹けないような速いテンポでしか練習しないと、難しいところをマスターするのにかえって時間がかかってしまうことがあります。
間違えないようにするには、正確に吹けるようなゆっくりしたテンポで、体に入るまでていねいに練習を続けることです。
また、楽器を持たずに楽譜を見る時間も大切です。「急がば回れ」ですね!

 

音色を通じて友情を育てられるリーダーになろう!
田中靖人

※この記事はTHE SAX vol.62 を再構成したものです

田中靖人さん
田中 靖人 Yasuto Tanaka
和歌山県出身。国立音楽大学在学中、第4回日本管打楽器コンクール・サクソフォン部門で第1位を獲得。1991年には「管打楽器ソロ名曲集・サクソフォーン」でCDデビュー。1995年「ラプソディー」、1997年「サクソフォビア」を、03年「ガーシュインカクテル」を、2012年「モリコーネ・パラダイス」をリリース。一方、室内楽のジャンルではサクソフォン四重奏団[トルヴェール・クヮルテット]で活躍。2001年には文化庁芸術祭レコード部門大賞受賞。現在、愛知県立芸術大学、昭和音楽大学講師、礼幌大谷大学客員教授として後進の指導にもあたっている。東京佼成ウインドオーケストラ コンサートマスター。


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