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vol.15「Sound+1 共演の喜び」

THE SAX vol.37(2009年9月25日発刊)より転載

最近のスガワ

読者のみなさん、こんにちは。
今年も暑い夏が終わり、芸術の秋を迎えようとしています。素敵な夏の思い出はできましたか? 僕は、毎年参加している浜松国際管楽器アカデミーで今年も多くの生徒たちと接することができましたし、コンサートでは、ジャン=イヴ・フルモーさんとデュオで演奏しました。この他にも、いろんな楽器の名手たちとステージを共にしたイマジン七夕コンサートなど、たくさんの素敵な経験をさせていただきました!
その中で今回は、NHKのテレビ番組Sound+1についてのエピソードを紹介します。

 

 

Sound+1 共演の喜び

「Sound+1」という番組、もともとは過去に3年ほど続いた「響け! みんなの吹奏楽」から発展したものです。「響け〜」はその名の通り吹奏楽だけをテーマとし、僕やMALTA(Sax)さん、北村英治(Cl)さんなどが、ある吹奏楽団体を訪問して交流するという内容でしたが、「Sound+1」ではいろんな音楽のスタイルを取り上げ、吹奏楽もひとつのスタイルとして残る形となりました。

現在、その「Sound+1」の吹奏楽特番を制作中で、そこに僕も参加させてもらっています。「響け〜」でもやったスタイルですが、この番組のためのスペシャル吹奏楽団を結成し、金 聖響(指揮)さん、工藤重典(Fl)さん、伊東たけし(Sax)さん、角田健一(Tb)さん、僕との共演コンサート(公開収録)を開く、という企画内容です。

まずは、全国から寄せられた応募総数240名の中から、100人選出し、バンドを作ります。今回僕は、木管セクションのオーディション(書類・テープ審査)から関わることができました。もちろん選考は、楽器のレベルだけではありません。音楽に対する熱意や応募動機が大切になってきます。その応募書類というのが、どれもすばらしいものでした。今回この企画に参加したいと思った動機が詳しく書いてあったり、皆さんが一生懸命吹いて録音したものを送ってきてくれました。僕は丸一日かけてそのすべてをじっくり読み、聴きましたが、本当に音楽をやりたいという熱意がとても伝わってくるものでした。演奏は本当に様々です。かなりレベルの高いソロ曲を披露した音楽大学出身者や、好きな吹奏楽曲の自身のパートを録音してきた吹奏楽愛好家、「いつも飲み屋で吹いています」なんて人はポップス曲をカラオケバックに吹いていたり……。普段は専門家を目指す人と関わることが多い僕ですが、楽しんで音楽に触れていこう、一生の楽しみにしようという人たちの取り組み方、その熱意を感じたことは、非常に良い機会となりました。

 

さて、この番組の中で僕は、他のゲストプレイヤーの誰よりも吹奏楽に関わっていることから、「吹奏楽の魅力とは何かを伝える案内役」が課されています。音楽の作り方の基本(三大要素のメロディ、ハーモニー、リズムの説明)や、吹奏楽の音の組み立て方などをかみ砕いて説明する、比較的アカデミックな先生の立場となります。彼らの応募動機からは、「ただ楽しく合奏したい」だけではなく、何かを得たいという思いを強く感じました。それを見ているからこそ、僕は本格的なことを話さなければいけないと気を引き締めてかかっています。

一期一会のバンドで、コンサートまで全員で集まるのは3回。それをカメラがずっと追っています。僕を含む全員で集合してリハーサルをやる場面だけでなく、時間前にパート練習をしていたり、練習日以外でもメンバー個人を追っていたり。番組としては、最終的にできた音楽を聴かせるだけでなく、その過程も追い続け、編集されます。

 

今回のテーマは「共演の喜び」。モンティ『チャールダッシュ』を取り上げ、ソリストと伴奏という関係ではなく、同じ立場でそれぞれに「見せ場」があるアレンジを星出尚志さんに頼みました。1曲を創り上げるのに、誰ひとり欠けてもいけない。僕はこの曲を通して、音楽とは結局「会話」であるということを伝えたいと思いました。各楽器へのフレーズの受け答え、ダイナミクスの受け答え……人と人との会話もあるし、作曲家との会話、楽器同士の会話。そういったテーマで、リハーサルではそのために大切なことをしゃべりまくっています(笑)。

番組では、僕の言葉を受けたメンバーが、それをどう実践しているかもクローズアップされます。実際、僕が話したすべてを2〜3回のリハーサルでこなすことは不可能だと思います。でも、この機会に深く音楽のことを考え、一瞬でも体験し、僕の言葉をひとつでも覚えていてくれたらいいと思うんです。参加した人だけでなくテレビを視聴した人の今後の音楽人生に応用してくれたら……と。

番組自体は、音楽に青春をかけたり、楽しく音楽をやろう!というテーマもあるんですが、僕としては少しでも本格的に彼らを導いていき、吹奏楽の芸術性や魅力を伝えなければと思うあまり、時々厳しいことを言ったりもするんです。それにみんなも応えてくれ、もがき苦しみながら本番を迎えます。結果として、その厳しい過程があったからこそすばらしい本番を迎えられる。そのドラマを、参加者も視聴者も感じてくれたらいいなと思います。

このスペシャル番組は(2009年)11月に放送予定とのこと。みなさん、ぜひご覧くださいね。

ちなみにこの企画は「響け〜」時代を合わせると今回で3回目なんですが、1回目のメンバーは番組放送後も自分たちで活動を続けているそうです。そうやって、この番組発で吹奏楽が広がりをみせているのは、とても嬉しいことです。

今の「Sound+1」もすばらしい番組ですが、僕としては、また吹奏楽単体の番組が再開してくれることを密かに願っています。みなさん、NHKに投書などしてみませんか?(^_^)

 

次回のテーマは「合わせの醍醐味とは?」。
アンサンブルを上手に合わせる秘訣を解説します。お楽しみに!

※このコーナーは、「THE SAX」誌で2007年から2015年にかけて連載していた内容を再編集したものです

 

須川展也 Sugawa Nobuya

須川展也
日本が世界に誇るサクソフォン奏者。東京藝術大学卒業。サクソフォンを故・大室勇一氏に師事。第51回日本音楽コンクール管楽器部門、第1回日本管打楽器コンクールのいずれも最高位に輝く。出光音楽賞、村松賞受賞。
デビュー以来、名だたる作曲家への委嘱も積極的に行っており、須川によって委嘱&初演された多くの作品が楽譜としても出版され、20-21世紀のクラシカル・サクソフォンの新たな主要レパートリーとして国際的に広まっている。特に吉松隆の「ファジイバード・ソナタ」は、須川が海外で「ミスター・ファジイバード」と称される程に彼の名を国際的に高め、その演奏スタイルと共に国際的に世界のサクソフォン奏者たちの注目を集めている。
国内外のレーベルから約30枚に及ぶCDをリリース。最新CDは2016年発売の「マスターピーシーズ」(ヤマハミュージックコミュニケーションズ)。また、2014年には著書「サクソフォーンは歌う!」(時事通信社)を刊行。
NHK交響楽団をはじめ日本のほとんどのオーケストラと共演を重ねており、海外ではBBCフィル、フィルハーモニア管、ヴュルテンベルク・フィル、スロヴァキア・フィル、イーストマン・ウインド・アンサンブル、パリギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団など多数の楽団と共演している。
1989-2010年まで東京佼成ウインドオーケストラ・コンサートマスターを22年余り務めた。96年浜松ゆかりの芸術家顕彰を表彰されるほか、09年より「浜松市やらまいか大使」に就任。2016年度静岡県文化奨励賞受賞。
サクソフォン四重奏団トルヴェール・クヮルテットのメンバー。ヤマハ吹奏楽団常任指揮者、イイヅカ☆ブラスフェスティバル・ミュージックディレクター、静岡市清水文化会館マリナート音楽アドバイザー&マリナート・ウインズ音楽監督、東京藝術大学招聘教授、京都市立芸術大学客員教授。
 
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