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vol.17「合わせの醍醐味〜その2 ブレスの取り方とタイミング」

THE SAX vol.39(2010年1月25日発刊)より転載

最近のスガワ

こんにちは。
読者の皆さまも、輝かしい新年を迎えられ……もうすでにバリバリ活動されていることでしょう! 僕も、この雑誌が発売されるころには、数日後に控えた指揮者としてのサントリーホールデビューに向けて、精神統一(!?)に勤しんでいることでしょう。指揮は演奏にも良い影響を与えるところがあって、大切にしている活動のひとつなんです。ヤマハ吹奏楽団の素晴らしい演奏も含め、楽しみにしていてくださいね。
もちろんコンサートもたくさん控えていて、なかなか忙しい滑り出しです。今年もいろんな会場で皆さんにお目にかかれるのを楽しみにしています。

 

 

合わせの醍醐味〜その2 ブレスの取り方とタイミング

前回は「合わせの醍醐味」というテーマで、「ブレスを合わせることに秘訣がある」というお話をしました。例えば指揮者がいるバンドで演奏するような場合、音が出る2拍前で息を吐いて、1拍前で指揮者と一緒に息を吸って……「1〜2→準備、3→吐く、4→吸う」(4拍子の場合)ということができればほとんどの場合魔法のように音が合う、と書きましたが、実践してみましたか? そこで今回は、演奏のためにも絶対必要な「息の吸い方とタイミング」について考えてみましょう。

息を吸うには、実は「吐くこと」がポイントになります。息を吐いて体をリラックスさせると、1拍前で息を吸うときの体の吸い方はとても良いものになり、思っているよりも息が入ります。

以前にレッスンした1人の生徒が「息が続かない」と言ったので、取りあえず「息をいっぱい吸って吹いてごらん」と言ってロングトーンをやってみました。その後に「息を1回吐いてから思いっきり吸って」と言ってみました。すると、実際に3秒長くロングトーンできたんです。3秒は結構大きいですよね。本人はたくさん吸っているつもりでも、吐いてないから吸えなかった。こういったレッスンをすると、ほとんどの人が息が長く続くようになります。それは息のためにもいいし、タイミングを取るためにもいい。これは2人、4人、8人と人数が増えても共通して言えることです。

しかしもう1つ足りないことは、長いフレーズの中でブレスを取りたいのにちょっとしか隙間がないとき。これはなかなかテクニックがいるんですが、まず最初に音を切る場所をちゃんと決めましょう。例えば符点二分音符と四分音符の間で息を吸わないといけないとき。1、2、3と伸ばしてから息を吸うと、その時点でテンポが遅れてしまいますね。こういう場合、多くは3拍目の頭に余韻を残しながら音を切り、その間にすかさず息を吸う、ということを決めておくんです。注意しなければいけないのは、バサッと切るのではなく余韻を残すということと、音を切ったときにすかさずサッと息を吸えるか、ですね。

次のポイントは、できる限り自分に合わせてブレス記号を譜面に書いておくことです。息に自信がない人、合わせに自信がない人は、書いておくことによって自分の体に命令できるわけです。ブレスを取ることに対して良い道しるべになるのと、共演者(相手)も「ここで息を吸うんだ」とわかる良いポイントになります。

そしてもう1つの大きなポイントは、音楽の流れに沿って自然に取れるブレスの場所を決めること。これはその人のセンスに任されますのでセンスを磨いてくださいとしかいえないのですが……。アドバイスとしては、長いフレーズのときには予備のブレスポイントを1〜2箇所、カッコ書きしておくといいですね。本番などは緊張するのでうまくブレスできない場合があります。これは誰もが経験することなんですが、そのリスク回避としての準備です。「苦しい、もう持たない」と思ったときにはそこですかさず吸えるような勇気が必要です。もちろん、思い描くフレーズを吹くためにはブレスを理想的にできればいいのですが、人間ってそんなにいつも完璧にはいきませんから……。そんな万が一のために、予備のブレスの位置を共演者に知らせておくといいかもしれません。

予備のブレスマークは、フレーズの間でかろうじて音楽の流れを壊さないだろうという位置にしておくんですが、ブレスを取る前の音の処理の仕方を普段から気にしておくことが大事ですね。ブレスのために前の音をバサッと切ってしまったら音楽の流れを止めちゃいますから。ちゃんと余韻を残して吸えるかどうか。息を吸うための音の処理の仕方を考えないといけません。

そして、最終的に良いブレスを取るには、やっぱり姿勢ですね。より息が入りやすく、長く続く姿勢をしっかり意識することが大事ではないでしょうか。

うまくブレスを取れたら、いろいろなアンサンブルが楽になります。アンサンブルの場合は、リーダーや周りの人と一緒にブレスのタイミングをとって合わせること。指揮者がいたらそのタクトに合わせてブレスを取ること。息が苦しいからと言って勝手なテンポでやることをなるべく少なくして、自分も一緒になって音楽の流れの中でブレスを取れることがアンサンブルのコツです。そしてブレスを取る前の音の処理をデリケートに、ていねいに扱うこと。音楽の流れを損なうことがないようにしましょう。

この2つのポイントを頭に置いて練習していけば、どんな編成でも相当のアンサンブル能力がつくと思いますよ! がんばってくださいね。

 

次回のテーマは「サックスセクションのためのパート練習メニュー」。
一週間の効果的な練習メニューを提案します。お楽しみに!

※このコーナーは、「THE SAX」誌で2007年から2015年にかけて連載していた内容を再編集したものです

 

須川展也 Sugawa Nobuya

須川展也
日本が世界に誇るサクソフォン奏者。東京藝術大学卒業。サクソフォンを故・大室勇一氏に師事。第51回日本音楽コンクール管楽器部門、第1回日本管打楽器コンクールのいずれも最高位に輝く。出光音楽賞、村松賞受賞。
デビュー以来、名だたる作曲家への委嘱も積極的に行っており、須川によって委嘱&初演された多くの作品が楽譜としても出版され、20-21世紀のクラシカル・サクソフォンの新たな主要レパートリーとして国際的に広まっている。特に吉松隆の「ファジイバード・ソナタ」は、須川が海外で「ミスター・ファジイバード」と称される程に彼の名を国際的に高め、その演奏スタイルと共に国際的に世界のサクソフォン奏者たちの注目を集めている。
国内外のレーベルから約30枚に及ぶCDをリリース。最新CDは2016年発売の「マスターピーシーズ」(ヤマハミュージックコミュニケーションズ)。また、2014年には著書「サクソフォーンは歌う!」(時事通信社)を刊行。
NHK交響楽団をはじめ日本のほとんどのオーケストラと共演を重ねており、海外ではBBCフィル、フィルハーモニア管、ヴュルテンベルク・フィル、スロヴァキア・フィル、イーストマン・ウインド・アンサンブル、パリギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団など多数の楽団と共演している。
1989-2010年まで東京佼成ウインドオーケストラ・コンサートマスターを22年余り務めた。96年浜松ゆかりの芸術家顕彰を表彰されるほか、09年より「浜松市やらまいか大使」に就任。2016年度静岡県文化奨励賞受賞。
サクソフォン四重奏団トルヴェール・クヮルテットのメンバー。ヤマハ吹奏楽団常任指揮者、イイヅカ☆ブラスフェスティバル・ミュージックディレクター、静岡市清水文化会館マリナート音楽アドバイザー&マリナート・ウインズ音楽監督、東京藝術大学招聘教授、京都市立芸術大学客員教授。
 

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