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川口 力 ×「パッと見て分かるサックス運指本」

この秋、初心者から中・上級者まで使えるサクソフォーン奏者のための運指本「パッと見て分かるサックス運指本(アルトサックス編)」が発刊となった。著者は、中高生から大人まで長年の指導経験があり、その教え方に定評のある川口力氏。多くの愛好家のレッスンをしてきた川口氏が、その現場から必要を感じて教則本を企画したことが、今回の運指本制作のきっかけだ。発売後、各方面から大きな反響を呼んでいる。
今回はあらためて、川口 力氏に本作の内容について語ってもらった。

基本は1ページ1運指

川口力 サックス運指本見開き サックス運指本見開きサックス運指本見開き サックス運指本見開き
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今回、運指本をつくろうと思ったのはどんなきっかけからですか?
川口
音楽教室の先生をしている人と、初心者の人を教えることが多いんです。初めての方でも「すぐに音を出したい」という希望があって、初めてのレッスンではなるべくたくさんの音を吹いてもらおうと思って運指を教えるわけです。先生がその場にいるので、ほとんどの方が音を出せるのですが、レッスンが終わると、指使いを忘れてしまって出したい音が出せないということがよくあるのです。また初心者の方でなくても、運指に特化した教則本が欲しいという意見もあって、今回の企画に至ったのです。

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早い段階で運指がわかれば、曲にチャレンジすることができますし、自分の好きな曲を吹くことで、上達も早くなりますよね。
川口
そうなんです。なんでもそうですが、物事を始めた時は、「何を知らないのか分からない状態」です。初心者の方にとってそれはまず運指だったり、セッティングだったりするわけです。
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今回の教則本はその一つの運指にスポットを当てたわけですね。
川口
はい。それから初心者向けではありますが、サックスでよく使われる替え指なども掲載しています。基本は初心者の人がなるべく見やすいことを念頭にイラストや写真をメインに、それもなるべく運指を大きく掲載するということに重点をおいています。
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実際に合奏などの場面では、運指どおりに吹いても他の奏者と音程(ピッチ)が合わずに苦労することもありますね。
川口
楽器の構造上、音程が上がりやすい音、下がりやすい音があり、常にアンブシュア(口の形)でのコントロールが必要なのですが、ここでは確実に音程・音質を補正したい場合に使える替え指を掲載し、Tips欄にて解説を添えています。また各音の音程の傾向をチューナーメーターの図で示しています。
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正しい音程で吹けるようになることは、ソロでもアンサンブルでも美しい音楽を作る上で大事なことですね。
川口
はい。 サックスの構造、現段階の製造技術では、チューナーに対しピアノのように誰が吹いても±0を示すことは不可能です。
サックスの演奏知識が増えてくると、この指使いの音程・音質は悪い傾向になるから、そのままでも仕方がない(泣)と“妥協”しがちになります。
サックス愛好者どうしが演奏を聴きあいながら、 「ここら辺は音程、もともと悪いから仕方が無いよね~。」迄は良いのですが、一番問題なのは、他の楽器奏者、そして一般の方はそんなサックスの苦しい事情(汗)なんて知らない訳です。

プロの現場で言い訳は完全に不可能です。一流オーケストラの中に入った時なんて、それはもう・・・。
一般の方って、普段から好きなジャンルの上手なシンガーや一流の演奏を聴いてます。
「そう、みんな普通に耳が良いんです。。」
じゃあ、現在のチューナーだって“平均律”じゃないか(怒)!“純正律”で取れ!!など論争に発展しても気持ちは萎えますから、そこは一旦置いておいて、
サックス愛好者はソロでもアンサンブルでも、有効な音程・音質補正の指使いを最低限の知識として、『知らないよりは知っていたほうが良い(笑)』ということです。
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Tips欄に記載あるトリルの時に使える替え指と解説も、とても分かりやすく便利だと思いました。
川口
トリルに関しては、例えば中音域のドからレなど運指によって均一な早さで動かすのが大変な場合があります。そういった時にスムーズに動かせる便利な替え指や、普通では気が付かない荒業(笑)!トリル等を掲載しています。
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本書に何度か登場する“指の仕事率”というキーワードが気になりました。
川口
ラ♯・シ♭にはP、Taの二種類の指使いがあり、的確な選択が必要とされます。その際、前の音から次の音に向かう時に起こる各指の動作を、“指の仕事率”として数値化し、その合計値が低い=指の仕事率の低い運指を“選択すべき指使い”とし、今までにない斬新な選択方法のコラムを掲載しました。
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巻末には、フラジオの運指、特殊な運指、音階練習(スケール)の掲載もありますね。
川口
フラジオに関しては、今回は奏法の説明は割愛し、有効な指使いを紹介しています。標準音域の運指を十分に習得したあとに挑戦する音域になりますね。また特殊な運指として、標準運指で困難な音形に出会ったときに使える替え指を、音型とともに掲載しています。スケールに関しては、長音階(15種類)さらに和声・旋律的短音階(各15種類)を掲載しました。異名同調による割愛が無く、国内楽譜では初めて全調が練習できる教則本にもなりました。併せて半音階もあり、音階練習本としてずっと使えます。
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中・上級者の方にも新たな発見のある教則本と言えますね。
川口
サックスを続けていく上で直面するであろう、運指にかかわる応用できることや問題点をTipsやコラムという形で添えてあげることで、経験者も問題が起こったときに、この本を見れば解決できるという教則本になります。
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最後にSAX ONLINE読者に向けて、この運指本のメッセージをお願いします。
川口
プロが隠し持っていた運指法を惜しみなく公開、サックス界のレベルの底上げ担う
“サックス愛好者、必携の本”として、確固たる存在価値を築く本としての確信を持っております。どうぞ皆様、この“サックス運指本”を末永くご愛用ください。
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ありがとうございました。
川口力

 

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