The Clarinet vol.65 Special Contents

とことん指レン!【後編】

 

仕掛人 木村健雄
東京都出身。東京藝術大学、フランス国立ルエイユ・マルメゾン音楽院卒業。帰国後、ソリスト、フリーのオーケストラ、室内楽奏者として活動。とりわけE♭クラリネットからコントラバスクラリネットまでこなすスペシャリストとして国内外のオーケストラ、吹奏楽団の数多くの演奏会、CD録音、DVD録画に参加。また海外からの現代音楽祭出演招待も多く、2005年に韓国大邸国際現代音楽祭、2006年にポーランド・ワルシャワ・ラボラトリウム現代音楽祭、2007年、2008年、2014年にソウル市ディメンション国際現代音楽祭などにメインゲストとして出演。現在、アンサンブル・インタラクティブ・トキオ、東京クラリネットアンサンブル、アマデウスクインテットのメンバーとしても活躍。尚美学園大学、聖徳大学の各講師。

 

それでは実際の指レンを、譜例を交えながらやってみましょう! ここでは「必勝!クラリネット仕掛人」に出張してもらい、木村健雄先生にフィンガリングについて解説してもらいました。また、The Clarinet vol.63とvol.64にそれぞれ掲載された同コーナーでもフィンガリングを扱っているので、あわせて読んでみてくださいね!

筆者の学生時代、東京藝術大学の体育の授業には通称「こんにゃく体操」というものがあり、野口三千三先生というプロレスラーやサーカス団員に怪我をしない身体の使い方、力の抜き方を指導されていた先生が教えていた。「腕は水の入った袋だとイメージしなさい……」と。そしてその授業の実技試験の課題は、両腕を脱力させ、腰のスナップで左右に体をひねり、子どもがダダをこねるように腕をただブラブラと振り回す……というもの。筆者は「秀」をいただいた記憶があるが、この理論を我々学生たちは自分の専門の楽器にどう活かすか頭を抱えた。
ピアノや打楽器、弦楽器は身体の動きが目に見えるのでわかりやすいが、声楽科や管楽器は外から見ただけではほぼ何もわからない。管楽器はアンブシュアやタンギングなどすべて体の内側に目を向け、何が起きているかを考えないと理解することは難しい。「力む」ことは見てわかることもあるが、「脱力」ができているかどうかはなかなか本人にもわかりづらい。また分かっていても本番でできるかというと、緊張したり集中力が切れたり音楽が情動的になった時など、プロでもできていないことがよくある。
指の分化がうまくできず、指一本ずつを独立して動かすことが難しい場合はPaul JEANJEAN著「“Vade-Mecum” du Clarinettiste」(A.Leduc社版)の前半にある練習をコツコツとやってほしい。筆者もやらされた経験があるが、今になって思うと姿勢、楽器の構え方、脱力など基本的なことができていなかったために必要と判断されたのだと思う。

Short Scales

まずは♪=60くらいのゆっくりなテンポで譜例1を吹いてみよう。なぜこれほど遅いテンポから始めるかというと、正しい指の「形」と「状態」を正確に記憶するためだ。どの指をあげてどの指を下ろすとか、指の動きを考えるのではない! 静止して休んでいる状態を覚えていく。
このShort Scalesにおいては長音階と和声的短音階のみで行なう。旋律的短音階というのはほぼ長音階でできているのでやりたければやってもいいが、少々頭を使って長音階の応用と考えることができればやる必要がない。音と音の間に雑音が入ったり切れたりしないよう滑らかなレガートになるように。
指がバラバラと動いたりうまくいかない原因は、トーンホールやキィに触れていない宙に浮いている指も含め、指に余計な力が入っていることに他ならない。ひとつの形を作ったら指は休んでいなければならず、握り締めるように力を入れていては指はパッと動けないのだ。また、次の音に移る時に指で楽器を叩くようにしてしまうと音にアクセントがついてしまうので、今回の場合は避けてほしい。次の指使いへと移る瞬間というのは一瞬なので知覚が難しく、「パッ」と、としか言いようがない。それよりは時間的に16分音符1個の長さ分静止しているほうが知覚できるし記憶に残るはずだ(図1)。楽に柔らかく押さえた次の音の指の状態をイメージするだけだ。

図1
次ページの譜例1で例えると……
aは16分音符の長さ。静止しているので記憶に残りやすい。bの瞬間は一瞬すぎて知覚が難しい
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