フルート記事
THE FLUTE vol.176 Cover Story

一度立ち止まって、ゆっくり考えてみるのもいい─上野星矢

「いま自分が動かずにじっとしていては、フルート界の未来がなくなってしまうと思うのです」─上野から送られてきたメッセージには、そう書いてあった。コロナ騒動で“3密”という言葉が生まれ、またたく間にすべての音楽公演が消えてなくなったこの3月。オンラインのフルートオーディションを立ち上げること、コンクールなども中止や延期になる中でフルーティストたちのモチベーションになることを模索し、各方面への協力を依頼している……そんな内容が率直に綴られ、「拙い文章で長文を申し訳ありません」と結ばれていた。
実際、審査員となる奏者たちからの協力をとりつけて様々な賞と賞品を準備し、応募できるしくみをオンライン上に作り、告知サイトを公開するという作業を、決断してから1週間でなしとげたのだという。
今号の巻頭インタビューは、彼にお願いしよう。そう決めるまでに、時間はかからなかった。実現したインタビューは、長引くコロナ禍のもと緊急事態宣言真っ只中の5月半ば、スカイプの画面越しでの会話となった。
写真:Shohei Sato

上野星矢
上野星矢

ネガティブになっている時間はない

「ステイホーム」期間は、どんなふうにお過ごしでしたか?
上野
自宅で過ごしつつ、オンラインレッスンをしたりオーディションのことでいろいろ動いたり、配信をしたり……。外出はすべて自転車移動で、都内のいろいろな場所に自転車で行きました。結構な距離を走ったので、むしろこれまでより運動したかもしれません、太ももが太くなりました(笑)。
コロナの影響で、音楽界には予期せぬ危機が訪れました。この数ヶ月、どんなことを感じてきましたか? とても一言では言えないと思いますが……。
上野
ここ何十年かで、音楽の形式はより大きなものが求められるようになってきていたと思います。演奏者の人数や音量しかり、音楽を発信する形そのものがより大規模になって、「迫力」に重きが置かれる時代が続いてきた。そんな中で、この2月から突然人が集まれない状況が生まれて、「結局本来の芸術の形って何だろう?」と、まず考えました。もともと、少人数で作り上げる芸術をもっと大切にしていきたいと思っていたこともあって……はからずも今回の出来事が、その考えを深めるきっかけにもなりました。
「ピンチはチャンス」なんてよく言われますが、それと似ているかもしれません。この状況の中で、本当はできたはずだったのに今までやってこなかったことが浮き彫りになった面があると思います。もちろん、大変なことのほうが多いのは確かで、僕自身、予定していた海外公演―台湾、韓国、フランス、ルーマニア、スイス、フィンランドでのコンサートが全滅しましたから。

次のページの項目
・人脈から生まれたコラボレーション
・“ノーライフ、ノーミュージック”

Profile
上野星矢
Seiya Ueno
1989年東京出身。数々の学生コンクールで優勝を飾り、15才で初リサイタルを行なう。2005年、東京都立芸術高等学校に入学。全日本学生音楽コンクール全国大会高校生の部第1位。2008年、東京芸術大学音楽学部フルート専攻入学。同年、第8回ジャン=ピエール・ランパル国際フルートコンクール優勝。2009年よりパリに留学、パリ国立高等音楽院に審査員満場一致で入学し、2012年パリ国立高等音楽院第1課程を審査員満場一致の最優秀賞並びに審査員特別賞を受賞し卒業。卒業後も数多くの賞を受賞し、東京交響楽団をはじめとしたオーケストラと共演、テレビやラジオ番組にも出演。現在は日本、ヨーロッパ、アメリカ、アジア圏を中心に、オーケストラとの協奏曲、ソロリサイタルを開催するなど、世界を舞台に活躍中。

 

CD information
2本のフルートのための二重奏曲集
2本のフルートのための二重奏曲集

W.F. バッハ: 2本のフルートのための二重奏曲集
[曲目]二重奏曲 第1番 ホ短調 FK.54、二重奏曲 第2番 変ホ長調 FK.55、二重奏曲 第3番 変ホ長調 FK.56、二重奏曲 第4番 ヘ長調 FK.57、二重奏曲 第5番 ヘ短調 FK.58、二重奏曲 第6番 ト長調 FK.59
[演奏]上野星矢、アレキシ・ロマン(Fl)
[録音]2019年2月 栃木 岩舟コスモス・ホール
[価格]¥2,800(税別)

 
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