フルート記事
THE FLUTE vol.182 Cover Story

フルート1本で、世界とつながろう

上野星矢が一人でオンラインオーディションを立ち上げたのは、1年前のことだった。参加者は小学生からプロとして活動している人まで。国内のみの参加募集だったが、蓋を開けてみれば、参加者は400人を超えた。
そして今、彼が新たにスタートさせたのが国際オーディションだ。盟友である世界のフルーティストたちを審査員に迎え、さらなる挑戦が始まろうとしている。世界的コロナ禍の今だからこそ、国際オーディションに意義がある!

上野星矢、オンライン国際フルートオーディションを語る

日本という枠を飛び出し、舞台を世界に移して始まる「第2回東京国際フルートオーディション」について、上野さんと運営委員長の山崎英一さんに話を伺った。

理想形は音楽の“東京マラソン”

昨年初開催だったオンラインオーディションから1年が経ちましたが、コロナ禍の状況は変わらないまま、音楽界にも暗雲立ち込める状態が続いていますね。
上野
今年も引き続き、予定されていたいくつかのコンクールが中止や延期に追い込まれています。参加を予定していたコンテスタントの皆さんの失望感も相変わらず……そんな様子を見ていて、思い切って今年は規模を広げてオーディションを開催することにしました。
前回のオーディションは、終えられてみてどうでしたか?
上野
どのくらいの人が参加してくれるのだろうかと、実は少々不安もありました。オンラインのオーディションというものに皆さんがモチベーションを感じてくださるのか、わからない状態でしたから。でも蓋を開けてみたら400人以上の応募があり、主催する側としても本当にやりがいがありましたし、何より皆さんの熱意が伝わってきて嬉しかったですね。これからのジェネレーションを担っていく人望の厚い方々が審査員を引き受けてくださったことも、多くの人の注目を集めた理由になっていたと思います。あらためてこの場でお礼を申し上げます。
参加者のレベルも予想以上に高かったと思います。グランプリを受賞した方には、僕のサントリーホールでのリサイタルの時にアンコールステージで共演していただきましたが、そこでの演奏も素晴らしかった。フルートの達人が集まったなあ、と感無量でした。
小学生からプロとして活動している人までという、幅広い層を対象にしていることも特徴でした。どんな人たちが応募したのですか?
上野
一次予選の段階で、フルートを始めて数ヶ月という方や、好きなアニソンをコスプレをしながら吹きます!という方などもいらっしゃいました。また、アマチュア部門でもプロ顔負けのテクニックでコンチェルトを演奏されていた方などもいて、実に幅広い方々が集う場になったと思います。ファイナルで優勝者を決める段階では、演奏技術や音楽の完成度が審査の対象になりますが、全体的には皆さんがそれぞれ、自分の音楽をアピールすることを楽しんでいるのが伝わってきました。
山崎
応募者数がいちばん多かったのがアマチュア部門だったのですが、小学生から高校生までの学生さんの応募もたくさんありました。全体のうち200名くらいは、学生の皆さんでしたね。上は60代、70代という方もいらっしゃいました。
上野
ある意味、東京マラソンみたいなイメージというか―優勝を狙っている人から完走を目指して参加する人まで、様々な人が一堂に集まる場。そういうものにしたいという目的が最初からあったんですよね。いろいろなレベルの人がそれぞれの目的で参加できることが、僕が考えるこのオーディションの理想形でした。それが達成できたと思いますし、僕が実現したかったことがしっかり伝わって、皆さんが応えてくださったのも嬉しかったです。
通常のコンクールだと、演奏の順番が決められ、他の人の演奏が終わるのをステージ袖で待ったりする緊張感もあって、“日常”とは切り離された体験になります。もちろんそれはそれとして、“日常”に近い状態で自分のベストを出すのに専念できるところが、このオーディションの意義だと思っています。
応募された皆さんからのメッセージ動画も多数寄せられたそうですね。
上野
意気込みをメッセージに込めてぜひ一緒に送ってください、と呼びかけていたんですね。全国津々浦々、山の中から海辺の町まで、それぞれの場所から発信 されたメッセージ動画をたくさん受け取りました。審査員側もワクワクしながら、皆さんの思いがこもったコメントを一つひとつ楽しませていただきました。

次のページ続く
・(インタビュー続き)競うことから生まれた絆
・審査員メッセージ ─ オンラインで踏み出す一歩のために
・第2回東京国際フルートオーディション開催・募集要項

Profile
上野星矢
Seiya Ueno
東京出身。19才で世界的フルート奏者の登竜門である「第8回ジャン=ピエール・ランパル国際フルートコンクール」(フランス)で優勝し、その後世界を舞台に活躍する日本を代表するアーティスト。。パリ国立高等音楽院、ミュンヘン音楽大学大学院卒業。同年、ファーストアルバム『万華響』でデビューし、『デジタルバード組曲』、『into Love』、『テレマン:無伴奏フルートによる12の幻想曲』、『W.F.バッハ:2つのフルートの為のソナタ集』の計5枚のCDを発表。2014年にはNewYork Young Concert Artistにて優勝し2015年秋に全8か所のアメリカツアーを成功させ、ケネディセンターでのリサイタル、最終公演はニューヨーク・カーネギーホールでリサイタルデビューを果たした。杉並区文化功労賞、第25回青山音楽賞新人賞、第17回ホテルオークラ音楽賞受賞。東京バロックプレイヤーズ代表。音楽教室「音の棲む部屋」代表。大阪音楽大学准教授。
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