フルート記事
THE FLUTE 167号 Cover Story

言葉は、音楽に生き写しのように反映される | 上野星矢

この11月、テレマンによる『無伴奏フルートのための12の幻想』CDをリリースした上野星矢。かねてからこだわりがあったバロック音楽の世界を、より多くの人に楽しんでもらいたいと、コンサート会場限定販売だったアルバムを一般に向けて発売した。上野のコンサートで特徴的なのは、中高生をはじめとする多くの若いファンが会場を埋めること。年齢層が高くなりがちなクラシックのコンサートにおいては、異例かつ貴重な光景なのだ。そんな人気の源、若いファンを惹きつけてやまないものとは……2019年に30歳を迎える“いま”の上野星矢に迫った。
写真:標隆司/取材協力:株式会社森音楽事務所

フルートの可能性を広げたテレマン

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テレマンの『12の幻想曲集』をニューアルバムのテーマに選んだ理由は何ですか?
上野
バロック音楽はフルーティストにとって欠かせないレパートリーですし、中でもテレマンはフルートのためにたくさん曲を残しています。バロックに限らず、おそらくフルートの音楽の中ではテレマンがいちばんたくさん曲を残していると思います。中でも『12の幻想』は、僕にとって最もやりがいのある曲なんです。フルートの往年の巨匠たちはだいたいこの曲の録音を残しています。ところが、最近になってこの曲を全曲録音している人がなかなかいない。
時代が進めば進むほど、バロック音楽の研究や解釈も進んでいきますから、演奏のスタイルも変わってきている。ひと昔前より、今のほうが書かれた当時の解釈に近づいているはずなんです。僕はバロック音楽を専門に演奏する東京バロックプレイヤーズというグループでもリーダーとして活動していますが、自分の中でバロック音楽は特別なもので、強みだとも思っている。そういう意味で、新しいスタンダード版として聴いてもらえるといいな、という思いがあります。
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テレマンの作品は、フルーティストにとっては誰もが通る道ともいえる存在ですが、にもかかわらずバッハやヘンデルよりスポットが当たらないことが多い気がします。上野さんにとって、テレマンの魅力はどんなところですか?
上野
テレマンは無伴奏幻想曲の作曲において、革新的な技術を使ったと僕は思っているんです。その一つに、“一人でフーガを演奏する”ことがあります。たとえばバッハがヴァイオリンのために書いた無伴奏パルティータとか、そういう作品の中には出てきますが、一人で演奏するフルートのためのフーガというのは存在しなかった。それだけに、フルートの可能性をすごく引き伸ばして、フルートがソロ楽器として存在できることを強く証明したんじゃないかと思います。
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楽譜に指示書きのないバロック音楽は、自由度が高い反面、表現の組み立てが難しいと言われます。ジャズのアドリブにも通じるような一面があったり……。上野さんはどんなことを考えながら表現しますか?
上野
特にアーティキュレーション、発音に対して注意を払いながら演奏しているというのがまず一つですね。それと、もともとトラヴェルソで演奏されていた音楽ですから、そういう音色の感じを大事にしています。ただ、スタイルだけに固執すると作品として成り立たないので、その両立をはかることが難しいところではありますね。
現代の楽器で演奏するバロック音楽は、“歌”で表現しやすくなると思うんです。ダイナミックレンジも幅広いですし、ある意味、発音とかリズムにそこまでこだわらなくても音楽がきれいに聞こえてしまう。ですが「良い演奏は良い演説にたとえられる」と言われていたような時代の音楽ですから、単にきれいな音色でヴィブラートをかけて歌うのは違うと思っています。音楽を“言葉”として、そしてバロックとは切り離せない“踊り”の音楽をいかに浮き立たせるか、ということには気をつけています。

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納得のいく音楽を目指してプランを持つこと
バロック音楽を心から楽しむ

 

Profile
上野星矢
上野星矢
Seiya Ueno
2004年全日本学生音楽コンクール全国大会中学生の部第1位、日本ジュニア管打楽器コンクールフルート部門金賞、大阪国際音楽コンクール管楽器部門中学生の部第1位、大阪府知事賞。15才で初リサイタルを行なう。2005年東京都立芸術高等学校に入学。全日本学生音楽コンクール全国大会高校生の部第1位。その後、日本音楽コンクールフルート部門にて第2位および3位、松方ホール音楽賞木管部門1位ならびに特賞など、国内コンクールで数多く受賞。杉並区文化功労賞受賞。2008年東京芸術大学音楽学部フルート専攻入学。同年「第8回ジャン=ピエール・ランパル国際フルートコンクール」優勝。2009年パリ国立高等音楽院に審査員満場一致で入学。 2012年パリ国立高等音楽院第1課程を審査員満場一致の最優秀賞並びに審査員特別賞を受賞し卒業。同年10月ミュンヘン国立音楽大学大学院に入学。山田ゆう子、堀井恵、ザビーネ・ザイフェルト、立川和男、金昌国、ヴァンサン・リュカ、ソフィー・シェリエ、アンドレア・リーバークネヒトの各氏に師事。2014年ニューヨーク・ヤングアーティスト・コンペティション優勝。2015年10月にはニューヨークカーネギホールでアメリカデビュー。第25回青山音楽賞新人賞、第17回ホテルオークラ音楽賞受賞。音楽教室「音の棲む部屋」主宰。

 

 

Live information
最強の二人
最強の二人

上野星矢×クレモン・デュフール
最強”の二人

[日時]2018年12月23日(日) 19:00開演
[会場]東京オペラシティ・リサイタルホール
[出演]上野星矢(Fl)、クレモン・デュフール(Fl)、小山和(Pf)
[料金]一般¥4.000 学生¥2.500(全席自由)
[チケット]カンフェティチケットセンター TEL:0120-240-540 (平日10~18時)

 
東京バロックプレイヤーズ
東京バロックプレイヤーズ

東京バロックプレイヤーズ ドッペルコンチェルト[日時]
大阪公演:2019年2月19日(火)
東京公演:2019年2月21日(木) 19:00開演
[会場]いずみホール(大阪)、紀尾井ホール(東京)
[出演]東京バロックプレイヤーズ:上野星矢、對馬佳祐、谷本華子、中田美穂、金子鈴太郎、諸岡典経、桑生美千佳 (ゲスト)白井圭、アレクシス・ローマン、イエチャン・チョン、金子亜未 [料金]各チケットセンターへ
[チケット]
(東京公演)カンフェティチケットセンター
TEL:0120-240-540 (平日10~18時)
(大阪公演)いずみホールチケットセンター
TEL:06-6944-1188(平日10~17時半)

 
CD information
テレマン:無伴奏フルートによる十二の幻想
テレマン:無伴奏フルートによる十二の幻想

テレマン:無伴奏フルートによる十二の幻想
【LPDCD104】
[価格]¥2,800(税別)

 
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