フルート記事
THE FLUTE vol.175

作品の世界が見えてくるような演奏を求めて 上野由恵

アメリカとフランスで1年ずつの生活を経て完全帰国し、幅広い演奏活動を繰り広げる上野由恵さん。数々のコンクールで優勝を手にしていた時代の印象が強いが、現在は自身がコンクールの審査員を務める立場にもなった。クールに卒なくいろいろなことをこなしていくタイプに見えて、実は“回り道をしてきたタイプ”だという。「日本を代表する若手アンサンブル」と評される東京六人組のこと、12年間続けている恒例のコンサート……少し意外な素顔も垣間見えたインタビューとなった。 
写真:森泉 匡、小菅美穂子

気づきと発見の日々

上野さんは2016年にアメリカ、2017年にはパリを拠点にして活動されていました。このタイミングで、海外で活動しようと思った経緯は何だったのですか?
上野
大学を卒業してからずっと演奏活動をしてきて、その中で海外に行ってもっと学びたいとか、もっといろいろな場で演奏の経験を積みたいという気持ちが年々高まってきていたんです。そんな時に、ずっと申請していたアメリカで働けるビザが取れたんですよね。ワシントンにある財団から演奏会をマネジメントしていただけることになり、これはチャンスだと思ってアメリカに渡りました。ニューヨークとかワシントンとか、いろんな場所で演奏させてもらいました。
 
アメリカのお客さんて、どんな感じですか?
上野
客席からものすごいパワーを感じましたね。「楽しもう」という気持ちがみなぎっていて。演奏が良かった時の反応たるや、本当に凄いんです。日本では演奏する側にも聴く側にも緊張感があって、それが自然とコンサートの雰囲気を作っているようなところがあります。アメリカでは少し違って、お互いに積極的に楽しい空気感を作り上げていこうという感じがありました。また、日本の現代作品に対する反響が大きかったのも嬉しかったです。禅や和食など、日本の文化は今や世界中で人気がありますが、音楽から日本の精神を感じていただくことができた時も、ダイレクトに「感動した!」と口に出してくださる。その体験は彼の地でなければできないものだったと思います。
日本文化の中にいる日本人はそれを軽視しがちなんですけれど、海外で活動してみて、その独自性と価値をあらためて感じました。それを胸を張って発信していきたいと思うきっかけになりましたね。

次のページの項目
・バラバラの強みと面白さ
・“上野で育った上野”の 音楽日誌
・自分が通ってきた道 だから…

Profile
上野由恵
Yoshie Ueno
東京藝術大学をアカンサス音楽賞を得て首席卒業。同大学大学院修士課程修了。第76回日本音楽コンクール第1位、岩谷賞(聴衆賞)、加藤賞、吉田賞、E・ナカミチ賞。第2回東京音楽コンクール第1位。第15回日本木管コンクール第1位、コスモス賞(聴衆賞)、兵庫県知事賞、朝日新聞社賞。第1回北京ニコレ国際フルートコンクールセミファイナリスト。2005年と2016年には皇居内にて御前演奏の栄に浴す。2008年には、首相官邸での日中首脳会談晩餐会にて演奏。各地での演奏活動の他、「NHK名曲アルバム」、「NHK-FM名曲リサイタル」、「N響広場」、「気ままにクラシック」等、多数のラジオやテレビ番組に出演。2011年オクタヴィア・レコードよりデビューCDを2枚同時リリース。これまでに計10枚のCDをリリースし、『レコード芸術』特選盤、朝日新聞特選盤等に選ばれる。2016年はアメリカを拠点として、ワシントンでのソロリサイタルやカーネギーホールでのソロ演奏など、各都市で公演を重ねる。2017年秋よりパリに拠点を移し、フランス及びヨーロッパ各国で活動。2018年夏に完全帰国。​​2018年S&Rワシントン賞を受賞。
公式WEBサイトhttps://www.yoshieueno.com
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