映画 劇場と配信の時代
ジョン・ウィリアムズの足跡を辿るオリジナルドキュメンタリー、グラミー賞のミュージックフィルム賞を受賞した「ジョン・ウィリアムズ/伝説の映画音楽」が今年11月から配信される(ディズニープラス)。
これを楽しみにしている人も少なくないだろう。
ジョン・ウィリアムズの曲は、クラシック奏者なら演奏経験も多いジャンル。
「E.T.」「未知との遭遇」「スターウォーズ」「ジュラシックパーク」「インディ・ジョーンズ」など140作以上の大作を手がけ、特にスピルバーグ監督とともに多大な影響を与えてきた。
クラシックの音楽家が、映画音楽で活躍することには抵抗がある時代もあったようだが、ウィリアムズはナイトクラブのジャズピアニスト出身。いま90代の現役で、アカデミー賞受賞は5回。
エリザベス女王2世から、映画音楽への貢献で名誉騎士号を授与されたのは5年ほど前。
独特のわかりやすいサウンドが、遊び心をふくらませ、映像に息をふきかけた。
映画音楽といえば、ジョン・ウィリアムズと答える世代の映画ファンも多いだろう。
スピルバーグ氏と木村氏。当時の新聞にも掲載された一枚
私が本格的に映画の仕事にかかわろうと決意したのも、スピルバーグ監督作「E.T.」がフランス、カンヌ映画祭のオープニングで上映された年、1982年だった。
余談だが、初の映画祭出席、自費での海外取材だったため、当時は撮影カメラ、録音機、ノートパソコンの3種の神器を持って行った。スマホ時代の今なら、どんなに便利だったろうかと思うと、早く生まれすぎたことが、ひたすら悔しい。
フリーランスの自主取材は、まさに今どきのユーチューバー。
それでもしっかりと記者用の取材バッジをメディアとして用意していないと、どこにも泊まれないし、映画も見れない。
夜の特別試写会用にはドレスコードや同伴するパートナーまで連れそうべきというルールまである。
ジャーナリストの扱いにもランクがあり、それは取材者のプライドよりもネタに差がつくポイントだ。
手に入れたバッジのステイタスにより、そこに入れる、入れないの場所が決められる。
映画を取材し、マスメディアに貢献したいという私のために、老舗の映画配給会社の大物が何かと手配してくださる。
何より映画は1日3~5本見ないといけないし、背景のネタも自分次第。
かつて、テレビの報道番組を局アナとして担当していた時のスタッフの多さと比べて、評論家=ものかきの準備は、途方もなくローコスパ。しかし、自分の視点でのみ伝えたいことを決める面白さは、何にも代えがたい。
それにしても、海外の映画祭は小難しい欧州の文化的な映画がコンペティションに重々しく並ぶ。
興行成績をものともしない欧州映画にキャッチーなサムネなど、どこにもない。
スクリーンに英語字幕はあっても、たいていはフランス語で、芸術映画といわれる難解な作品が多く、そのほかの欧州言語作品もある。
芸術映画より社会派のほうがまだわかりやすく、アクション系娯楽映画はまずない。
カンヌやベネチアはそういうものだからと全体のカタログを見てため息をついていると、オープニング招待作に、アメリカの若手SFホラーの旗手としてスティーブン・スピルバーグ監督の「E.T.」が華々しく上映された。
少年が自転車で舞い上がるシーンは忘れがたく、アメリカンな若者映画の勢いは、そのころの自分の若さもあって、衝撃を受けた。
そう思っていると、なんとカンヌの砂浜を歩くスピルバーグ本人がひとりでぼんやり歩いている。
誰かにシャッターを押してもらった2ショットの写真が、帰国後に大手新聞の全国版を飾った。
海外の映画祭では、スター俳優がスタッフも連れず、ぶらぶら歩きも珍しくない。
いまなら、スマホの自撮り、配信など……ファンからも狙われると、逆に俳優にとってはリスクが大きいかもしれないと思う。
写真とはうらはらに、このときの受賞作はトルコ映画「YOL路」で、デモの様子をからめた映画評を書いた。
とにもかくにも、私が映画の世界に強く引き込まれたタイミングと同時に、大先輩の記者や評論家たちは、まったく逆でアメリカ映画「E.T.」の登場により、ついに映画との距離を置く時代に来たと“世代間ギャップ”が叫ばれた。
スピルバーグの映画とは、常識を大きく覆し、新しい世界観が誕生したと同時に、古き良き時代のものを同時に奪ったといえるかもしれない。
スピルバーグはその後、ユダヤ迫害の歴史を描いた「シンドラーのリスト」でもう、映画人生の目的をほぼ果たし終えたのだろうと私は判断したが、その後も才能は枯れることなく、娯楽大作シリーズと同時に「アミスタッド」「ミュンヘン」「太陽の帝国」など社会派テイストの作品も次々成功させた。
昨今は、「ウエスト・サイド・ストーリー」で音楽的センスに古臭さを感じたが、これはfor Dadとあったように自分の父親に向けた時代感を意識したからだろう。
翌年の「フェイブルマンズ」は、自身の母親との関係を吐露し、どこまでも私的な内容で、終活に向けてのような作品作り。
そして今年公開となった「ディスクロージャー・デイズ」は、スピルバーグ本人の原案による社会派SFの総括か。
舞台は第三次世界大戦を前にした現代。サイバーセキュリティ専門家が政府の秘密組織から、人類と異星人との接触を記録した証拠ファイルを盗み出すところから始まる。
一方、テレビ気象予報士が、野鳥とのテレパシーのような、ありえない言葉を突然話すかのような出来事が起こる。
二人は、それぞれ政府の秘密組織に狙われ、消されそうになっていくのだが……。
ディスクロージャー・デイとは、情報開示の日。
やがて、気象予報士は何を開示するのか?政府の秘密とはいったい?
音楽は、ジョン・ウィリアムズ。
巨匠スピルバーグが、子ども心を失わず、宇宙人との関わりにこだわる原点が見える。
賛否両論の評価で話題の最新作は、スピルバーグ世代か否かにより、見方は異なるだろう。
今後スピルバーグ監督が配信映画製作にも関わるのかどうかわからないが、映画の多様化で、劇場公開も難しいとき、配信システムのある現代は、本当にありがたいと思う。
アル・パチーノやデ・ニーロも配信映画に抵抗しながらも、今はプラスのメディアとして受け入れている。
ユーチューブもネトフリもプライムも、多くの配信チャンネルは字幕のセレクションが簡単にできて、朝からさまざまな国の言語が飛び交う。
こんな便利な時代に、何を得て、何を失うのだろうか。
1982年、カンヌ映画祭でのスピルバーグ氏
カンヌ映画祭にて。手前が木村奈保子氏
カンヌ映画祭が開催されたパレ・デ・フェスティバル(Palais des Festivals)。ここで開催されたのは1982年だった。
MOVIE INFORMATION
「ジョン・ウィリアムズ 伝説の映画音楽」
【2024年製作/106分/アメリカ】
原題:Music by John Williams
配信:Disney+
配信開始日:2024年11月1日
[監督]ロラン・ブーズロー
[出演]ジョン・ウィリアムズ

木村奈保子
作家、映画評論家、映像制作者、映画音楽コンサートプロデューサー
NAHOKバッグデザイナー、ヒーローインターナショナル株式会社代表取締役
www.kimuranahoko.com
N A H O K Information
木村奈保子さんがプロデュースする“NAHOK”は、欧州製特殊ファブリックによる「防水」「温度調整」「衝撃吸収」機能の楽器ケースで、世界第一線の演奏家から愛好家まで広く愛用されています。
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