第1回|JazzHutイワシの目(和歌山県)
THE FLUTE ONLINE連載「酒井麻生代のJAZZ店(みせ)探訪記」はジャズフルーティストの酒井麻生代さんが各地のジャズ喫茶やライブハウスなどを訪ね歩きます。第1回目は彼女の故郷、和歌山県串本町。
「ジャズフルート」について、みなさんはどのようなイメージを持たれているだろうか。
私は、初めてジャズフルートを聴いた時、正直、もう二度と聴きたくないと思ったほど嫌だった記憶がある。
美しくない音色、息の音や声が混じり、
雑なタンギングや音の切り方、これはただ下手なんじゃないか?と思ったりしていた。(暴言失礼します 笑)
だけど、人間というのはここまで変わるものなのか。今では、ジャズフルート命! この愛は止まらない。
そう。誠に勝手ながら、このコーナーでは、みなさんをジャズの世界へ巻き込みたいのだ(笑)。
海、川、山、自然豊かなこの地に、かなり個性的なマスターが営む「イワシの目」というジャズ店がある。
マスターの桝本さんは、大学で上京し、今から約40年前に荻窪でお店をオープン。平日はジャズ喫茶、週末は錚々たるメンバーがジャズライブをしていたが、
家業を継ぐために故郷へ戻り、
2年前、念願の再オープンをされたのがこちらのお店だ。
道路沿いに、ドラムセットが飛び出している。
いきなりファンキーすぎるセッティングと、派手めなマスターの姿に目を奪われる。
「マスター、『イワシの目』という名前の由来はなんですか?」
「酔っ払ったら、そういう目になるやろ~」
お店に入ると、約5000枚のジャズのレコードが並ぶ。
さて、「ジャズ店 探訪記」第1回目に、
なぜ本州最南端の場所なのか。
私事ながら、古座は私が生まれた地。
ちょうどこのコラムのお話をいただいたタイミングが、帰省の時期だったというご縁だ。
美味しいコーヒーをいただきながら、マスターと話しが弾む。
なんと、お代わり自由で300円。これは永遠に居座りたい気分になる。
「マスター、オススメのジャズフルートのレコードお願いできますか?」
「サックスの持ち替えやけどな。これ好きなんや」
(おぉ~。なんとも味のあるフルートで良いなぁ~)
「ボビージャスパーは最高やな」
(うわぁ、マスターと好み丸かぶりやわ……笑)
「サヒブ シハブ、これもええなぁ~」
(私の知らないレコードだ。まだまだ勉強不足だなぁ~なんて思いながら聴かせてもらった。これは超オススメ!)
これだけの数のレコードから、この後もどんどん紹介してくださった。ジャズフルートのレコードって、意外とたくさんあるんですよね~。
「イワシの目」は、昔ながらのジャズ喫茶の雰囲気とライブハウスの雰囲気、どちらも味わえる不思議な空間だ。
普段は、地元の方々が集まってジャムセッションをしたり、東京など遠方からのミュージシャンもライブで訪れる。
ありがたいことに、マスターは私のCDをすでにお持ちだったので、
ちゃっかりサインをさせていただいた
さて、おいとまする前に、
マスターにずばりジャズの魅力とは何かを聞いてみよう!
すると、
「ジャズはな、飲まずにいられんのや」
さすが、名言が飛び出した。
「ジャズはなんといってもアドリブが重要やな。自分の歌が歌えるかどうか、説得力があること、個性が大切やな」
プレイヤーの私にとっても、思わず大きく頷く言葉。
「心地良いSwingはな、心が嬉しくなるんや。
特にバップ、ブルースはたまらんのや。もうな、黒人になりたくて、毎日海で身体を焼いてるんや」
マスターのトークはユーモアに富んでいて、キャッチボールが楽しい。
会話もジャズしてるんだな。
さて、お会計をしよう。
すると、ぶらさがった籠からお釣りをいただくという、
またまたシュールな光景が見られた。
店内には、マスターの遊び心満載な手作りの作品が、いたるところにある。
ドアの取っ手や荷物掛けなど、どれもクリエイティブで面白い。
ジャズという音楽を、難しい、よくわからないと感じる人が多くいるようだ。かつては、私もそうだった。
マスターは、
「とにかく、ジャズをたくさんの人に聴いてもらえたら嬉しいんや。そして、若い人たちにも伝えていきたいんや」
と熱く語る。
音楽愛に溢れ、すべてのお客さんを温かく迎えてくれるこういうジャズ店を、
これからどんどん紹介していけたらと思う。
心が嬉しくなる、そんなジャズの輪が広がりますように。
プロフィール
酒井麻生代 Makiyo Sakai
大津市出身。11歳よりフルートを始め、山腰直弘氏、中務晴之氏に師事。
「全日本学生音楽コンクール」「びわ湖国際フルートコンクール」などで受賞。
大阪教育大学 教育学部教養学科芸術専攻音楽コース フルート科卒業。
その後、ジャズフルート奏者として活動の場を広げ、2013年に拠点を東京に移し、岡淳氏、グスターボ・アナクレート氏に師事。
2016年、ポニーキャニオンよりメジャーデビュー。クラシック曲をジャズにアレンジしたアルバム「Silver Painting」と「展覧会の絵」をリリース。
現在、都内を中心に、年間約240本のライブの他、テレビ出演やラジオ番組出演、その他、様々なアーティストのレコーディングに多数参加している。
酒井麻生代