サックス記事

かわさきジャズ2021

Event Report 2021年10月30日(土)〜11月13日(土)

ミューザ川崎をはじめとするコンサートホールや数々のライブハウスなどイベント施設が立地し、複数の音楽大学も拠点とする「音楽のまち」神奈川県川崎市。そこで毎秋恒例となっているのが、街全体を大きなステージと捉えて展開する「かわさきジャズ」だ。2021年もコロナウイルス感染対策を万全にとった上で無事に開催され、期間中に各イベント全体で約14,000人を集客した。ここでは多くのサックス奏者たちも登場したステージの模様をピックアップしてレポートしよう。
(文:櫻井隆章、熊谷美広/協力:かわさきジャズ2021実行委員会 事務局)

しんゆりJAZZストリーム DAY1

[日時]2021年10月30日(土)
[会場]新百合トウェンティワンホール
[出演]岡崎ブラザーズ:岡崎正典(Ts)、岡崎好朗(Tp)、田中菜緒子(Pf)、伊藤勇司(Bass)、井川晃(Ds)
[曲目]岡崎ブラザーズ:Hank’s Mood、Pier 54、C.G.E、Titania、Alstromeria/Encore:C Jam Blues

兄がメロディを担当し弟はバンド全体にアクセントを与えた岡崎ブラザーズ

 
岡崎ブラザーズ
 
岡崎正典

川崎市のアチコチで開かれるこのジャズ・フェス。この日の出演者は4組で、中にサックス奏者は独りだけ。オープニングの岡崎好朗・岡崎正典ブラザーズの岡崎正典さんだけなのだった。この兄弟双頭バンド、別名スキンヘッド・ブラザーズは、兄の好朗さん(Tp)がMCで「今日は僕が作った曲ばかりを演ります」とのことで、曲のメロディはほぼすべてTpが担い、正典さんのテナーはそれにハーモニーを付ける役目。でもソロはしっかりと取り、正統派のソロを取る兄とは少々趣きが異なって、意識的にスケールを外した音を交えてみたりと、かなり意欲的。出音も良く、バンド全体にアクセントを与えようという意識も感じられ、実に良い感じなのだった。言い方を変えれば、自由奔放とも言えるプレイを聴かせたのである。そして片倉真由子トリオ、ブラジル音楽のBanda Feliz、山本剛トリオと来てお終いかと思ったら、ラストに出演者ほぼ全員での大セッション。『C Jam Blues』1曲を、全員でソロ回し。これが実に楽しかったのだ。ジャンルも年齢もバラバラな出演者たち、若い世代が先輩たちに「お先にどうぞ」とか、逆にべテランたちが若手に「次はオマエな」などといった、ステージ上での目と目での会話が交される光景が繰り広げられたのである。それも、お客さんの目の前で。これこそ真のジャズのジャム・セッション! という「場」を観られたのであった。終演後のお客さんたち誰もが笑顔となっていた。(櫻井隆章)

ジャム・セッションの様子
Photo by Tak Tokiwa
 

しんゆりJAZZストリーム DAY2

[日時]2021年10月31日(日)
[会場]新百合トウェンティワンホール
[出演]浜崎航with松本茜トリオ:浜崎航(Ts,Ss,Fl)、松本茜(Pf)、パット・グリン(Bass)、広瀬潤次(Ds)/平賀マリカwith”チーム ジョイア“:ハクエイ・キム(Pf)、太田剣(As,Ss、B.Cl)、会田桃子(Vn)/北村英治スーパーカルテット:北村英治(Cl)、高浜和英(Pf)、山口雄三(Bass)、八城邦義(Ds)
[曲目]浜崎航with松本茜トリオ:The Intimacy of the Blues、Night and Day、Contact、Les Parapluies de Cherbourg、 You Must Believe in Spring、Big Catch/Encore:All of Me

歌心溢れるテナーに繊細なフルートのソロも聴き応え充分でトリオとの息もピッタリ

川崎市が主催するジャズ・フェスティバル“かわさきジャズ”。10月31日には新百合トウェンティワンホールにて“しんゆりJAZZストリーム”と題されたコンサートが開催され、4つのグループが登場した。安ヵ川大樹(Bass)のトリオに続いて登場したのが、浜崎航 with 松本茜(Pf)トリオ。オリジナル曲やスタンダード曲をスウィンギーに聴かせ、浜崎航もテナーだけではなくソプラノやフルートもプレイし、その音楽性の幅広さをしっかりと表現していた。歌心溢れるテナー・ソロはさすがだし、繊細なフルート・ソロも聴き応えがある。松本茜トリオとの息もピッタリで、ワン・ホーン・クァルテットの魅力を存分に伝えてくれていた。続く平賀マリカ(Vo)率いる“チーム・ジョイア”には、太田剣が参加。ヴォーカル、ピアノ、サックス、ヴァイオリンという不思議な編成だったが、ハクエイ・キム(Pf)のユニークなアレンジによって独特の世界観を作り出していた。太田剣もアルト、ソプラノに加えてバス・クラリネットもプレイし、そんなサウンドに見事にフィットしていた。ラストに登場したのは北村英治スーパー・カルテット。御年92歳とは思えないハツラツとしたクラリネット・ソロが圧巻だった。そして最後は出演者たちによるセッションで『All Of Me』が演奏された。北村英治と浜崎航、太田剣との共演というとてもレアな顔合わせを楽しむこともできた、充実感いっぱいのコンサートだった。(熊谷美広)

 
浜崎航
 
太田剣
ジャム・セッションの様子
 
Photo by Tak Tokiwa
 

Project M~名曲をジャズで

[日時]2021年11月9日(火)
[会場]ラゾーナ川崎プラザソル
[出演]Project M:米澤美玖(Sax)、友田ジュン(Pf)、カワサキ亮(Bass)、竹内大貴(Ds)
[曲目]Superstition、Thriller、喝采、みずいろの雨、CHA-LA-HEAD-CHA-LA、残酷な天使のテーゼ、Scarborough Fair、Melody、車屋さん、はじめてのチュウ、接吻/Encore:マジンガーZ

ジャズの様々なタイプの曲調にアレンジして造詣の深さや実力の高さが光る

サックスにテナーの米澤美玖を擁するProject M。全員が20代の四人組で、サブ・タイトルにあるように「どんな曲でもジャズになる」を実証しようというグループだ。グループ名の「M」とは「マスターピース」のことだそうだが、美玖さんの「M」でもあるのだろう。もうアルバムを3枚出していて、意外な曲までジャズにアレンジして聴かせてくれる。米澤嬢、フリル満点のピンクのドレスで艶やかに登場。いざプレイとなり、オープニングのスティーヴィー・ワンダー『迷信』、続くマイケル・ジャクソン『スリラー』と快調に飛ばす。判りやすかったのが八神純子『みずいろの雨』で、シッカリとジャズになっていた。メロディは綺麗に残しながらも曲中は見事にジャズのアドリブが堪能できるのだ。全曲がそんな感じである。それも、曲毎にジャズの様々なタイプの曲調にしてあり、メンバー全員の実力の高さ、ジャズの造詣の深さを感じさせた。特にハイライトとなったのが、美空ひばりの『車屋さん』だっただろう。この曲もビートはジャズなのだが、各人のソロが「和」のテイストを感じさせるプレイを聴かせたのである。特に米澤さんのテナーは、この曲でだけのサウンドを響かせ、テクニックの幅広さを痛感させた。誰もが相当なテクニックの持ち主なのだが、特にドラムの竹内大貴のタイミングの取り方、フィル・インのヴァラエティの豊富さは特筆モノ。また、ジャズ初心者にも打って付けのグループであるようにも感じた。ライブに足を運びたくなる魅力的なバンドだ。(櫻井隆章)

 
米澤美玖
 
Photo by Tak Tokiwa
 

しんゆりジャズスクエア vol.51
〜あの人気だったムード・サックスのサムテイラーが蘇る!

[日時]2021年11月12日(金)
[会場]川崎市アートセンター アルテリオ小劇場
[出演]右近茂(Ts)、廣瀬みちる(Pf)、田辺充邦(Guit)、佐瀬正(Bass)、吉岡大輔(Ds)
[曲目]ドント・ゲット・アラウンド・マッチ・エニモア、モア、スターダスト、ダニー・ボーイ、ロシアより愛をこめて、ブルーレディに赤いバラ、夜霧のしのび逢い、夜霧よ今夜も有難う、ハーレムノクターン、夕陽に赤い帆/Encore:A列車でいこう

ムード・テナーの王様と偉大なジャズ・テナーという2つの魅力をアピール

11月12日に川崎市アートセンター アルテリオ小劇場で、かわさきジャズの一環として“しんゆりジャズ・スクエア vol.51”というコンサートが開催された。この日のテーマは「あの人気だったムード・サックスのサム・テイラーが蘇る!」。メンバーは右近茂(Ts)、廣瀬みちる(Pf)、田辺充邦(Guit)、佐瀬正(Bass)、吉岡大輔(Ds)。サム・テイラーと言えば“ムード・テナーの王様”といったイメージがあるが、本国アメリカでは多くのミュージシャンたちからリスペクトされていた偉大なジャズ・テナーサックス奏者でもあり、右近茂もそんなサム・テイラーに魅了された1人なので、このコンサートではその両面の魅力を紹介するような内容になっていた。『スターダスト』『ダニー・ボーイ』『ブルーレディに赤いバラ』といったジャズ・ナンバーではスウィンギーでスケールの大きなソロを聴かせ、『夜霧のしのび逢い』『夜霧よ今夜も有難う』『ハーレム・ノクターン』といったナンバーでは、サブ・トーンを巧みに使ってムード・テナーの神髄を聴かせてくれた。そのむせび泣くような歌い回しは、できそうでなかなかできるものではない。サム・テイラーという奏者のユニークさと表現力の豊かさ、そしてそれを再現できる右近茂のサックス・プレイヤーとしての実力の高さを堪能することができた。現代ではサム・テイラーは“過去の人”のように思われがちだが、その素晴らしさも再確認できたコンサートだった。(熊谷美広)

Photo by Tak Tokiwa
 

KW50 渡辺香津美「KYLYNが来る」

[日時]2021年11月13日(土)
[会場]ミューザ川崎シンフォニーホール
[出演]渡辺香津美(Guit)、本多俊之(Sax)、井上陽介(Bass)、ヤヒロトモヒロ(Perc)、村田陽一(Tb)、井上銘(Guit)/ゲスト:大西順子(Pf)、Rei(Guit)
[曲目]Kaleidoscope~Infinite、Lonesome Cat、Milky Shade、Somebody Samebody、Ripple Ring、Black Stone、199X、Innerwind、Straight No Chaser、Unicorn、Azimuth、Milestones、Manhattan Flu Dance/Encore:Walk Tall

「KYLYN」オリジナル・メンバーの本多俊之も参加した渡辺香津美50周年記念公演

日本のジャズ史上に燦然と輝く金字塔である「KYLYN」。日本を代表するギタリストである渡辺香津美がYMO結成前夜の坂本龍一たちと組んだ、1970年代最後期の伝説のバンドだ。当時黎明期であったフュージョン・ジャズに真正面から取り組み、1枚の名アルバムを制作しライブ名盤も残した。とは言え、たった4か月で消滅。誰もが忙し過ぎたのだった。そしてデビュー50周年を迎えた渡辺が、2021年3月に他界したドラマー、村上“ポンタ”秀一に捧げるライブとして、この「かわさきジャズ」の場を選んだのであった。なので、渡辺のこのライブに懸ける思いは殊のほか篤かったのだ。これ以上はないというようなメンバーを選び、自身も渾身のプレイ。ホーンズは、村田陽一(Tb)と、本多俊之(Sax)の二人だ。この本多こそ、その42年前の「KYLYN」に参加し、今回のライブにも参集した唯一のメンバーなのである。いわば「時代の生き証人」。アルトとカーブド・ソプラノを曲によって使い分け、見事なソロを聴かせた。また、ステージの上で、一人だけ身体を揺すりながら楽しんでいたようにも見えたのである。往時を体験しているからこその余裕と、渡辺とのプレイを心から楽しんでいたのだろう。休憩を挟み、計2時間半を超える大熱演。終演後の渡辺の「やり切った!」という表情が実に印象的であった。このライブもまた、「歴史に残る一夜」と呼ばれることになるのであろうな。(櫻井隆章)

渡辺香津美
本多俊之
 
写真:青柳聡