THE SAX vol.112 Special Contents-1

しっとり系&盛り上げ系 オススメのアンコールピース

3年前から続くコロナ禍もやっと少しずつ落ち着き始めたなか春の訪れも間近に控え、これから演奏会・リサイタル・コンサートなどを企画していこうという人も多いのではないだろうか。その際に参考にしてほしいのが、本特集。プログラムの選曲で最後の決め手となるアンコールピースにスポットを当てた企画だ。オススメのアンコールピースをシチュエーション別に紹介していこう。
(文:中野 明)

コンサートを聴くと、最後に演奏されたアンコールがなぜか、肩の力の抜けたとてもいい演奏だったり、一番印象に残ったり、ということがよく起きる。アンコールとはもともと、プログラム中で取り上げられた印象的な曲や楽章などを、もう一度(encore)聴きたい、という聴衆の欲求から由来する言葉だったが、時代が下ると演奏者のほうでも、「アンコール」用に独立した小品を準備することが多くなった。
コンサートの本プロが終了した直後というのは、演奏者も聴き手も共に、長い緊張から解き放たれた一種独特の気分の中にいるので、そこでふと演奏される新しい曲というのは容易に、冒頭に書いたような効果を表すことになる。そして、そのような場面にふさわしい、美しくも印象的な小品が「アンコールピース」という名前で呼ばれて一つのジャンルを形づくるようになった。

「しっとり」と「盛り上げ」

逆説的だが「アンコール」というのは、何をやってもいいのである。さすがに10分も20分もかかる曲はオカシイだろうが、そうでなければ何でも。終演後のお客さんに「こんな気分を味わってもらいたい」、ということを想定し、それに似合った曲を選べばよいと思う。
多くの場合アンコールは、難しく長いプログラムを終えてしっとりとした余韻を感じたい、という場面が多いだろう。また逆に、さらに盛り上げて笑い止まぬフィナーレのうちに終わりたい、という意図もあるかもしれない。そこでその2つの方向、「しっとり」と「盛り上げ」に、曲のジャンルや編成、難易度を組み合わせて、筆者の経験(聴くと演奏と両方)を交えて以下に挙げてみる。

 

 クラシック小品

「アンコールピース」という言葉の元の意味は、クラシックの小品のことだ(サックスで言うなら編曲ものということになる)。ほぼすべてが「しっとり」系。まずはバッハの『G線上のアリア』。ソロ、カルテットとも定番。バッハはヴァイオリンのための『無伴奏パルティータ』や『無伴奏チェロ組曲』の楽章がそれぞれの楽器のアンコールピースの定番だが、サックスで吹こうとなると少々ハードルが高いかもしれない。
Leducから出ているマルセル・ミュール編曲のクラシック小品集のナンバー、ヘンデル『オンブラ・マイ・フ』やシューベルト『セレナード』、マルティーニ『愛の喜び』といった曲はひと頃の定番だったが、最近は少々忘れられている感もあるのは残念(今号の付属音源のグルック『精霊の踊り』もこれ)。このあたりの曲目はもう一度見直されてほしいものだ。
他にも、サックスと親和性の高い、ドビュッシー、フォーレ、ラヴェルといったフランス近代物のアレンジも、ソロ、カルテット共に多士済々。ただし譜面ヅラ以上に演奏にはセンスが要求される。
また、ポンセ『エストレリータ』をはじめ、パラディス『シチリアーノ』、シモネッティ『マドリガル』といったロマン派のヴァイオリン小品には、びっくりするほど良いものがあるのでこの辺ももう少し知られてほしい。

ヨハン・セバスティアン・バッハ
マルセル・ミュール
クロード・ドビュッシー
 
 
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