ハイノート攻略法を改めて考える
本誌vol.06で企画した特集「ファーガソンに学ぶハイノート攻略法」には大きな反響をいただいた。やはり、トランペット吹きにとってハイノートが永遠の憧れであるという証だろう。そこで、本号では再び「ハイノート」について考えてみたい。今回はクラシックとジャズという二つの観点から、その大きな命題についてトップ奏者4名の意見を伺ってみた。
クラシック編
Part 1. 関山幸弘が考えるハイノート攻略法
自分の出せる音の三度下が「使える」最高音なんだという意識で音域を広げること

関山幸弘、60ン歳。還暦を迎えてNHK交響楽団首席奏者の座から勇退し、それ以来、フリーのトランペット奏者として大活躍。SNSを通じての発信も活発で、そのアツい言葉は、プロとかアマとか老若男女だとかもろもろの壁を越え、数多くのトランペット奏者にパワーを与えてくれる。その言葉のいくつかを特別に大公開!
Profile 関山幸弘 せきやま ゆきひろ
青森県生まれ。武蔵野音楽大学卒業。1979年、モーリス・アンドレ国際音楽コンクール、アンサンブル部門で第3位入賞。1980年、第49回日本音楽コンクール管楽器部門第1位入賞。トランペットを中山冨士雄、トーマス・スティーブンス、ヴィンセント・チコヴィッツの各氏に師事。2003年度、NHK大河ドラマ『武蔵 MUSASHI』オープニングテーマのトランペット・ソロを担当。元NHK交響楽団首席トランペット奏者。武蔵野音楽大学、尚美学園大学非常勤講師。
練習せずに高い音が簡単に出せるなんてことはありえない
Facebookで気が向いているときにあげている「良いっすか」シリーズ(編集部注※「関山語録」というタイトルの場合もあり)は、俺の本音です。トランペット奏者って、ともかく目立つじゃないですか。他の楽器なら多少音を外したところで誰も気が付かないのに、我々はちょっとでもポロっとやると「あ!外した!!!」って指さされちゃう(笑)。でもまあ、人間だれしもミスはありうる。俺もモーリス・アンドレでもミスするのを知って、ほっとしたことがある。アンドレも、人間だったんだってね(笑)。
でも正直、プロにはミスは許されない……というのも事実。アマチュアだって、好き好んで音を外す人はいないよね。それでもミスは起きる。思わぬところで音を外したりすることは俺にもあったよ。でもそれは、数多く練習することで、だんだん外れなくなったんだ。「マーラーの5番」とか「展覧会の絵」とか、難しい曲はいろいろあるけれど、大きなミスや小さなミスなど、いろいろたくさんの経験を重ねるうちに、いつのまにかミスがなくなる。正直に言えば、アマチュアの皆さんの場合はプロに比べて圧倒的に練習量が足りない。もちろん、仕事や学業などがあるからプロほどの時間を割けないのは当たり前だけど、まあ聞いてください。
例えば高い音が出ない、高い音が苦手、という悩みは本当に多くのアマチュアから聞くけれど、そこにはコツなんてものはないよね。練習せずに高い音やデカい音が簡単に出せる、なんてことはありえない。若い頃アメリカ留学で学んだのは、自分の出せる音の三度下が「使える」最高音なんだという意識で音域を広げることでした。アメリカ人って全部損得ずくなところがあるから人間的にはどうしても好きになれなかったんだけど(笑)考え方は合理的でね、そこはすごく勉強になりました。ぎりぎりがんばって上のド(譜例1)が出せます……というのでは、その下のラまでしか実用音域ではない、ということになる。実際その通りだと思う。速いパッセージにしても、指定されたテンポの二割増しまで速いテンポで練習しておくと、本番のテンポであわてることがなくなる。大リーグボール養成ギブスみたいなものだよね(笑)。

練習では目いっぱいクタクタにバテるまで吹く
一日の吹き初めにたまたま一回高い音が鳴ったからといって、その音域まで制覇した、と思うのは大間違いだし、意味がない。唇がフレッシュなうちに鳴っているだけだから、3分もすればその状態は消えてなくなる。だから、練習では目いっぱい、クタクタにバテるまで吹くんです。バテない方法を探す前に、まずクッタクッタにバテた状態を知らなければならない。N響の松崎さん(編集部注※ホルン奏者、松崎裕氏。1950年生まれ。1980-2010にNHK交響楽団首席ホルン奏者として活躍。関山氏在籍当時は金管の主任を務めていた。)は、ウォームアップで「半バテ」の状態を作る、とよくおっしゃっていました。そうすれば、それ以上バテなくなる、という理論。俺の場合は、吹いて吹いて吹きまくってバテまくって、そこから先はもうバテないというところまで追い込んで本番を迎える、ということです。そういう極限状況のなかで、自分なりの新しい奏法を見つけることができる、と思っています。ともかく、徹底的に吹くことですよね。だってトランペットが好きなんだから仕方ない(笑)。
俺のレッスンは、ものもいわずお弟子さんと一緒にひたすら吹くだけなんです。ほとんど喋ったりしない。だから、レッスンが4人続くと、俺的には4時間ぶっ続けに吹くということになるわけで、実は一番自分のためになってたりね(笑)。仕事や学業で練習時間が取れない、というのはよくわかる。だけどね、おすすめなのはまず、一日一回楽器ケースを開けてみる、ということ。開けてみると楽器が見えるでしょ。楽器が見えたら持ちたくなる。持ったら吹きたくなる。マウスピースを差し込んで、唇に当てる。息を吹き込む。で、そこから先は環境によっては音が出せない場合も多いだろうけど、それだけでも違うんだ。毎日楽器にともかく触れる、というのでも、毎日やっているうちに必ず変わってくる。楽器をすぐ触れる状態にしておく手もある。福原彰さん(編集部注※スタジオ・プレイヤーとして活躍。1929-1991)や日野さん(編集部注※日野皓正さん。1942-)に言われたのは、常に脇に楽器を置いといて、触ること。日野さんは、楽器をぶった切ったピストンだけのをすぐそばに置いといて、練習していたんだって。あの人も、ともかく暇さえあれば吹いているみたい。いまはプラスチック製のがあるじゃない? VALVINO BUZZMUTEとかさ。
C管からピッコロのA管まで徐々に小さな楽器にしながらさらっていく

仕事が大変なのはわかるが、15分でもいいから口に当てる時間をつくれ、と、お弟子さんたちには常に言っているんです。どんなに忙しくたって、毎日必ずご飯を食べるしトイレにもいくでしょう? それと同じようにトランペットに接する。それができなくてハイトーンもクソもないよ(笑)。クラシックなんてハイD(コンサートキー)(譜例2)が使えれば大丈夫。『ブランデンブルク協奏曲第二番』は別物ね。ハイGまで軽く鳴らさなきゃいけないけれど、あれはオケの曲というより、独奏曲に近い。まあでもハイDを安定させるためにはハイFを出せなきゃならないわけだから、それより一音高いハイGまでさらっておけばまず問題ない。高い音域に対する苦手意識を除去したいなら、練習しておくにはいい素材ですね。ブランデンブルクの練習方法で、昔やってみたのは、最初普通のB♭管で記譜のまま、つまり本来の鳴らすべき音域より1オクターブ下の音域になるわけですが、それなら吹くのもそれほどむつかしくないわけで、つまりは通常のB♭管でまず完璧にマスターするんです。そこからその指使いのまま、C管からピッコロのA管まで徐々に小さな(短い)楽器にしながらさらっていく、というやり方があるんです。忍者がジャンプ力をつける練習みたいでしょう? かといって、これが特効薬だというわけじゃない。そもそもハイトーンにしろ超絶技巧にしろビッグサウンドにしろ、特効薬なんて、絶対にない! 楽して出す手なんて、存在しないんです。練習を重ねていくうちに楽になることはあるけど、楽して達成できることなんてひとつもないよ。それにだいたい「ハイトーン」「高い音」といっても、人によって違うしね。五線譜の一番上のソの音が「ハイトーン」だという人もいれば、そのオクターブ上や二オクターブ上のソが「ハイトーン」だという人もいる。それは練習量によって違いが出るわけだけど、その違いを無視して、練習が足りないのに入部してすぐに「ハイトーン」を出さなければならない状況に追い込まれるような環境は、よくないよね。コンクールに「勝つ」ために無理やり出さなければいけない状況がつくられている。コンクールの弊害だね。お弟子さんのひとりが吹奏楽団を主宰しているんだけど、そこはコンクールには出ないの。そこは楽しかったよ(笑)。コンクールがまずあって、この曲をやらないといい点数がとれない……みたいなしばりから解放されて、のびのびと音楽を楽しんでいる。またアメリカの話になってしまうけど、アメリカでは初心者のうちはもっと簡単な曲……つまり、今の全日本吹奏楽コンクールの課題曲みたいな曲じゃなくて、もっと簡単な曲を徹底して練習する。だから、向こうの中学生なんて、日本の今の中学生よりレベルは下なの。だけどそこからきちんと段階を踏んで練習を積んでいくと、大学生あたりになると日本よりはるかに高いレベルに到達する。そのあたりは指導者次第なんだろうけど、だいたい指導者といわれる人や作曲家、指揮者と呼ばれる人たちが全員が全員、何でも知っていると思ったら大間違いだよ(笑)。余談だけど、モーツァルトはトランペットが嫌いだったらしいね。お父さんのレオポルド、彼はトランペット協奏曲を遺してくれているけど、お父さんはそれじゃ大作曲家になれないと思って、小さいアマデウスをオケのラッパの隣に座らせていたっていう話がある。アマデウスも一曲だけトランペット協奏曲を書いたという記録はあるんだけど、楽譜が見つからないらしい。発見されたらぜひ吹いてみたいね。
>>次ページは神代修が考えるハイノート攻略法!













