ファーガソンのハイノートを新しい角度から探る
メイナード・ファーガソンお薦めアルバム紹介
文:堤 豊(メイナード・ファーガソン研究家)

堤 豊(つつみ ゆたか)
1965年岡山県生まれ。10歳でファーガソンの音楽に出会い、以来彼の音楽を追究する日々を送る。生前のファーガソンはもちろん、今でもMFバンド出身者との交流は広く深い。MF Tribute Bandのアドバイザーも務める。自身のサイト(www.bluebirdland.com)でMF情報発信中。
今回の特集は「ハイノート」だという。ハイノートといえば、多くのトランペット・プレイヤーが一度は憧れるテーマであり、このハイノートを語る際、必ず思い出されるのがメイナード・ファーガソンではないだろうか。読者の中にも、ファーガソンに憧れている方は多いに違いない。
今回、編集部から彼のお薦めアルバムを紹介してほしいというリクエストを受けたのだが、年代別やアレンジャー別、入門編としてお薦め、といった様々な切り口はあるものの、これまでとは別の角度から紹介したいと思う。
ファーガソンの歌心
メイナード・ファーガソンは、1950年代にスタン・ケントン楽団に在籍していた頃からその類い希なハイノート奏法で注目され、それは生涯彼を印象づけるスタイルとなった。彼の演奏が多くのファンのみならず、ミュージシャンからも愛された理由は何であったか。それは、けして奇天烈なものではなく、高音域でも常に安定した演奏であったこともあるが、コアなファンは彼の演奏には「歌心がある」、「ロマンスがある」と口を揃えて言う。
「歌心」への、一つの仮説
では、一体何が彼の「歌心」を支えているのだろうか。筆者はかねがね、この点に考えを巡らせてきたのだが、その過程で一つの仮説にたどり着いた。
メイナード・ファーガソンは、
●ヴァイオリニストに憧れていたのではないか?
●トランペットという楽器の可能性を常に最大限に引き出そうとしていたのではないか?
というものだ。
これがベースとなり、時に4オクターブもの音域をもつヴァイオリンや、まるでオペラ歌手を彷彿とさせる演奏を残したのではないだろうか(ちなみに、ファーガソンは4歳でピアノとヴァイオリンを習い始めた)。
このことを生前本人に直接尋ねることは叶わなかったが、私の最大の研究テーマとなった。本稿では、いくつかの演奏を紹介しながら、読者の皆さんとこの仮説について考察をめぐらせてみたい。
一つの事実
まず、ファーガソンとヴァイオリンとの関係を考察する上で欠かせない曲がある。『ザ・ホット・カナリア(The Hot Canary)』(1954 Capital)。スタン・ケントン楽団に在籍中にレコーディングされた曲だ。この曲はポール・ネロ(Paul Nero)(1917-1958)というハンブルク生まれのヴァイオリニストによるもので、ファーガソンの他、エラ・フィッツジェラルドもこの曲を歌い、レコーディングを残している。

「Band Ain't Draggin':His Orchestra and Octet 1950-1954」
ファーガソンの演奏は高音域も実に見事で、作品本来の持つ軽やかさ、小鳥の愛くるしさといったものがトランペットで表現されている。ちなみに、その後もポール・ネロとの親交は続き、『クール・カナリア・ブルース(Cool Canary Blues, Skylark)』という曲を残している。録音はポールを主体としたジャム・セッション形式で行われ、その名も「ジャム・セッション(Jam Session)」というアルバムに収録された。
仮説の考察
さて、さらにいくつかの演奏をピックアップしながら考察を進めてみよう。
1曲目は『パリアッチ(Pagliacci)』。レオン・カヴァルロによるオペラ「道化師」から取り上げられたのは、第1幕の『衣装をつけろ』。ファーガソンはこの曲を朗々と歌い上げる。ヴァイオリンが奏でるような冒頭のフレーズに始まり、中盤はオペラ歌手のような表現が続く。そして、後半はさらにボルテージを上げ、トランペットのハイノートが炸裂する。
収録アルバムの邦題は「クロスオーバー・ファーガスン」。ジャズからフュージョンへの流れが生まれつつある時代の作品だ。これを、音楽のジャンルも楽器も"クロスオーバー”させる”ファーガソン”と読み取るのはいささか深読み過ぎだろうか。

「プライマル・スクリーム(Primal Scream/クロスオーバー・ファーガスン)」
次は『シェヘラザード(Scheherazade)』。原曲はリムスキー・コルサコフ作曲の交響組曲で、多くの有名ヴァイオリニストによる演奏が残されている。
『パリアッチ』と比べると全体の流れは大人しいのだが、冒頭とエンディングに注目してほしい。ファーガソンは原曲の美しさを残しつつも、新しく現代的なサウンドを生み出すことに成功した。まさにクロスオーバー界にとっても“新たな収穫”を与えた作品といえる。

「ニュー・ビンテージ(New Vintage/スター・ウォーズのテーマ)」
次は『オレ(Ole)』。アーリー・メイナード期の作品で、全編が一つの映画のような展開を聴かせる。
注目すべきは、中盤のカデンツァから。およそ1分にもおよぶカデンツァでは、まさにトランペットでヴァイオリンが奏でるような演奏を見せ、その後はバンドのベース・パターンに乗り、トランペットという楽器の特徴を最大限に引き出すような、縦横無尽なソロを聴かせる。バンドもそれにつられて熱くなってゆくが、最後はもう一度ファーガソンのカデンツァで曲は締めくくられる。聴き終わった後、なぜだか高揚感を覚えるのは闘牛がテーマだからだけではないだろう。
ちなみに、この曲が収録された「トランペット・ラプソディー」は、ロルフ・ハンス・ミュラー楽団と共にレコーディングされた。

「トランペット・ラプソディー(Trumpet Rhapsody/Maynard Ferguson 1969)」
最後は『タイタンズ(TITANS)』を挙げてみよう。このタイトルに馴染みのない方は多いかもしれない。ファーガソンの歌心をヴァイオリンへの憧れという仮説から考察を始めた本稿なので、もしもファーガソンがオーケストラと共演したら?というテーマを取り上げてみた。驚くかもしれないが、このテーマにうってつけの演奏が残されているのだ。
時は1959年。交響曲第2番『TITANS』を演奏するのはファーガソン。オーケストラはニューヨーク・フィルハーモニック。指揮は、あのレナード・バーンスタイン。作曲者のビル・ラッソは、1950年代にスタン・ケントン楽団でバルブ・トロンボーン奏者を務めた。退団後は交響曲や合唱曲も手がけている。名門フィルハーモニックをバックに、ファーガソンは実に堂々とした演奏で観客を魅了する。この曲は敢えて細かい解説は省くとしよう。読者の皆さんはこの演奏から何を感じるだろうか。

「NEW YORK PHILHARMONIC /Bernstein LIVE」
さいごに
いかがだったろうか。ここ数年間、ずっと頭の中で考えてきたことを文章にしてみた。今回紹介した曲やアルバムも、以前はレア作品として入手は難しかったものが多い。だが、昨今は楽曲のネット配信も広く行われるようになり、レア盤のCDリリースも含めると触れやすくなっている。何はともあれ、今回紹介した楽曲を聴いてみてほしい。
今回の仮説はまだ考察途中だが、これからファーガソンの曲に触れる際に、思い出していただければ嬉しく思う。もしも、このヴァイオリン曲やオペラをファーガソンが演奏したら。。。ファーガソンのパートをヴァイオリンで演奏してみたら。。。その時、今回の仮説だけでなく、きっとファーガソンのロマンティストな面にも気づくに違いない。
この考察の旅はまだまだ続く。近いうちに、新しい発見をお届けできれば幸いである。

















