トランペット記事 俺のハイノート「成層圏(Stratosphere)」に焦がれた漢たち
  トランペット記事 俺のハイノート「成層圏(Stratosphere)」に焦がれた漢たち
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ファーガソンに学ぶ オレ流ハイノートヒッターの“育て方”

俺のハイノート「成層圏(Stratosphere)」に焦がれた漢たち

LESSON

トランペット吹きなら誰でも一度は夢見るハイノートヒッター。しかし、そこに辿り着くのはごくわずかな選ばれし者たちだけ、と思って諦めている人も多いのではないか。そこで今回は、ハイノートヒッターの代名詞でもある。メイナード・ファーガソンに憧れて鍛錬を積み、その頂に到達した本邦の名手に話を聞き、その秘技を探る。
(文:埜田久三朗)

喇叭吹きは、成層圏に憧れ続けてきた

Maynard Ferguson
Maynard Ferguson
メイナード・ファーガソン
 

その昔、トランペットを吹くことは秘儀だった。特に、トランペットで高い音域をきらびやかに奏でることは憧れであり驚異であり、時に「脅威」でさえあった。トランペットは常に闘いの最前線にあり、そのよく通る高い音は司令部の命令を遠くまで伝達する「武器」だった。それゆえ、ヨーロッパの中世において、トランペットを吹き鳴らすことができるものたちは時の権力から珍重され、彼らはやがて職能組合(ギルド)を結成した。その技能が決して一般にもれることがないように細心の注意を払ったわけだ。当時のトランペットは現在の倍の長さの円筒管と、急激に開いた小さなベルを持っていた。長い円筒管と小さなマウスピースが生む豊富な倍音列の高次倍音を駆使して、ヴァルヴなどの操作なしに(そもそも当時は「ヴァルヴ」などという概念すらなかった!)自在に音階を操ることができる彼らは尊敬され、その他の楽士たちよりも高い給与と名誉を恣(ほしいまま)にしていた。

 

バロックの時代になり、バッハがブランデンブルグ卿のもとで6つの協奏曲を完成させた当時も、第8倍音以上を自在に飛翔することは至難の業であり、それを吹きこなせたものは拍手喝さいを浴びていたはずだ、ところが、文明の激しい揺籃期だったルネサンスの動乱の中でその技術はなぜか忘れられ、それがよみがえったのは金属加工が容易になった近代。当時と比べて半分の長さの管をベースに、基本的には3つの長さの異なる管体を合体させ自在に切り替えることのできる「ヴァルヴ」システムが装着されてから、ちょうど人類が「飛行機」という新たな翼を得て、青空の上にある「成層圏」を意識し始めたのと時期を同じくして、世界のトランペット奏者たちもまた第8倍音より上の音楽的「成層圏」を、改めて意識し始めたのである。

 

そして、さまざまな試行錯誤ののちにようやくピッコロ・トランペットが試作され始めた。そして20世紀に入って本格的にピッコロトランペットが完成(1950年ごろ)するより前、新大陸アメリカでジャズが生まれ、1917年に初めて収録された。その世界でもより高い音=「成層圏」を飛翔することのできるトランペット奏者は多くの人気を集めた。
かのルイ“サッチモ”アームストロング(1901-1971)も、若かりし日には誰よりも「高く」誰よりも「早く」誰よりも「大きく」トランペットを吹き鳴らすことができる漢として大人気を博していたのである。現在残る録音から考えると、サッチモもまた「成層圏」への憧れを刺激し続けることが商売に結びつくことを肌感覚として実感していたのでは、と思われる。彼や、彼を追いかけ模倣した名手たちの残した録音では、数多くのスタンダード・ナンバーが、通常親しまれてるキーよりも数度高いキーで演奏されている。そして、トラディショナルな集団即興から楽器編成が整理され「ビッグ」バンド(人数は十数名と「少人数」ではあるものの、その前段階から比べれば充分「ビッグ」だったのだ)となった時代、響き渡る高い音で文字通りバンドをリードすることから、トランペットの首席奏者は「リード」と呼ばれるようになった。デューク・エリントン楽団で活躍したウィリアム・アロンゾ“キャット”アンダーソン(1916-1981)は、ビッグバンド・スタイルにおける最初期の「成層圏」征服者(Conquistador)として名高い。

 

そしてまさにその「Conquistador」をタイトルにしたアルバムで世界の音楽ファンをとりこにしたのが、ウォルター“メイナード”ファーガソン(1928-2006)(以下「MF」と略す)。管楽器の自然倍音列において第16倍音以上を「ダブルハイ」領域、そして第24倍音以上を「トリプル」領域……などというようになったのは、MF登場以降ではないだろうか。もし『黒い炎(原題:Get it On)』の世界的大ヒットで名高いビル・チェイス(1934-1974)が飛行機事故で急逝しなければ、もしかしたら最初の「征服者」は違っていたかもしれないが、ともかく歴史はMFを選んだ。ジョン・バークス“ディジー”ガレスピー(1917-1993)やジョナサン“ジョン”ファディス(1953-)、そしてアルトゥーロ・サンドヴァル(1949-)に代表される中南米の数多くのトランペット奏者たちも「成層圏」を得意としていたが、彼らではなく、ジャズ・ファンのみならず多くの人類が拍手喝采を送ったのはMFだった。
そう、MF以前にももちろん、この領域でのトランペット演奏はもてはやされていたのである。しかしそれらはバンド演奏の最高潮のポイントで繰り返され、興奮をいやがうえにも盛り上げていく「効果音」にすぎなかった。筆者の管見にすぎないかもしれないが、この音楽的「成層圏」で自由闊達に謳いあげる技術と歌心をもっていたトランペット奏者は、MF以前には皆無だった。さらにいうなら、「成層圏」という言葉でこの領域を意識することも、MF以降の慣わしでは……と筆者は推察している。「成層圏=Stratosphere」という名詞を形容詞に変化させた「Stratospheric」という言葉にその名前そのものが刻まれているエリック・ミヤシロ(1963-)は、MFの衣鉢を継ぐ一人として世界的に高い評価を得ている。令和日本を代表するスーパービッグバンド「小曽根真Featuring No Name Horses」を始め、ジャンルを問わず八面六臂の活躍で魅了する彼なくして現在の音楽界を語ることは不可能だ。そんなエリックにも負けず劣らず「成層圏」に憧れ、MFの音楽に深い愛情をもって臨もうとする優れた漢たち=ハイノートヒッターが、続々と生まれている。そのなかの一人が「Official髭男dism」のサポート・メンバーとしても活躍するFIRE HORNSのAtsukiだ。

 

次ページへ続く>>>
・「成層圏」での本格的な「飛翔」は、憧れから始まった Atsuki(FIRE HORNS)
・ファーガソンのサウンドを追求して15年 三宅コージ(MFTB)

 

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