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金澤恭悦のリペアマンへの道! サクソフォンバランス調整編 その1

wind-i mini 9号 -第3回-

第3回 サクソフォンバランス調整編 その1

代官山音楽院、管楽器リペア科で行なわれる実際の授業を追いながら、代官山音楽院管楽器リペア科主任講師の金澤恭悦先生にリペアの基本、そしてその技術が現場でどのように活かされているかを解説してもらうこのコーナー。第3回となる今回からはサクソフォンのバランス調整を2回に分けて勉強していきます。調整とひとことで言っても、チェックするところは山ほど……!

前回から今までの授業で、分解組み立てをひと通り行ないました。今度はその作業を何回も反復し、キィの形状や手順を覚えます。チラッと横目で次のキィのある位置を確認しながら、次に行なう作業をイメージできるようになるのが理想です。ひとつ手順を間違えてしまうと、何個もキィを外さないといけなくなる場合もあるのでミスは厳禁です。そして、さらに素早くやるためには、ドライバーが外れないようにしっかりセットした上で、滑らせずに早く回せるようにならなければいけません。お客さまがお待ちになっているわけですから、我々プロとしては最短の時間で最良の状態にしなければなりません。

次はキィコルクの張替えです。サクソフォンは場所やメーカーによって、フェルトやコルク、またコルクでも合成コルクや天然コルクを使い分けます。まずは一番基本的な天然コルクを使って交換作業を行ないました。そのコルクを紙やすりで削りながら開きを調整します。開きをキープするためには合成コルクが適していますが、キィの雑音を消すためには天然コルクが優れています。
どこにどのコルクを使うかは非常に難しいところで、メーカーによっても異なります。メーカー別の仕様も将来的には覚えていかないといけませんね。実習用の楽器はこうだけれども、こういう場合もあるよという知識を教えています。

コルクを接着剤で貼り付け、片刃カミソリで整形コルクを接着剤で貼り付け、片刃カミソリで整形します

さらに針バネの交換も行ないます。楽器を構成するパーツの交換をひと通りやっていくわけです。
針バネと板バネという形状の異なるバネを組み合わせて使っています。鋼材(熱を加えて強化した鉄)、ステンレス、そして最近はあまり見かけませんが普通の鉄バネを使っている楽器もあります。針バネは繊細なタッチ感を出すために先端が細くなっていますが、ステンレス製のものは太さが一定なので、あるテンションで押し続けないといけないような感覚があります。

針バネこれが針バネ
板バネこれが板バネ

針バネの交換は、キィポストの中に工具を使って針バネを押し込みます。最初よりもさらに幅広いバネを入れないと緩んで外れやすくなってしまいます。工具は宝石を加工する工具と共通している物が多いので、上野御徒町の宝石工具の店に行くと便利な道具がたくさん手に入ります。リペアマンにとっては遊園地のような場所です(笑)。

バネを押し込むための工具バネを押し込むための工具

私は授業を富士登山になぞらえています。まずは引率付きで、疲れづらく落石もない安全なルートで登ってみる。今はこのルートを登るけれど、ルートはこれだけではなく、あちらにもこちらにもあるよね、という教え方を基本としています。先生にこう教わったからこうなんだ!と固執してしまう生徒もいますが、いつも柔軟な発想をすることがリペアには必要なんです。

 


Profile|金澤恭悦

69年日本管楽器(株)入社。日本管楽器製造(株)(現ヤマハ)と合併後、本社にてクラリネットの開発に携わる。77年に開設された「ヤマハアトリエ東京」の初代スタッフとして木管楽器の専門家対応を22年間担当。特にサックス奏者ソニー・ロリンズ氏からの信頼は厚い。更に北米の修理技術を視察、アジアにおいても技術指導を行うなど海外でも活躍。現在は代官山音楽院主任講師、リペア工房atelier kanazawa主宰。

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