クレオパトラの鼻が、1cm低ければ歴史が変わっていたかもしれない、といわれたエジプト女王の話は、「クレオパトラ」(63年、米)を世界一の美貌と言われた女優、エリザベス・テーラーが演じたことで歴史に残る大作となった。
シーザーへの献上物=カーペットの中に自らの肉体をもぐりこませ、くるくると巻き延ばししながら登場するクレオパトラ・アプローチは、女性の武器の最高峰。最高の美貌を持つ上に、男性を喜ばせる技で、地位をつかみ、野心的な女が権力を握るパターンだ。
女王は、砂漠の暑い国では、薄手の生地のロングドレスが中心で、身分差を出すため、首飾りや腕輪、足輪をつけるがやがてシーザーとの子どもを民衆に披露するパレードでは、黄金づくしのドレスアップで、スフィンクスの神輿に乗って登場。
もはや女性の愛らしさも媚びもなく、権力を誇示していく、女王の座をつかみ取った威厳である。
製作会社を倒産に追い込んだとまで言われる巨額の制作費のなかで、エリザベス・テーラーの今作の女王ファッションは、常に美しいバストをフィーチャーし、くびれたウエストとのナイス・バランスを生かした、ボディ密着型のシンプルなドレス。
子どももなく、気力を失い始めた初老のシーザーにとって、彼女のふくよかな胸と腰を強調した女の性的アピールは、男の気持ちを大いに触発し、歴史を左右するドラマへと展開させた。
蛇足だが、女の地位への野心は、男心をくすぐることから始まるのは、女王でなくてもありうる話だろう。
残念ながら、それでは男女がいつまでも同等にはならないというのに……。
一方、テーラーにくらべて、クールなキャラのマレーネ・ディートリヒが「恋のページェント」(1934年、米)で演じたのは、ロシア女帝エカチェリーナ2世。
野心的な母親の期待からロシア大王のところへ嫁がされた小国の姫の話だが姑の存在により、低姿勢の“おしん”状態がつづくも、お世継ぎの男子を産んだところから、支配力を見せる女王に変貌する。
いずこも女王は、いや一部の女性も、男子を産むことで、偉くなってしまうようだ。
周囲がそうさせるのだから、仕方ない。
ただしここでは、お世継ぎは見知ら男性との間にできた息子という王への復讐が裏にある。
ディートリッヒは、いわゆる腰を張らせた宮廷ファッションの針金入りスカートは着用せず、マニッシュさが板についている。
さらにマニッシュな女王で、「クリスチナ女王」(1933年、米)のグレタ・ガルボは、17世紀のスウェーデン女王を演じた。
王の妻ではなく、王位継承者の女王である。誕生時は毛深く、男子と間違われて期待されたが、女子であったことから落胆されるも父親により、後継者に指名されたことで、帝王学を学び、騎馬、剣術、狩猟まで習った。
かくして、6歳で父親を失くし、王位を継承したクリスチナ女王は、老僕を従者に持ち、当たり前のように政務をこなした。
ガルボの淡白で清楚な美貌は、ジャケットとパンツの王子風ファッション。つばの広い黒の帽子や黒いスーツが、少女マンガのヒーローを思わせる。
クリスチナ女王本人は、ドレスやリボンの装飾品に興味がなく、結婚にも興味がなく、男のような靴を履いていたという。
このように父親に理解された娘を心理学用語で、「父の娘」と言うが、帝王学を身に着けた継承者の女王が、なぜ男子である必要があるのだろうか……?
また、イギリスのエリザベス女王1世は、25歳で即位し、国内の貴族や他国の国王たちから結婚のアプローチを受けながらも、独身を通した女王。
ただファッションには敏感で、イギリスで始めてストッキングをはいたり、後頭部に張り出した羽のような襟とマントつきの、威厳に満ちたSFっぽいドレスは、「みなの者、簡単に近寄るな」、という女王ならではの風格を示した。
エリザベス女王に関する映画化作品は現代の王室ものを含めるといろいろあるが、1世と2世の間には300年以上の隔たりがある。
映画では、ヘンリー8世の次女、エリザベス1世を描いた「エリザベス」(1998年、英)が秀逸だ。

当時、赤毛とそばかすの女王に敬意を表して、赤毛のウィッグに宝石や孔雀の羽根をつけたヘア・スタイルが流行したが、ここでは、マニッシュな知性派ケイト・ブランシェットが、眉をつるつるに剃り、実物に近づける素顔メイクに挑戦。
男も顔負けの力で、国を治めるに至った女王の生い立ちや過去のいきさつがドラマチックに描かれる。
虐げられた幼少時代、恋人からの裏切りを乗り越え、即位したエリザベスが、今度は女性として政治は無理だと烙印を押されそうになり、すばっと切り返すセリフが潔く、女王ならでは。いや、ケイト・ブランシェットならではか。
「わたくしは、ただの女ではありません。男の心を持った女です。」
また、結婚に関するコメントは、自分らの決意のもとに言った。
「私は、イギリス国家と結婚します。」
その大胆にしてストイックな断言ぶりが、リーダー資質を背負う女王らしく、事実それを実行した。
この男勝りの女王気質は、女性が強くなった時代、より共感が得られている。
城壁のような、格調高いファッションは、かくも筋金入りの思想や生き方をもってして、価値があるのだ。
エリザベス1世ヒロインは、続編「エリザベス・ゴールデンエイジ」(2007年、米)でもさらにダイナミックに描かれ、治世の最盛期、メアリー・スチュアートをめぐる陰謀、ウォルター・ローリーとのストイックなロマンス、スペイン無敵艦隊との戦いなど、ケイト・ブランシェットならではのはまり役で、生まれながらの女王気質を表した。
女王のヒロイン像は、血族による気質や教育から、リーダー資質を備える土壌がある。
女王エリザベス1世は、堂々と言い放った。
「わたくしは、ただの女ではありません。男の心を持った女です。」
スクリーンいっぱいに映し出されたケイト・ブランシェットのセリフ使いが、新しい。
「エリザベス」
(1998年製作/124分/イギリス)
原題:Elizabeth
配給:日本ヘラルド映画
監督:シェカール・カプール
出演:ケイト・ブランシェット、ジョセフ・ファインズ、ジェフリー・ラッシュ

木村奈保子
作家、映画評論家、映像制作者、映画音楽コンサートプロデューサー
NAHOKバッグデザイナー、ヒーローインターナショナル株式会社代表取締役
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