THE FLUTE140号インタビュー

サー・ジェームズ・ゴールウェイ

モイーズの「日課練習」をしっかり、かつ丁寧に練習することが、テクニックを身に付けるうえでとても大事だと語ったゴールウェイ氏。具体的に、どんなことに気をつけて
練習すればよいのか、より詳しく伺いました。

ゴールウェイ

【モイーズの「日課練習」では、楽譜の最初のページに半音階があります。皆さん頭では半音階がどのようなものかを理解しているので、「これは練習する必要がない」と考えてしまいがちです。しかし、半音階はほとんどすべての曲に出てきます。(ここで、ゴールウェイ氏が半音階が出てくるいろいろな曲を模範演奏!)半音階は曲の中で練習するのではなく、それとは別にきちんと練習しなければなりません。】

【俳優のアーノルド・シュワルツェネッガーは、筋肉隆々ですよね。映画で銃を構えた姿を見ると、腕の筋肉がすごい。ここもあそこも筋肉で、私たちが想像する以上に多くの筋肉がついています。なぜなら、彼がシュワルツェネッガーだから? 違います! 様々な筋肉をつけるために、特別なメニューで毎日コツコツとトレーニングしているからなのです。

ゴールウェイ

 

フルートも同じです。毎日、アンブシャーの柔軟性、音階、指の技術などをコツコツと練習しなければなりません。音階は、ただ音符をなぞって吹くだけではいけません。様々な表情をつけて音楽的に練習します。この方法で練習して、初めて曲に応用することができます。そして、エチュードです。私がパリ国立高等音楽院にいた頃は、週に一度、音階練習とエチュードだけを学ぶクラスがありました。モイーズの「日課練習」ABCDを、クラス全員が聴いている前ですべて吹かなければなりませんでした。終わるまでに35分かかります。そしてエチュードをこのように吹きました。(アンデルセンのOp.15No.1、ベームの24のカプリスNo.1を、速いテンポで見事に演奏!)】

すごく速いテンポですね!

【どうしてこんな速いテンポでベームを吹くのかわかりますか? Vivaceという指示があるのにゆっくり吹いたら、作曲家はがっかりして死んでしまうでしょう(笑)。ケーラーの1巻No.1のようなシンプルなエチュードもあります。楽譜を理論的に読めば、スタッカートは“短く”ですが、良い音楽として聴いてもらうには、このように吹きます。(今度は、ケーラーをとても音楽的に演奏)
これが、プロということです。プロとしてやっていきたければ、楽曲分析が大事です。イベールのコンチェルトを練習しても楽曲分析は学べません。音階を音楽的に練習することが大切なのです。】

トークイベントでも、音階を練習することの大切さを語っていたゴールウェイ氏。コツコツと積み重ねていく地道な努力が、上達への早道なのだということがとてもよく伝わってきたインタビューでした。

 

サー・ジェームズ・ゴールウェイ Sir James Galway

北アイルランドのベルファスト生まれ。ロンドンとパリに学び、いくつかのオーケストラを経て、1969年から1975年までカラヤン率いるベルリン・フィルの首席フルート奏者を務める。1975年からソロ活動に専念した後も、世界の一流オーケストラ、指揮者と共演。室内楽やポップスのコンサートにも参加し、マスタークラスも行なっている。幅広いレパートリーの楽曲を録音し、民族音楽のアルバムも数点制作した。映画「ロード・オブ・ザ・リング」のサウンドトラックでも演奏を披露している。現在は指揮者として、ロンドン・モーツァルト・プレイヤーズの首席客演指揮者も務めている。多くの業績と音楽による社会貢献が認められ、2001年6月にエリザベス女王からナイトの称号を授与されている。



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