THE FLUTEオンライン記事:THE FLUTE vol.161特集「ドビュッシー、ラヴェル…フランス音楽に出会う」
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フランス音楽の中のフルート ―フルートオンライン特別編―

THE FLUTE vol.161特集「ドビュッシー、ラヴェル…フランス音楽に出会う」

本誌の今号特集では、ドビュッシーやラヴェルをはじめとするフランス音楽について紹介。彼らの音楽が私たちを魅了する背景や、フルーティストならではの視点による作品解説を掲載しました。
ここではスペシャルバージョンとして、本誌にもご寄稿いただいた若林かをりさんによる『シランクス』特別編をお送りします。また、北川森央さんがこの12月10日に行なったレクチャー講座「フランス近代、フルートの黄金時代」のレポートもお届けします。 

『シランクス』特別編 - 若林かをり

テオバルト・ベーム(1794-1881)によって、今日のフルートの基礎となった「ベーム・システム・フルート」が完成された19世紀。当時、全ヨーロッパの音楽学校の雛形的存在だったパリ高等音楽院で、1860年に公認されたこの新しいメカニズムの楽器のために、パリの第一線で活躍する作曲家たちが多くの作品を創作しました。19世紀後半から20世紀にかけて、フォーレの「ファンタジー op.79」、ゴーベールの「ノクターンとアレグロスケルツァンド」、シャミナードの「コンチェルティーノ」、エネスコの「カンタービレとプレスト」、デュティユーの「ソナチネ」、メシアンの「クロウタドリ」……これら、パリ音楽院の卒業試験として作曲された作品を一覧してみるだけでも、私たち現代のフルーティストにとってかけがえのないレパートリーであることがわかります。(著名な作曲家たちが、卒業試験のために新曲を書き下ろしていたことも驚きです!!)

余談になりますが、フランスに留学経験がある筆者が、フランス語を学んだ際に感じたことがあります。それは、フランス語の発音(特に〈e〉の音)が、フルートの音色を作る際にとても密接に関係しているということ。アンブシュアや音色に問題を抱えている方は、ぜひ一度、“フランス語の母音”を発音するようなイメージで、フルートを吹いてみてください!

ところで、ドビュッシーが活躍した頃のパリでは、日本美術がちょっとした流行になっていました。これは一般的にジャポニスムといわれています。画家のモネやゴッホが、浮世絵をはじめとする日本美術のコレクターだったことは有名で、ドビュッシーもまた、自室に浮世絵を飾るほど、日本文化に魅せられていた一人でした。ドビュッシーの代表作の一つである交響的素描「海」の初版の表紙に、作曲者の希望によって、葛飾北斎の「富獄三十六景・神奈川沖浪裏」のイメージが使われました。1889年のパリ万国博覧会でガムラン音楽に衝撃を受けたというドビュッシーが、日本の雅楽や、ジャワ・東南アジアの音楽に興味を持ったのは自然な流れだったといえるでしょう。

葛飾北斎
葛飾北斎の浮世絵「神奈川沖浪裏」

ドビュッシー,海
『海』初版スコアの表紙

 

わたしたちが西洋文化……絵画や音楽やお料理、ファッションに惹かれるように、100年以上前のヨーロッパで西洋の人々が、日本の文化(東洋の文化)に出会い、興味や憧れを持って接していたことを想像してみてください。そして、それが、なんらかの形で彼らの文化や創作活動に影響していたとしたら……たとえば、ドビュッシーの「シランクス」やラヴェルの「マダガスカル島民の歌」のような素晴らしい作品を生み出すことに一役買っていたとしたら……想像を膨らませるほど、なんだかワクワクした気持ちになるのは私だけでしょうか。

若林かをり


わかばやし かをり●東京藝術大学卒業後、ムラマツフルートレッスンセンター講師を経て、渡仏。ストラスブール音楽院、ルガーノ音楽院を修了。修了論文のテーマは『日本文化……時間と空間の総括概念である“間”が、ヨーロッパの現代音楽にもたらした影響について』。“間”をキーワードにしたドビュッシー以降のヨーロッパ及び日本のフルート作品による卒業演奏審査で、満場一致の満点を獲得。
2015年より現代作品による無伴奏リサイタル「フルーティッシモ!」を展開。活動の様子は、ビルボード・ジャパンサイトや、日経新聞電子版「ビジュアル音楽堂」、クラシック音楽情報誌「ぶらあぼ」などで取り上げられている。現在、和歌山大学教育学部非常勤講師。 若林かをり 公式サイト
日経新聞電子版「ビジュアル音楽堂」(ドビュッシーに関する若林さんのインタビューが掲載されています)

 

Report:「フランス近代、フルートの黄金時代」

北川森央

2017年12月10日 朝日カルチャーセンター新宿
【講師】北川森央 (ピアニスト:三浦友理枝)
【プログラム】ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲/シリンクス、フォーレ:ファンタジー、ゴーベール:ノクチュルヌとアレグロ・スケルツァンド、プーランク:フルート・ソナタ

 本誌161号特集「フランス音楽の中のフルート」で、『牧神の午後への前奏曲』についての作品解説に登場いただいた北川森央さん。フルートのフランス近代作品において外すことのできない重要なレパートリーであるこの曲を、奏者ならではの視点から語っていただきました。そんな北川さんが、レクチャーしながら演奏も披露する1時間半の講座を開催。自身のライフワーク的存在でもあるフランス音楽作品について、大いに吹いて語る、充実した講座となりました。 当日の模様を、編集部がレポートします。

本誌記事と同じ『牧神の午後への前奏曲』から始まったレクチャー。30人余りの受講生を前に、場を和ませ、笑いも交えながらフランス近代の音楽を語る―その話術に、聞き手はぐいぐいと引き込まれます。北川さんによるレクチャーコンサートは、これまで行なったバッハに関するものなども大変好評を博したとのことでしたが、実際に参加してみると実に納得させられるのでした。「この曲は、数年後に20世紀を迎えるという時期に作られました。『前奏曲』というタイトルも、そんな新時代への“前奏曲”という意味を含んでいたんです。曲調も、それまでの音楽とは一線を画す、調性のない何とも不思議な雰囲気のもの。まさに、次の時代への幕開けにふさわしい音楽だったといえるかもしれません」 そんな解説からはじまり、さっそく名器ルイ・ロット(1867年製)で奏でる音楽は、フランス音楽の面目躍如ともいえるやさしく柔らかい音色。 本誌記事では、冒頭のフルートソロについて、ゆったり吹いて24秒のこのフレーズを「一息で吹くか、途中で吸うか、それが問題だ…」と述べ、「私が吹く場合は、一息です」と書いていた北川さん。このときは……もちろん一息で朗々と、吹いていらっしゃいました!

 

北川森央
北川森央さん


三浦友理枝さん

 

この後も、かつて苦労に苦労を重ねながら練習したフォーレの『ファンタジー』が、手に入れたルイ・ロットで吹いた瞬間に思い通りの表現ができた……などといった逸話を交えながら、聞く人の心を掴んで離さないレクチャーと演奏が続きました。 プログラムにはなかったものの、この時代のマスターピースともいうべき作品『ボレロ』についても、お話されていました。曰く、「ボレロの出だしは、静か~に始めるよりも、実はもっと楽しげな音楽にしていいんじゃないかと僕は思うんです。静寂の音楽というよりは、もっと土の香がする音楽。オーケストラの曲なのでどんな演奏になるかは指揮者次第ですが、『シーーーッ』と静かなのではなく楽しげに吹いていいんだよ、と言ってくれる指揮者だと、本当に楽しく演奏できるんですよ」 ……まさに、経験豊かな奏者ならではの視点からのエピソード。普段フルートに親しんでいる人から、特にフルート音楽に詳しいわけではない人までさまざまな人たちが混じり合う受講生たちでしたが、『ボレロ』の出だしの緊張感といえば、誰もが「あぁ」と思い出すもの。そんな思いで奏者は演奏しているものなんだなあ、ときっと皆さんも感慨深かったのではないでしょうか。

最後に、アンコール曲として演奏されたのはフォーレの『コンクール用小品』。パリ音楽院の初見用試験曲として作曲され、コンパクトながら素晴らしい曲、というエピソードとともに披露されたこの曲であっという間の1時間半が締め括られました。 余談ではありますが、この『コンクール用小品』、本誌特集の中にも楽譜を掲載しています。興味のある方は、ぜひ手にとって演奏してみてください。試験曲ということを忘れるような、本当に素敵な作品です。

北川 森央


きたがわ もりお●横浜生まれ。玉川学園にて豊かな音楽教育を受け、11歳よりフルートを始める。東京藝術大学附属音楽高校、東京藝術大学卒業。同大学院修士課程及び博士後期課程修了。博士(音楽)。東京藝術大学教育研究助手、新日本フィルハーモニー交響楽団契約団員を経て、現在、聖徳大学音楽学部准教授、東京藝術大学および上野学園大学非常勤講師。横浜シンフォニエッタフルート奏者。

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